聖ワシリー寺院
ロシアというと、過去の政治的は背景もあり、なんとなく、近くて遠い国というイメージがあるかもしれない。しかし、実際には、東京からウラジオストクへは直行便で約2時間半。電子ビザ取得をすれば煩雑なビザ申請手続きなしで入国でき、週末弾丸で十分に日本に一番近いヨーロッパの街並みを満喫できる。ここ数年のうちに、ロシア全土の電子ビザ入国実現化に向けて、ロシア政府が粛々と動いているという話もあるようだ。ロシアは、確実に近くなってきているのだ。
東西冷戦が終結して早30年。ロシアは今、新たな貌を生みだしつつある。蠢く大地の鼓動を感じ、その変化を体感できるのもロシアという国を旅する大きな魅力だろう。
そんな縦横無尽に広がりを見せる国、ロシアの醍醐味をコンパクトに満喫するための、トピックスやスポットをご紹介しよう。
Text_KUMIKO ASAOKA.
ロシアを知る5つのキーワード
日本の国土の約45倍の面積を誇る広大なロシア。最も東側に位置するカムチャッカ半島と首都モスクワのある西側付近では9時間もの時差がある。旅のベストシーズンは5月から9月末頃まで。もちろん、冬の旅では北国特有の気候に覚悟が必要だが、バレエや美術鑑賞が目的であれば、むしろ旅行客の少ない冬がお薦めだ。
東洋と西洋の文化をつなぎ、180以上もの民族、100を超える言語、ロシア正教、イスラム教、キリスト教、仏教など様々な宗教と文化的バックグラウンドを持った人々が共生するロシア。そんなロシアへの旅で真っ先に思い浮かぶのは、ロシアの中枢都市として政治的機能を果たし、独裁政権時代には権力の象徴ともされた現首都モスクワ。そして、18世紀初頭、初代ロシア皇帝ピョートル大帝によって築かれ栄華を極め、現在は「歴史地区と関連建造物群」が世界遺産に指定されているサンクトペテルブルクだ。この首都として栄えた二つの都市を垣間見るだけでも、ロシアがたどってきた大いなる時間の流れを感じ取ることができるだろう。
それでは、――ロシアを知る旅――この壮大な時間軸とスケールを持つ国をもっと知るためのポイントを、5つのキーワードで紐解いてみよう。
Keyword 1 人々の心の拠り所 ロシア正教大聖堂
サンクトペテルブルクの歴史地区、旧海軍省近くにある聖イサーク大聖堂。十字の形の正統派なロシア・ビザンチン様式に、ヨーロッパ的な新古典主義のファサード(正面)が印象的だ。展望台からは街が一望できる。
10世紀に東ローマ帝国の首都ビザンチンから伝わったキリスト教に起源を発し、独自の発展を遂げてきたロシア正教。1000年以上にもわたり、信仰に篤い人々の心の拠り所として生き続けてきたのが大聖堂だ。最も有名なのはタイトルページにもあるモスクワのクレムリン近く、赤の広場にある聖ワシリー寺院だろう。
玉ねぎ型の屋根が象徴的だが、銀屋根、木造系など、独創的なものもロシア全土、東から西まで多数存在する。内部に美しく飾られた荘厳なイコン(聖像画)やモザイク芸術は、息をのむほどに美しい。夜、ライトアップされた姿もまた格別だ。ぜひ昼、夜二つの聖なる姿を目にしたい。
Keyword 2 ロマノフの栄華を偲ぶ 帝政ロシア時代の宮殿
ぺテルゴフの大宮殿と庭園。噴水のある庭園はピョートルの発案で、当時、かなり斬新なアイデアだったという。
帝政ロシアの首都サンクトペテルブルクやその周辺には、ロマノフ王朝の栄華を象徴する華麗なる宮殿が多くたたずむ。ロマノフ家は、1600年代初頭から1917年のロシア革命まで、約300年にわたって続いたロシア帝国を統治していた皇帝一族だ。
