日本を含む世界各地にある小規模な醸造所で造られているクラフトビール。
どの醸造所も「個性を生かしつつ」、しかも「どうしたらビールが美味しくなるか?」と試行錯誤を重ねている。
そんなクラフトビールの魅力や、美味しい飲み方を紹介しよう。
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PROFILE
ビアジャーナリスト/イラストレーター
藤原ヒロユキ さん
1958年生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、(一社)日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ海外の国際ビアコンテストの審査員を務める。近著「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)など著書も多数。
ビールの達人がアドバイス!!
ブームが定着した今だからこそ改めてクラフトビールを学ぼう
大手ビールメーカーのビールとは、ひと味もふた味も違うクラフトビール。
そのルーツや種類、美味しい飲み方などをビールの達人に訊く。
クラフトビールと地ビールの定義とは!?
クラフトビールが日本のビールファンに認識されて久しいが、そもそもクラフトビールとは何なのだろうか? また、地ビールとは違うモノなのだろうか? ビール党はこんな疑問を抱きながら大好きなビールを飲むが、かなりの通でも明確に答えることができる人は多くない。そんな素朴な疑問に、ビアジャーナリストでありイラストレーターとしても活躍する藤原ヒロユキさんは、「この2つは同じモノです」と話す。
「地ビール=クラフトビール」と定義する藤原さんによれば、日本のビール近代史においての第1次クラフトビール・ブームは1990年代中頃。しかしこれはほどなくして終息してしまうのだが、今、再びクラフトビールの注目度は大きく高まっている。そこにはどんな事情があるのか、藤原さんに詳しく説明してもらった。
「もともとビールを製造する際には〝1年間で最低2000キロリットル以上造らなければならない〟という法律があり、ゆえにサントリーやサッポロといった大手メーカーのビールが主流だったのです。ところが1994年に法律が変わり、1年間の製造量が60キロリットルに引き下げられました。これを機に日本各地に小規模の醸造所が生まれ、技術的にも経験的にも未熟な味の〝地ビール〟も少なからず出回りました。その結果、ビールファンの間では『地ビールは美味しくない』というネガティブな評価が下されてしまったのです」と、残念そうに当時を振り返る藤原さん。
こうして日本の地ビールブームは、1990年代後期にいったん終焉を迎えてしまう。が、2011年くらいから、徐々にだがクラフトビールとして再び広まっていく。
クラフトビールはアメリカ西海岸発祥!?
「日本におけるビール革命(製造量の法律の改変)よりも30年ほど前に、アメリカ西海岸からクラフトビールのムーブメントが起こります。大手洗濯機メーカーの御曹司、フィリッツ・メイタグ氏がスチームビールで有名なアンカー社を買い取ったのを発端に、小規模醸造所がアメリカ全土に広がるのです。このムーブメントの根源には、『大手ビールメーカーが造るライトな量産型ビールよりも、ヨーロッパの伝統に基づく味わい深いビールが飲みたい』というビール好きのシンプルな欲求がありました。ちょうど1960年代中頃からの自然回帰運動やナチュラル思考、自然食ブーム、さらには70年代にホームブルー(自家醸造)が解禁したこともあって、アメリカではクラフトビールがしっかりと市民権を得たのです。ちなみに、先ほど『小規模醸造所がアメリカ全土に広がる』と言いましたが、アメリカにおける小規模は〝年間600万バレル(約70万キロリットル)〟以下のこと。アメリカのクラフトビール醸造所は、日本の大手ビールメーカーの工場と遜色のないところがざらにあります」と藤原さんは語る。
さらに「アメリカ人はクラフトビールを作るにあたり、伝統的なヨーロッパのビールをそっくりそのまままコピーしたわけではありません」とも語り、「独自の発想と想像力を駆使して、アメリカらしいテイストも加わった新たなビールを生み出すという〝進化〟を重ねていったのです」とまとめる。
そしてようやく2011年頃になって、アメリカですでに一般的になっていたクラフトビールが日本に入ってくる。
「バブル以降、日本人は洋服も食もライフスタイルも〝第三者にどう見られたいか!?〟を重点に置いていました。しかし東日本大震災をきっかけに日本人の価値観がブランドやプライスではなく、〝自分に合った本当に良いモノ〟へと変わったことも、クラフトビールの人気に好影響を及ぼしたと思います。また、多くの日本人が海外で個性的なクラフトビールに出会ったこともあって、日本に美味しいクラフトビールがたくさん知れ渡った。名称も以前のネガティブなイメージを引きずっている地ビールから、クラフトビールというネーミングが浸透! これが今日に至る、第2次クラフトビール・ブームです」と藤原さんは分析する。
クラフトビールをより美味しく味わうコツ
藤原さんによると1990年代の最初のブームは、村おこしや地域活性化を謳ってばかりだったと言う。しかし現在は、「本当に美味しいビールとは何か?」を追求して作っている醸造所が多いとのこと。藤原さんはそんな真摯なビール作りの姿勢と、そこから生まれる日本のクラフトビールを高く評価しているそうだ。
