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極上の日本酒談義をはじめよう。だから日本酒は、面白い。

ISSUED | 2017.01

 

撮影/都筑清 取材協力/セドリック・カサノヴァ(渋谷区神宮前3-1-14 1F tel.03-6721-0434)

国内はもちろんのこと、海外からも熱い視線を浴びている〝日本酒〞。 馴染みのあるお酒だけについ「いつもの」といいたくなるところだろう。 今回は日本酒をこよなく愛するゲストに、日本酒ならではの楽しみ方を伺った。 日本酒の世界の奥ゆきがさらに広がるだろう。

 2017年、益々、熱を帯びてきそうな日本酒の世界。日本酒はもちろんのこと、食、文化、ライフスタイルなど様々な分野に精通した、フードプランナー・勅使河原加奈子さん、映画監督・石井かほりさん、伊勢丹新宿店和洋酒バイヤー・山本慎吾さんが、日本酒の面白さを語る。

石井 「知人のカメラマンに引っ張ってもらってドキュメンタリー映画の世界に足を踏み入れたわけですが、日本酒と出会ったのもその頃。その方が30歳年上ということもあり、撮影の打ち合わせがいつも小料理屋で。そこで初めて日本酒を覚えました。銘柄云々ではなくて、夏はうなぎの白焼きで冷やだよね、秋は秋刀魚の肝を食べちゃうと日本酒を飲まずにいられないよね、なんていう季節の料理について語りながら、26歳の小娘が贅沢な時間を過ごさせてもらいましたね。
その後かなり日本酒を意識し始めたのは、『ひとにぎりの塩』という作品を作るために、能登で空き家を借りてロケをしていた時。炎天下で撮影した後の冷酒の美味しことったら! その時飲んでいた宗玄酒造から日本酒の映画を撮って欲しいとオファーされて『一献の系譜』を撮ることになったんです」

山本 「そうだったんですか! 私は、お酒が飲めるようになった頃、若気の至りで質の良くない日本酒をとにかく量を飲むような飲み方をして痛い目にあっていました。それを変えてくれたのが、居酒屋で会社の同僚に勧められて飲んだ「〆張鶴」。
あまりの美味しさに、日本酒のイメージが180度変わりました。そして大阪に転勤した時に、灘にある「泉酒造」という酒造に出会いました。灘は大きな酒造が立ち並ぶ一大銘醸地ですが、泉酒造はとても小さな酒造で阪神大震災から15年も経過しているにも関わらず、お酒を売るのに非常に苦労されていました。しかしながら泉酒造の銘柄である「仙介」は非常に高品質でしたので、何とかこの良さを世の中に伝えようと蔵元と二人三脚で邁進して」

勅使河原「仕事柄、食中酒といえば〝ワイン〞という生活。そんな私が日本酒に開眼したのは、2011年の秋。フランス人シェフ、リオネル・ベガ(銀座エスキス)を地方に連れて行くのですが、9月に訪れた大分県の山荘無量塔でいただいた小松酒造の冷やおろしがあまりにも美味しくて!

翌日蔵に行き、杜氏の潤平くん(小松酒造6代目)と出会うのですが、日本酒の酸=欠点、だと思っていた概念が覆りました。小松酒造の日本酒はスパゲッティやカレーにも合うようなお酒で。
さらに翌月には、鳥取県の山根酒造に行って。この蔵は酒造りをとても工夫をされていて、それもその一つだったんですけど、リオネルシェフが一番驚いたのが、雨ざらしになる軒下にお酒のタンクが置いてあること。山根酒造では熟成させた美味しい日本酒を造っていたんです。ワインなら当たり前ですが、日本酒を熟成。衝撃でしたね。これまで海外のゲストには日本酒は熟成しないから早く飲むように、と伝えていたのに!

東京に戻り、もっと日本酒のことが知りたいと思って訪れたのが、地元吉祥寺にある「にほん酒や」。ここでお燗にした「十字旭」をいただいたんですが、ここでも驚きがあって。燗酒の香ばしい香りって、ペペロンチーノにも合うんです。
日本酒が合うのは和食だけではないし、潤平くんやにほん酒やの店主のような若い人たちが頑張っているというのも嬉しかったですね」

石井「先日フランスでも日本酒のイベントをされてましたよね?」

勅使河原「そうなんです! パリに4人の燗付け師を連れて行き、フランスの食と燗酒を合わせました。フランス国家最優秀職人のエリック・トロションシェフのタパスバーで、イベント限定のオリジナルの〝平盃〞を作って提供しました」

山本「へぇ〜、平盃ですか!」

勅使河原「そう!平盃で飲むと、口が「いー」の形になるんですが、舌の端は甘みよりも酸を感じるところなので、燗酒の酸味がダイレクトに伝わるので平盃を持って行きました。酸は肉の脂をさらっと流してくれるし、フレンチには合いますよね」

山本「温かい温度に対して抵抗は?」

勅使河原「フランス人は冒険好きなので見たことがないものへの抵抗も全くなくて100人もの方が飲んでくれました。燗酒の温度と生ハムやチーズなどの融点が同じくらいなので本当に相性が良かった!トロションシェフは、チーズがワインに合うというのはソムリエが勝手に考えた理論、とまで言っていました(笑)。終いには、隣の高級フレンチの常客に食後のチーズにお燗酒を持っていけ、なんて言うほど。〝エポワス〞というウォッシュチーズと「群馬泉」(高橋本店)の燗なんて、最高のマリアージュでしたよ!」

