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【TOP BATON 賢者の視点】エステー株式会社 代表執行役社長 鈴木貴子氏

ISSUED | 2019.04

 

リレー形式で経営者をつなぐ「TOP BATON」。トラスコ中山の代表取締役社長中山哲也氏からバトンを受け取ったのはエステーの鈴木貴子氏。
社長就任以来、女性らしい思いやりと笑顔を武器に歩んできた6年間を振り返ってもらった。

相手の視点でものごとを見ることで人の暮らしに寄り添う存在になりたい

PROFILE

エステー株式会社
代表執行役社長
鈴木貴子
1962年、エステー株式会社の創業者である鈴木誠一氏の三女として生まれる。84年上智大学外国語学部卒業。日産自動車、ルイ・ヴィトン・ジャパングループを経て、2010年にエステー株式会社に入社。フレグランス・デザインをはじめ、カスタマーサービスや経営企画、グループ事業戦略、グローバルマーケティングなどに携わりながら、執行役や取締役などを兼務。2013年に現職に就任。

東日本大震災が教えてくれた目指すべき経営者像

 エステー株式会社の本社に足を踏み入れると、爽やかな草花の香りに包まれる。会議室にも花々が飾られ、女性らしい心遣いが感じられる。「花」は鈴木氏を象徴するワードといってもいいだろう。座右の銘である「香り立つ」も、花のイメージだ。

 2011年、東日本大震災の後、鈴木氏は無力感に駆られていた。そんな時、当時通っていた東大のEMP(エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)で瞑想を行ったところ、瓦礫に咲く一輪の花が脳裏に浮かんできたという。そしてこの花のように、人の心に寄り添う経営者を目指そうと決心。それ以来、お客様や従業員と丁寧に向き合いながらエステーを改革してきたという。

「私が一番大切にしていることは、相手の視点に立って物事を見るということです。創業者である私の父や、現会長である叔父の鈴木喬は、ある意味カリスマ経営者で、トップダウンで物事をすすめてきたのですが、私がそれをやっても、会社の器を大きくすることはできません。であれば、社員にも経営者目線を持ってもらって、一緒に強くなっていった方がいいと思うのです。もちろん『経営者目線を持て』と言っても、社員は『そんなにお給料をもらっているわけじゃないし、自分の仕事だけやっていればいいじゃない』って思いますよね。私もサラリーマンをやってきたので、そういう気持ちはよくわかるので、『人に指示されたことだけやっているよりも、自分の意思で、計画を立ててやった方が仕事は楽しいよね』という話し方をします。そうすると、イキイキとした表情になって、ついてきてくれるんです。今まで自分が経験したことをもとに、どのように言えば社員に真意が伝わり、行動につなげてもらえるかを常に考えています」

 人に寄り添おうとする姿勢は、商品にも反映されている。「喬会長が作った商品開発におけるスローガンに、『聞いてわかる、見てわかる、使ってわかる』というものがあります。この素晴らしいスローガンに、私はさらに、『ユーザーを明確にすること』を付け加えました。例えば、主婦向けの商品だとしても、今の時代は簡単に主婦と一括りにはできません。仕事は何をしていて、週末はどんな過ごし方をする主婦かまで絞りこんで商品開発に反映させています。その深掘りによってデザインも変化させて、最近ではお客様から褒めていただく機会が増えてきています」

OUR WORD

香り立つ─鈴木貴子
花は食べられないし、直接的に人の役には立たないけれど、その存在に人は活力をもらい「明日もまた頑張ろう」という気持ちにさせてくれます。瓦礫に咲く一輪の花のように、香り立つ存在であること、それが私の目指すリーダーシップです。

どんな逆境にも打ち勝つ秘儀「貴子ちゃん」

 創業家に生まれ、颯爽とエステーを導く鈴木氏だが、意外なことに「もともと会社を継ぐ気はなかった」という。しかし、叔父の喬氏に請われて2010年にエステーに入社してから、気持ちが大きく変化していったという。

