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【TOP BATON 賢者の視点】YKK株式会社 代表取締役社長 大谷裕明氏

ISSUED | 2018.07

 

お客様と社会と社員のために愚直に受け継ぐYKK精神

リレー形式で経営者をつなぐ「TOP BATON」。
記念すべき第1回は、昨年4月にYKK株式会社の代表取締役社長に就任した大谷裕明氏。
就任からの1年と、これからを語ってもらった。

PROFFILE

YKK株式会社 大谷裕明
1959年生まれ、兵庫県出身。1982年甲南大学経済学部経済学科卒業、同年YKK株式会社大阪支店に入社。YKK香港社を経て、2005年からYKK深圳社社長、2011年から上海YKKジッパー社社長を歴任。2014年4月よりYKK株式会社副社長ファスニング事業本部長、2014年6月より同社取締役副社長ファスニング事業本部長を務め、2017年4月に同社代表取締役社長に就任。

現状に安住せず「二兎を追わねば一兎をも得ず」の決意で世界市場にチャレンジし続けていこう

香港・中国で培ったグローバルなスピード感

 学生時代、狭い島国を出て世界で働くことを目指し就職活動をしたという大谷氏。海外進出する企業を調べ、たどりついたのが吉田工業株式会社、現在のYKK株式会社だったという。

「YKKのファスナーは知っていましたし、キックボクシングのテレビ番組のスポンサーをしていて面白い会社だなと思ったのを覚えています。希望が叶い入社して、3年目に香港へ赴任しました。以来約30年香港と中国で過ごしたのですが、最初の赴任当時、中国と取引するには香港を経由するのが近道で、香港にはマレーシアやインド、アメリカ、ヨーロッパなど、世界中からビジネスマンが集まっていました。海外の方たちは文法の違いもあって結論ありきで話を進めるので、一緒に仕事をさせていただく中で思考がとてもスピーディーになり、グローバルな思考を身に付けることが出来たと思っています」

30年におよぶ海外赴任から2014年に帰国した大谷氏。日本の環境の変化に今も驚くことが多いというが、週末には奥様の案内で東京散策を行うのが楽しみになっているそうだ。

長い海外赴任から呼び戻され、社長に抜擢されたその理由は

「当時、会長の吉田に『なぜ私なのですか?』と尋ねたことがありますが、ただ笑うだけで教えてくれませんでした(笑)。YKK創業者の教えに、『偉大なる中小企業たれ』という言葉があるのですが、大企業になっても中小企業の小回りの良さや即断即決のスピード感を忘れるなという意味で、もしかしたら、私の思考のスピード感に期待してくれたのかもしれません」

 YKKでは現在ファスナー年間販売本数100億本突破の目標が掲げられ、これをいかに達成するかが、大谷氏の課題の一つになっているという。

「YKKは世界に競合相手がいないのではないかと言われることもありますが、そんなことはありません。特に中国には数千社のファスナーメーカーがあると言われており、その中国メーカーの商品が世界市場のボリュームゾーンを握っているのです。そこを避けて、高機能・高付加価値商品に特化したビジネスを続けることは出来ますが、それではビジネスの領域が広がりません。初心に戻って、品質は下げずにコストダウンを図り、市場のボリュームゾーンにも挑む。それが100億本突破の目的です。高級路線のお客様と安い商品を望むお客様双方を獲得する。マーケティング戦略の定石からは外れますが、『二兎を追わねば一兎をも得ず』という戦略です」

お客様にご満足いただけることが事業のゴール

 年間販売本数はこの5年で約25億本増え、今年度中には100億本を達成する計画だという。しかし、実は数値目標をクリアすることが重要なのではないとも大谷氏は語る。

「数値目標と事業のゴールを混同しないということです。ただ売るだけでは、継続的な成長は望めません。YKKの企業精神である『善の巡環』は『他人の利益を図らずして自らの繁栄はない』という考え方ですし、経営理念『更なるコーポレート・バリューを求めて』においては、常に『公正』を価値基準としつつ、技術と商品と経営の質を高めて、お客様と社会と社員に価値を提供することを目指しています。本数を追い求めるのではなく、YKK精神や経営理念に基づき、お客様にご満足いただけることを事業のゴールとしているのです。そうすれば、結果として本数はついてくるはずです。当社は世界73ヵ国/地域で事業を展開していますが、誤解の無いよう、このことを世界中の社員に繰り返し話しています」

 

創業者吉田忠雄氏が唱えた「善の巡環」は、事業活動の基本精神として、今もYKKで受け継がれている。事業活動の中で発明や創意工夫をこらし、常に新しい価値を創造することによって、事業の発展を図り、それがお得意様、お取引先の繁栄につながり社会貢献できるという考え方だ。

株主は社員。非上場企業だからできることは素早く実行する

「日本に戻って、一つとても残念に感じていることがあります。それは、国や社会全体が将来の人口減少を前提にしてしまっている点です。人口は国力と比例する面がありますので、人口を維持しなければ、消費という経済のエネルギーはしぼんでいくしかありません。今は一夫婦が子供を2人以上育てられる環境や、結婚や出産、介護がハンデにならない環境の整備が最優先課題のはずなのです。中国では契約社員の割合を一割未満にすることや、一年以上の育児休暇が法律で定められていますが、日本ではそこまでのルール化はされていませんよね。当社一社ではできることは限られますが、微力ながら工場のある富山県黒部に保育園をつくるなどの手を打ち始めています。地道な活動ではありますが、企業が社会と共存していくためには、こういった活動が不可欠だと考えています。

グローバル企業をけん引する経営者とは

 そして、こういった活動を素早く実施できるのは、当社が非上場企業だからだと思っています。当社の筆頭株主は社員(社員持株会) であり、前述のYKK精神や経営理念に基づき、お客様と社会と社員への貢献を目的に活動することができるのです。創業者も『株を持っている君らも経営者の一人だよ』とよく言っていました。上場して、一般投資家の利益が優先事項になってしまうと、どうしても制約が出てしまうことがありますが、その点、当社は純粋に理念を追求し決断を下すことができますので、これからも上場することはないと思っています」

 長い海外赴任で身につけたスピード感とフットワークで、月の1/3は海外拠点に足を運び、国内でも黒部と東京を精力的に行き来する毎日を送っているという大谷氏。そんなアクティブさとは裏腹に、インタビューでの質問には一つひとつ丁寧に、そしてユーモアも交えながらゆっくりと話してくださった。そのバイタリティと冷静で思慮深い立ち居振る舞いに、グローバル企業をけん引する経営者としての力強さと、受け継がれるYKKスピリットへの深い愛情を感じることが出来た。大谷氏率いるYKKの成長に、今後も注目をしていきたいと思う。

 

中核のファスニング事業とAP事業、そして両事業の一貫生産を支える工機、3者によるグローバル事業経営と、世界6極による地域経営が基本。その経営体制は、世界の事業エリアを、北中米、南米、EMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカをカバーするエリア)、中国、アジア、そして日本の6つのブロックに分け、地域ごとの特色を活かしながら、各社が主体となって事業経営を展開している。

次回予告

東京ドームや東京スカイツリー®などの設計を手掛けてきた、日本を代表する設計事務所

株式会社日建設計
代表取締役社長
亀井忠夫 氏


を予定しています。



END

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