世の中のデジタルシフトが進むなか、万年筆があらためて人気を集めている。
手書きの文字が持つ暖かさや心地よさ、さらに万年筆が醸し出す存在感が、こだわりを持つ人たちに支持を受けているのがその背景だ。大人の嗜好品としての万年筆の魅力を今特集で紐解いていく。
取材・写真協力/セーラー万年筆
大人への登竜門 万年筆を知る
新型コロナウイルス感染の拡大で自粛が続く2020年。しかしこれを機に、生活の質そのものを改めて見直すきっかけにもなった。そこで文字を書くという基本的な行為の価値を高めてくれる万年筆をライフスタイルに取り入れてみてはいかがだろうか。
万年筆を使うことで自分自身と向き合える
デジタルで繋がる世界へと急速に移行している現代社会。メールやSNSで連絡を取ったり、パソコンなどのデジタルツールで書類を作成することで、文字を書くことが格段に少なくなった。確かにデジタルを活用することで利便性が高まり、時間が短縮できることはメリットではあるが、大切な思いを伝えづらかったり、内容を吟味したりすることが薄れてしまうという一面もある。そういったこともあり、一文字一文字、書くことに対して真剣になれる手書きが、大人世代に見直され始めている。そして、仕事や支払いでサインを求められたときや大切なメッセージを送るとき、自分らしい文字を書くことはまさに大人の嗜みともいえる。そのような時にこそ万年筆をスマートに使用したい。
人が文字を書く筆記具は鳥の翼から取った羽根ペンが始まり。18世紀後半には鋼鉄ペンが登場し、その後、毛細管現象を取り入れてインク漏れを解決した万年筆が開発されたという歴史を持つ。その後、様々な筆記具が登場したが、色の濃淡や線の強弱、スラスラと流れるように文字を書けるという万年筆独特の味わいは、他の筆記具では決して出せないもの。文字を書くという行為に対してこだわりを持つ人は、万年筆に深い愛着を持っている。
筆圧がほとんど必要ないので手が疲れにくく、長時間文字を書いていられることから、多くの作家や作曲家が万年筆を愛用し、筆記速度も上がるので司法試験の受験生などにも好んで使われているという。さらに最近ではインクカラーが豊富になり、若い女性を中心に手ごろな万年筆の需要も増えてきている。
使用しているうちに自分のためだけの道具へと進化する万年筆。力を入れずにスラスラと書ける滑らかな「書き心地」、文字の濃淡や線の強弱によって生み出される「表現力」、使い込むほどに手に馴染む「愛着感」。これこそが万年筆の最大の魅力だ。ペン先の硬さや重さ、素材など自分にフィットする1本を見つけ出し、こだわりを持った大人のライフスタイルを表現していただきたい。
[理由 1] 文字に味が出てキレイに見える
万年筆で書いた文字は味があり、キレイに見える。それは万年筆の構造によるところが大きい。ペン先が紙に触れると流れるようにインクが出てくるので筆圧を強くかける必要がなく、万年筆の重みを利用して、紙の上を滑らせるようにしていけば、万年筆独特の文字が書ける。筆圧によって、字の太さやインクの出方が変わるので、日本語独特の「とめ」「はね」「はらい」がより明確に表現できるため、文字に独特の味が出る。
[理由 2] 書くことで集中力を高められる
万年筆を使うと文字を書くという行為自体に自然と意識が向けられるようになる。一つの文字を適当に書くのではなく、省略せずに丁寧に書き、全体のバランスを考えるというクセがつく。「丁寧に書けば落ち着いた印象に」「雑に書けば乱暴な印象に」「気持ちが乱れていれば文字も乱れる」といった具合に、書き手の状態が文字に現れやすいので、書くという行為に没頭でき、自然と集中力が高まっていくという効果があるのだ。
[理由 3] 自分らしい個性を演出できる
文字の見せ方によって自分の個性をしっかり主張できる万年筆。さらに万年筆はインクを補充することで長く愛用できるのも魅力。自分好みの1本を長く使用することで、書き癖にあった万年筆へと経年変化させていくことができるのも、所有欲を満たしてくれるポイントだ。また、時計や眼鏡などの小物と同様に、お洒落のキーアイテムとして、例えばジャケットの胸ポケットに挿して自分を演出するといった楽しみ方もありだ。
[理由 4] 自分らしい1本を探す楽しみを味わえる
