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大人がハマる夢と浪漫あふれる品々ー骨董の世界

ISSUED | 2020.06

 

深淵なる骨董の世界――。ついつい敷居の高さを感じてしまう骨董品や古美術も、専門家の指南があれば、もっと身近に感じるに違いない。今こそ、本物の価値を求めて、骨董の世界を体験してみよう。
Text_KUMIKO ASAOKA. Photographs_HISHO HAMAGAMI.


骨董屋は、良いものを次世代へと伝えてゆく橋渡しです

海老屋美術店 九代目当主 三宅正洋氏

日本橋室町三丁目――「お江戸日本橋」の一等地に代々店を構える『海老屋美術店』。九代目店主の三宅正洋氏は、誰からも愛される生粋の“日本橋の旦那”だ。そんな三宅氏に骨董の世界の楽しみ方をお話しいただいた。



店長 山田聖貴さん

REN

東京都中央区日本橋室町 3-2-18
TEL:03-3241-6543
URL:http://www.e-ebiya.com/

  • 大都会にたたずむ『海老屋美術店』。写楽の描いた市川海老蔵の壁絵がシンボルだ。その昔、この界隈は十軒店(じっけんだな)と呼ばれ、人形師や羽子板・破魔弓の名工たちの店が軒を連ねたという。

  • 店の雰囲気やしつらえにも日本橋の骨董品店らしい江戸情緒があふれる。

  • 店の雰囲気やしつらえにも日本橋の骨董品店らしい江戸情緒があふれる。

古の世界へと誘う古美術店

 日本橋三越本店の並び、三井本館ビル隣の一角にたたずむ『海老屋美術店』。店内からは、再開発著しい街の新たな貌を描きだすビル群を眺めることができる。

 創業は延宝元年(1673年)。現店主の三宅正洋氏で九代目を数える。三宅家のルーツは京都だ。代々、御所に納める蒔絵や銀器等を扱う御用商だったという。

「絵付師、塗師などの職人を抱え、品々を御所にお納めするまでのすべての流れを取り仕切っていたようです。遷都した際に御用商たちも江戸・東京に移ってきましてね、私たちも明治四年から、この地に居を構えています」

 日本橋・京橋界隈は、今も昔も古美術・骨董のメッカだ。特に東仲通り付近は、通称〈京橋美術骨董通り〉と呼ばれ、戦前は魯山人をはじめとする数寄者(風流人)たちや旦那衆が数多く集った。江戸から明治にかけて、三宅氏一族のように、江戸城に出入りする御用商や武家の御道具修理を担う道具師たちが数多く腰を下ろしたことからその歴史が始まったのだろう。

「祖父が店主をしていた昭和の初め頃、宮内庁御用達の品々や制度自体も大きく変わりましてね、新たに古美術商というかたちで仕切り直したのが、『海老屋美術店』の始まりです」

 三宅氏は、大阪での修業時代を経て、早くも三十代で先代の父の後を継ぎ、独り立ちした。〝気難しそうな〞骨董品店の店主のイメージとは無縁の親しみやすく、穏やかな語り口と和やかな笑顔が印象的だが、実は50年来のディープな中日ドラゴンズファン、〝おやじギャグ連盟〞初代名誉会長、店でも、街でも一本歯の高下駄で闊歩し、周囲の耳目を集めるパンチの利いた個性派ナイスミドルだ。店の雰囲気やしつらえにも、気さくな〝日本橋の旦那〞らしい心 意気が随所に感じられる。

骨董商の役割と営みのかたち

 ついつい敷居の高さを感じてしまう骨董の世界。糸口をつかむべく、まずは骨董品店の役割について尋ねてみた。

「骨董屋というのは、世界に一つしかない逸品を次の世代へと伝えてゆく橋渡しの役目だと思っています。もちろん、稀少価値の高いものでなくとも、古の人々が愛した物、それ自体が側にあるだけで、浪漫や想像の世界がグッと広がるじゃないですか。そういう思いを多くの方々と分かち合える面白さもありますねぇ」

 ーー浪漫と想像の世界ーーまさに、その世界観を私たち個々の中に描きだしてくれる水先案内人が骨董品店の店主だ。骨董屋は店主の個性が命。だから、一癖も二癖もある店主が面白い。

「骨董を買うということは、買い手が店主という〝人を買うーーすなわち相手への信頼と信用を買う〞ことなんですね」

 目の前にある創作物に、本来の、いやそれ以上の価値を与え、後世へと価値づけてゆくのは、店主の眼識と心意気、そして、情熱に他ならない。買い手は、店主に全幅の信頼と信用を託し、それを自らのものとするーー。これが、古来脈々と受け継がれてきた骨董商の営みのかたちだ。良い作品やモノとの出合いの第一歩は、まず何よりも良い店主との 出会いからなのだ。

PROFILE


三宅正洋 氏

1962年生まれ。生まれも育ちも日本橋室町。大学卒業後、大阪の骨董品店で修業。骨董品商の仕事は、お客さんからの信用や人間としての基本や器が大切との師匠の言葉により、炊事、洗濯、箸の持ち方まで徹底的に叩き込まれる。その後、30代で父の後を継ぎ、『海老屋美術店』九代目店主となる。「本物は、違う発見を与えてくれるんです。自分自身の目を信じて購入した品々を日々味わってこそ、初めて本物を知ることを学びましたね」と自らの修業時代を振り返る。