石井「日本酒の布教活動みたい!ものって人がいないと伝わらない」

勅使河原「そうそう。平盃を持っていたのも、日本酒をワイングラスで飲んでいる限り、海外の方は結局ワインに戻ってしまうという思いからで」

山本「なんか分かる気がします。温度帯で違う表情になる日本酒のいいところを世界でつたえるには、ワイングラスでは限界がありますよね。時には嫌な香りも拾ってしまうし」

勅使河原「日本酒は冷酒から始まってとびきり燗で、温度帯を変えても楽しめますよね。〝人肌燗〞など具体的に何℃ということではない、素敵な呼び方があるのも日本酒ならでは」

石井「日本酒のマリアージュは包み込む感じ。ワインは、これにはこれ、と相性の幅が決まっていますよね。私も2016年に、スペインのサンセバスチャンで日本酒を振る舞う機会がありました。
映画の野外上映と、調味料と日本酒のブースを出して。「民宿とおの」の「どぶろく」のソーダ割りと、徳島の「三芳菊」で作ったモヒートを提供しましたが、とっても評判が良くて!一応、一人1杯だったのに、皆さんもっと飲みたがられる反響で、初日1日で3日分の材料がなくなってしまいました。
アンケートに答えてもらった方のみに提供したのですが、それ以上に質問もすごい量で、当初はアンケートを無視されたり、飲んでもらえなかったらどうしようかと不安でしたが、心配の必要もなく。日本酒って形から入るものではないので、触れる機会さえあれば入っていきやすいものだなあっと。日本酒の味が膨らむ燗でも提供してみたい!」

山本「海外の方にも燗の世界を知ってほしいですよね!」

石井「そうですね!日本酒の燗と常温って、日本人でも驚きますよね」

山本「私が担当している伊勢丹の日本酒売り場にも燗酒を求めて来店される方が増えてきました。やっぱり、劇的な変わりっぷりって感動しますね。家でゆっくり楽しむことも提案していきたいですね。自分の好きなように温度を変えて楽しむことができるのは、家飲みならではですし、酒器や道具を選ぶのも楽しいし」

[MY FAVORITE]ゲストおすすめの日本酒と相性バツグンの厳選おつまみを紹介

YAMAMOTO いかの塩辛

  • 根っからの塩辛付きという山本さんおすすめ。「社長のいか塩辛」は市販のものの中では手作りに近い味。左は伊勢丹にある魚谷清兵衛の塩辛。発酵食品でもある塩辛は、酸がある日本酒の常温に合う。

ISHII フグの卵巣の糠漬け

  • 毒があるとされるフグの卵巣を、塩漬けの後、糠漬けにして約3年寝かせると消毒され、驚くほどの旨味を蓄えた珍味に変身。「一体何人の犠牲者の上にこの美味しさがあるかと思うと壮大なロマンを感じる」と石井さん。

TESHIGAWARA ドライトマト

  • 水を与えずに育てた完熟トマトに塩をふり、夏の強い日差しで乾燥させたシチリア産ドライトマトは、そのままカットするだけで立派なおつまみに。「セドリック・カサノヴァ」で販売中。

[勅使河原さん、石井さん、山本さんに聞く]シーン別2017年はこれを飲もう!

[MY FAVORITE]自宅でささっと作れる日本酒がすすむおつまみレシピを紹介

YAMAMOTO 和風アンチョビキャベツ

  • アンチョビキャベツのアンチョビをいかの塩辛に変えた簡単レシピ。山本さんはいかの塩辛をアンチョビの代わりに使うことも多いそう。パスタの具材にもおすすめ。

TESHIGAWARA ドライトマトみそ

  • ドライトマト、炒ったアーモンド、ニンニク、それぞれ適量をミキサーにかけたトラパニ風ペースト。蕎麦味噌のようにちびちび摘もう。

ISHII 鯛の昆布〆

  • 刺身用の鯛の切り身に粗塩をふりラップをして10 ~20分放置後、鯛を取り出したら水分を拭き取り、顆粒昆布だしをまぶして酒粕を塗り込みラップで包み、30 ~60分寝かせる。食べるときは酒粕を落として適当に切っていただく。2・3日は保存もきく。

PROFILE

映画監督

石井かほりさん

2006年着物最古の型染め技法「木版染め」職人を記録したドキュメンタリー映画『めぐる』でメジャーデビュー。能登の塩づくりを追ったドキュメンタリー映画『ひとにぎりの塩』での出会いをきっかけに、2015年、日本四大杜氏のひとつ「能登杜氏」の酒づくりと彼らを育む能登の風土を追ったドキュメンタリー映画『一献の系譜』を発表。イタリア・ミラノ博覧会、ハワイ国際映画祭2016ほか海外でも好評を博す。

PROFILE

フードプランナー&フランス語通訳

勅使河原加奈子さん

有名フランス人シェフの招聘などをコーディネートする食のエキスパート。食イベントの企画制作、食の撮影コーディネート、仏語通訳・翻訳、地方創生、地方食材のリサーチとフランス人シェフへの紹介ほか、国内外での燗酒の普及にも携わる。2016年9月にオープンしたパリ発 シチリア産オリーブオイルとシチリア食材の専門店「セドリック・カサノヴァ」でも日本酒を提供するなど、自他共に認める日本酒好き。

PROFILE

伊勢丹新宿店 和洋酒バイヤー

山本慎吾さん

日本酒好きが高じて日本酒に携わること12年。「ISETAN SAKE マルシェ」の仕掛け人。「全国燗酒コンテスト2016」の審査員を務めるなど多方面で活躍中。

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