筆記具として長い歴史を持つ万年筆は、世界各国で独自に進化し作られ続けている。ペン先や軸、構造などメーカーによって個性も様々なため、用途や書き味など自分にあった1本を見つけ出していくことも、万年筆の楽しみの一つだ。
自分らしい万年筆を選ぶために知っておくべき5つのこと
いざ万年筆を購入しようと思ってもどのように選べば良いのかよくわからない……。そこで自分にとってのベストな1本と出会うためのポイントを押さえ、長く愛用するためのコツを覚えておこう。
毎日愛用することが万年筆を進化させる
所有することで書くこと以上の喜びを得られる万年筆。長く愛用するためには自分にフィットする1本を見つけ出すことが一番だ。ブランドや金額、デザインなども気になるところだが、やはり決め手は書き味。そのためにも万年筆を取り扱っている文具店で、試し書きをしてみることは必須だ。それぞれ個性のある万年筆の中で、自分にとって最も心地よく、長く愛せる1本をじっくりと書き比べて探していくこと。そうして万年筆を手に入れたら、毎日使うというのもポイント。使い込むほどにメンテナンスになり、自分らしい万年筆へと進化を遂げていってくれる。
[Tips 1] 自分らしい文字はペン先が左右する
万年筆の頭脳とも称されるペン先。多くの高級万年筆では、インクによる腐食を防ぎ、錆びにくくするため金を使用している。14金や18金がほとんどだが、金の含有率によって書き味も変わるためセーラー万年筆では21金のものも用意。ペンポイントやスリット、さらにハート穴などの構造の違いで、弾力や書き心地が変化する。高級万年筆の場合、ペン先は職人の手作業で作られるものが多く、自分だけの1点ものとなる。
[Tips 2] インクの文字色で個性をアピール
最近、万年筆人気が上がってきている最大の要因がインクの進化。黒や濃紺だけだったインクが様々な色めで展開され、今では「インク沼」と呼ばれるほどハマる人も増えてきている。さらにはご当地インクも登場し、地域限定で発売しているものも人気を博している。またインクには染料と顔料の2タイプがあり、耐水性や耐光性、扱いやすさなどが異なる。使用用途に応じてインクを変えればさらに万年筆の世界が広がる。
[Tips 3] 軸は太さと素材、そして柄にこだわる
万年筆のボディである軸部分は、太さや素材によって、見た目はもちろん書き心地や耐久性などに大きな影響を与える。太さに関しては手の大きさなどによって持ちやすいものを選択すればOKだが、重要なのは素材。経年変化が少なく着色もしやすい樹脂製のものが一般的だが、金属製のものや木製、手にしっくりくると人気のエボナイト製などもある。また柄を楽しめるのも万年筆の特徴なので、自分好みの1本を見つけたい。
万年筆の軸には様々な素材が使用される。セーラー万年筆のトップモデル『キングプロフィット』は使用する人の好みに合わせて、4種類を用意している。
左からST万年筆60,000円、ブライヤー万年筆150,000円、エボナイト万年筆70,000円。
セーラー万年筆
0120-191-167
[Tips 4] 魅せる万年筆はキャップがポイント
万年筆のキャップはペン先をカバーし、インクの乾きや漏れを防ぐ役割がある。キャップの機構は回転式とはめ込み式の2タイプがあり、扱いやすい方を選択すればOK。ただしキャップを閉めたときのデザインにはこだわりたいところ。デスクの上に置いたり、ジャケットに挿したときに、キャップの意匠が目立つからだ。キャップにはブランドのマークや装飾などが施されるが、こだわりの万年筆を使用しているというステイタス性をシックにアピールすることができ、満足度もひとしおだ。
[Tips 5] 長く愛用するためにはメンテナンスを!
万年筆はインク詰まりで文字が書けなくなることがある。これはインクの水分が蒸発して、ペン先などにインクの成分が固まってしまい、詰まってしまうため。毎日使うのが一番のメンテナンスだが、定期的に万年筆を洗浄したい。基本はペン先を外してコップの水の中に1 ~2時間程度入れておけばOK。長い期間使用していなかったら1日程度入れておくと効果的。コンバーター式の万年筆の場合は、インクを吸入する時と同様に水を繰り返し出し入れすれば洗浄できる。