一本歯の高下駄に“ドラゴンズ前掛け”という個性的ないでたちで、ややシャイな感じも魅力な三宅氏。


店主の人間力がモノをいう骨董品店の商い


右).七~八世紀頃の〈須恵器長頸壺(すえきちょうけいこ)〉198,000円。これは熱で歪んでしまった失敗作で、「破れ壺」などとも呼ばれる。失敗作も味わいが楽しめるのが骨董の魅力だ。
左).鏡〈鏡台〉12,000円と〈箪笥〉12,800円。日本橋の花柳界を見守ってきたのだろうか…、はたまた、どこかの商人の物だろうか。ついつい、そんな想像が掻き立てられる粋な品々。

とにかく楽しい、お宝との出合い

 では、『海老屋美術店』の逸品を紹介しつつ、骨董品店の商いを覗いてみよう。

 品揃えに関しては、基本的に店主が各地の専門業者や「交換会」と呼ばれる骨董品商向けの競りに出向き、自らが気に入ったものを選び、仕入れる。よって、店主の知識は元より、本質を見抜く審美眼や感性といった人間力が圧倒的にモノを言う。

 店内を一望すると、豊富な品々は煙管や文鎮などの工芸品、掛け軸、茶道具、そして、舶来品や家具…と多岐にわたる。三宅氏の人となりを大いに語るようなワクワク感を掻き立ててくれるものばかりだ。

 三宅氏が最も好きなジャンルというのが、江戸後期の知られざる絵師たちの作品だ。「あの時代の絵師たちのユニークさには頭が下がりますね。現代人なんか太刀打ちできないようなダイナミックな個性が発揮されています」と目を細める。円山応挙や浮世絵師のスーパースターたちが活躍した時代だが、知られざる絵師たちによる百花繚乱の絵図も見過ごせない。埋もれたお宝的作品に遭遇することもしばしばあるという。

 薩摩切子や江戸切子などのガラス工芸品も、三宅氏のオススメだ。

 江戸時代、将軍拝謁で江戸城を訪れる長崎・出島のオランダ商人たちは、日本橋・八重洲界隈を行き交い、室町四丁目の『長崎屋』という薬師問屋を定宿にしていたという。幕末に広まった江戸ガラスは、その昔、長崎から広まった西洋伝来の技術が生かされた〝和製ギヤマン※〞の代表格。何を隠そう、西洋文明の洗礼をいち早く受けた〝お江戸日本橋ゆかり〞の逸品なのだ。

  • 明治時代の〈煙管〉58,000円。吸い口と、雁首と呼ばれる接合部分に、銀色の髑髏と銅製の烏があしらわれている。

  • 西洋伝来の陶器に影響され、京焼の陶工が手描きで絵付けしたものがルーツといわれる〈京阿蘭陀〉の絵皿。オランダ由来の舶来品に強い『海老屋美術店』ならではの逸品だ。

  • 眺めているだけで、どこかノスタルジックな雰囲気のある江戸前小物たち。〈針山〉1個480円〈豆三味線〉48,000円、〈木彫り雀〉38,000円。

  • 眺めているだけで、どこかノスタルジックな雰囲気のある江戸前小物たち。〈針山〉1個480円

店や店主と良い関係を築く

 最後に、骨董品店や店主と、どのような関係を築いてゆくのが理想なのだろうか?

「まずは、ご自身で骨董品店を訪ね歩いて、馴染みの店を見つけると良いと思います。人同士の付き合いですから、相性もありますし、信用をおける間柄になるまで、一つ決めたら、まずはじっくりとお付き合いしてみるのがいいですね。

 あと、骨董品は決して金銭的な価値がすべてではありませんので、まずは、少額でも、ご自身で〝これぞ〞と思った品を集めてみてください。実際に毎日使って、触れてみて、何か物足りないな…と思ったら、〝もう少しだけイイモノを買ってみようかな〞って思うじゃないですか。そういうのが、また楽しいんですよ」

 過去を語り、未来を紡ぐ骨董との純粋な出合いーー。知らず知らずのうちに、大いなる浪漫と夢を掻き立ててくれるに違いない。

  • 江戸ガラスは、江戸後期に長崎から広がった。日本橋は、歴史的に長崎・出島との縁も深く、三宅氏は愛する日本橋のためにもこのジャンルを深めてみたいと思ったという。当時のガラス細工には鉛が使われているので金属音の美しい音がするのも印象的だ。

  • 〈5枚セットの小皿〉380,000円。

  • 高麗茶碗の一つで、李朝十六世紀頃の〈刷毛目茶碗〉248,000円。その多くは朝鮮の景徳鎮と呼ばれる鶏龍山で焼かれたという。白磁の使用が許されなかった庶民の為の代用品とされるが、品格のある高貴なたたずまいが美しい。刷毛のような塗目が特徴。



三宅氏が最も好きだという江戸時代後期の日本画から一点。〈友禅 猫ノ図幅〉98,000円。加賀友禅に描かれた猫が実にリアルだ。花鳥柄が多いなか、猫が題材というのは珍しいという。近年、伊藤若冲の評価が高まったことで、江戸後期の知られざる絵師たちにも少しずつスポットが当たりだしたのが嬉しいと、三宅氏は言う。



味のあるメッセージはすべて三宅氏の手書きだ。

※ギヤマン:ガラス製品の古い呼び方。江戸時代にダイヤモンドの意味で使われ、ガラスを切るのにダイヤモンドが用いられたのが由来。
※記載価格は、「海老屋美術店」参考価格(すべて税込)。※商品は売り切れている場合があります。


END

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