「父からは、『子どもたちに会社は継がせない』と言われて育ちました。しかし、喬会長も高齢になっていましたし、後継者選びが難航しているのを見ていましたので、自分がエステーのためにできることは何だろう…と、自然に気持ちが変わっていきました。サラリーマン時代は、会社から何を得られるかという思考でしたので、まったく逆の考えになった訳です。とはいえ、自分は社長の器ではないとも思っていたので、就任当初は素の自分ではなく、ありたいリーダーを演じるという事に徹しました。自分が理想のリーダーを振る舞うと想像すると、発言すべきこと、行動すべきことがわかってきたのです。今はそれが本質になって、演じる必要がなくなりました。立場が人を作ることを、身をもって体験したと思っています」

 自分を客観視する習慣が高じて、ユニークな人生観につながっている。

「自分を、『貴子ちゃん』というドラマの主人公だと思うようにしているんです。そうすれば、どんな逆境にも落ち込むことはありません。ドラマは紆余曲折があってこそ、ハッピーエンドが心に染みるじゃないですか。だから、あまりにも物事がうまく進んでいると、そろそろ何か試練がやって来るぞと思うし、何も起こらなければ、今まで良いと思っていたことをゼロベースで見直して、より強い基盤をつくろうと考えます。景気や歴史も同じように循環していて、悪い時ばかりではないし、いつかは好転する。自分や自分を取り巻く状況を客観視して、逆境をハッピーエンドに変えるにはどうしたらいいかを考えれば、自ずと今何をすべきかが見えてくるんです」

空気ビジネスで広がるエステーの可能性

 現在、エステーが取り組んでいる新しい事業展開は、ドラマ「貴子ちゃん」の物語のクライマックスの1つになるのかもしれない。

「エステーは消臭芳香剤のメーカーとして知られていますが、そこだけに留まらず、私たちが持つ『空気をコントロールする技術』自体を、ヘルスケアや介護、建材など、これまでとは異なる分野にも活用しようとしています。例えば、北海道のトドマツから抽出したエッセンシャルオイルを使ったクリアフォレスト事業。これは国の研究機関との共同研究で、トドマツから抽出したオイルには二酸化窒素を浄化する働きや、花粉のアレル物質の働きを抑制する働きがあることがわかりました。この働きを利用して、車の排気ガスを浄化する商品や、マスクに塗って花粉対策ができる商品などを開発しました。また、サーモケア事業では、使い捨てカイロの技術を使って、冷えに悩む女性をサポートする商品を開発しています。今後は、業界や国境を越えて、賛同してくださる企業とつながり、人々の健康や環境改善のお役に立てる事業を展開するのが私の夢です。すでにいくつかの企業と一緒にエアコンフィルターや、ホテルや旅館の客室専用消臭ミストなども開発しています。空気ビジネスを、様々なシーンで盛り上げていけたらいいですね。消臭力などのマス向きの商品と違って爆発力はないかもしれませんが、じっくり育てていく事業があっても良いと思っています」

 エステーの未来予想図もまさに「香り立つ」。鈴木氏の夢が叶ったとき、そこにはどんな花が咲いているのだろう。

 

今年2月に発売が開始された、ホテルや旅館向け客室専用の業務用消臭ミスト「Air Forest」。クリアフォレスト事業からリリースされた、新たな展開となる注目の商品だ。

 

エステー株式会社

「消臭力」や「ムシューダ」といった印象的な商品名で高いブランド力を誇る数々の日用品を展開。除湿剤や空気浄化剤の開発のほか、近年は介護用品・ヘルスケア分野、海外展開なども強化し、積極的な市場開拓も行っている。トレードマークのヒヨコのマークは、元気さ・爽やかさ・誠実さ・謙虚さ、常に上を向いて歩くという挑戦の姿勢を表しているそうだ。

次回予告

「木」に関する知見と技術力を活かし、川上の山林から川下の住宅まで幅広い事業を展開。人々の生活に関するあらゆるサービスを提供する

住友林業株式会社
代表取締役社
市川 晃 氏


を予定しています。



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