最も有名なものの一つは、サンクトペテルブルクから船でも行ける郊外の都市ぺテルゴフにある大宮殿だ。〝ロシアのヴェルサイユ〞と呼ばれ、歴代皇帝の夏の宮殿として建設された。もう一つ、ツァールスコエ・セローにあるエカテリーナ宮殿も必見。中でも、絶対に見逃してはならないのが、装飾板と細部の装飾がすべて琥珀で施された「琥珀の間」だ。ちなみに、モスクワの宮殿は、サンクトペテルブルクのものとは対照的に、よりロシア的で男性的な正統派の宮殿が多く見られる。
Keyword 3 スターリン政権下の国威発揚の象徴 モスクワのスターリン建築
数あるスターリン建築様式ビルの中でも、モスクワ大学本館、文化人アパート、芸術家アパート、レニングラードホテル、ホテル・ウクライナ、ロシア外務省、ロシア運輸機関建設省の7棟は、その力強さと美しさから、“ セブンシスターズ”と呼ばれる。上記は中でも最も美しいといわれるモスクワ大学本館。
ここで、長きにわたって権力の中枢として君臨してきたモスクワという都市の権力の象徴ともいえる建築群をご紹介しよう。通称〝セブンシスターズ〞と呼ばれるスターリン・ゴシック様式の七棟のビル群だ。
ソ連の第二代最高指導者であるスターリンは、摩天楼の美を革命の勝利と社会主義の発展の象徴と考え、ニューヨークの摩天楼に対抗してモスクワ市内に多くの高層ビル群を建設させた。中でも、〝セブンシスターズ〞は、その美しさと壮麗さゆえに、今なお、モスクワのシンボルとして堂々とたたずみ、観光スポットとしても人気を得ている。そのうち二つは現役のホテルとして一般開放されているので、内観も見ることが出来る。
Keyword 4 地下に広がる驚愕の美の空 モスクワの地下鉄
モスクワを訪れた多くの人が最初に訪れるコムソモーリスカヤ駅。地下宮殿さながらの空間は、スターリン・アンピール様式。
実はモスクワは東京に負けずとも劣らない地下鉄都市だ。モスクワのほとんどの観光スポットを網羅しているので、旅行者にはありがたい公共交通だ。そして、その便利さもさることながら、街を移動しながらに、美術館さながらの地下に広がる駅―美の空間―を堪能できるのもモスクワの地下鉄の魅力で、観光スポットの一つにもなっている。
スターリン時代に開業した地下鉄は、社会主義における技術と芸術の進歩を発信する重要なプロパガンダの拠点であり、国威発揚や国家権力というものを国民に最もわかりやすく認知させるための理想的な空間だった。ちなみに、非常時には地下壕としての役割も想定されていたという。
地下宮殿を思わせるほどに豪華絢爛。重厚な大理石と豪華なシャンデリアバージョンもあれば、社会主義レアリズムの極致を行く集団農場や工場、そして若き青年団体のモチーフ、歴史や神話がテーマになっている装飾バージョンもあり、ソ連時代のモスクワの空気感と歴史の一端を垣間見ることができる。
Keyword 5 世界三大美術館のスケールに圧倒される エルミタージュ美術館
新館(旧参謀本部)に収蔵されているヨーロッパ近代美術コレクションもまた必見だ。
世界有数のクオリティを誇るエルミタージュ美術館。300万点を超える最高峰の美術品が収蔵されている。ダ・ヴィンチやラファエロをはじめとする盛期ルネサンスからスペイン、北方のバロック絵画など、我々、日本人が愛してやまないコレクションが凝縮されていると言っても過言ではない。
この美術館の魅力は、何と言っても、その至宝ともいえる美術品のみならず、サンクトペテルブルク、いやロシア随一ともいわれる帝政ロシアの宮殿の美を共に堪能できることだ。
美術品の収集は、ピョートル大帝の孫にあたるエカテリーナ二世の時代に本格化し、コレクションを陳列するためにさらに宮殿が増設された。エカテリーナはそこを〝隠れ家(エルミタージュ)〞と呼び、私的な時間を楽しんでいたという。
盛期ルネサンスからスペイン、北方バロック絵画などの屈指の名作が鑑賞できる。
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