「例えば、大メーカーのキリンビールが130年前のビールを蘇らせた『スプリングバレー』や、日本酒の酒造所が作った『常陸野ネストビール』はとても美味しい。また、鎌倉という土地に根ざしたビール作りをしている『鎌倉ビール』は王道ですし、若い感性によって造り上げた『よなよなエール』も人気の高い商品です」
ビアジャーナリストの藤原さんがお薦めするクラフトビールは、いずれも個性派揃い! それらをより美味しく飲むには、どんなことに注意すればいいのだろうか。
「飲む前に、ビールの種類くらいは覚えておきましょう。ビールは大きく上面発酵の“エール”と下面発酵の“ラガー”の2つに分けられ、クラフトビールは“エール”が多いですね。クラフトビールの代表的な種類であるペールエール、IPA、ヴァイツェン、スタウトの4つは覚えておくといいでしょう。飲む時にはヴァイツェンは5〜6℃、IPAは10〜12℃、スタウトは12〜15℃、ペールエールは8℃くらいに冷やします。そして一番大事なことは、必ずグラスに注ぐこと! 丁寧に注ぐと泡が細かくなり、また炭酸がほどよく飛ぶので、香りが引き立つのです。さらに香りだけでなく、色を見て、泡の音を聴いて、舌で味わって、喉で触れて……と、五感で堪能して欲しいですね。それと、各種ビールと料理を合わせて飲むのがお薦め。例えば、薄い色のビールにはすっきりとした味の料理、濃い色のビールには香ばしい料理といった具合に、ビールと料理の相関関係を楽しんでください」と話す藤原さん。
藤原さんのアドバイスなどを参考にしながら、いろいろなクラフトビールを楽しんでみてほしい。そうすれば、おのずと舌が肥えてくるのは間違いない。そうやって飲み手のレベルを上げて行けば、作り手=日本各地のブルワー達も刺激を受け、さらにビール製造のスキルもアップする。このような好サイクルが、より美味しいクラフトビールを生み出すことに繋がる。そんなクラフトビールの明るい未来こそが、藤原さんの願いでもあり、ビールファンが待ち望む姿なのだと思う。
■藤原ヒロユキさん流クラフトビールを自宅で美味しく飲むコツ
1. 必ずグラスに注いで飲む
2. 味覚・視覚・聴覚・触覚・臭覚の五感を研ぎ澄ます
3. 冷やしすぎない
4. 料理とのペアリングを考える
■ビールの種類
● 発酵温度は高く(20〜25℃)、発酵期間は短い(3〜4日)。
● 味は芳醇で濃厚。
● クラフトビールで多く使われる。
● 発酵温度は低く(0〜15℃)、発酵期間は長い(7〜10日)。
● 喉ごしがすっきりと爽快。
■エールの代表的な種類
イギリス発祥のビアスタイルは、モルトのコクやホップの香りがふくよかに感じられるのが特徴。アメリカで柑橘系の華やかな香りが加味されたアメリカン・ペールエールが誕生。
正式名称「India Pale Ale」は、ホップを大量に使用する。そのため一般的なビールに比べると、ホップ特有の香りと苦味がかなり強い。赤褐色の美しい色合いも魅力だ。
小麦麦芽50%以上使用したドイツの伝統的なビール。バナナのようなフルーティな香りと、苦味をほとんど感じない柔らかい味わいが女性に人気。色が非常に薄いのも特徴だ。
黒ビールの一種。英語で「強い」という意味のスタウトは、色も香りも味もどっしりと強い。香ばしいナッツやチョコレート、コーヒーの香りと、麦芽の苦味が特徴だ。
ビールファンの乾いた喉を潤す!
日本のクラフトビールを牽引する注目4メーカー
茨城県那珂市
01.【常陸野ネストビール】 水と緑が豊かな地で育まれたビール
1823年から、茨城県那珂市で日本酒を作り続けている木内酒造のビール醸造所。ペールエールやヴァイツェン、アンバーエールに使用する麦芽はそれぞれに相応しい産地から、そしてホップはそれぞれ個性に相応しい産地から直輸入している。それらを最良の組み合わせで丁寧に仕込んで出来た唯一無二のクラフトビールは、今では世界40カ国で楽しまれ、世界的に有名なビアコンテストでいくつもの最高賞を受賞している実力派だ。
木内酒造
TEL:029-212-5111
茨城県那珂市を拠点とする日本酒の蔵元「木内酒造」から生まれた常陸野ネストビール。ビールを愛する人たちの巣=ネストから、彼らが自信を持つこだわりの逸品を世界のビールファンの元へ届けている。
神奈川県横浜市
02.【キリンビール】 130年前の“ビールへの想い”が復活!
1870年、ノルウェー生まれのアメリカ人、ウィリアム・コープランドが横浜にビール醸造所を設立。さまざまな困難を克服して生まれたビールは、やがて横浜居留地に住む外国人や日本人の間で人気を博した。そして2015年、「改めてビールの魅力を伝えたい」という想いから、キリンビール がクラフトブルワリーを設立。美味しさを愚直に追求する「スプリングバレーブルワリー」のビールは、その豊かな味わいでビール通から支持を得ている。
キリンビール
お客様相談室 TEL:0120-111-560
日本のビール産業の礎を築いた神奈川県横浜市の醸造所「SPRING VALLEY
BREWERY」。その志を大手ビールメーカーのキリンビールが受け継ぎ、原料も手間も一切手加減なしでクラフトビールを作っている。
1990年代後半の地ビール・ブームのイメージを払拭するべく、
各地の小規模なビール醸造所は独自の研究を重ね、「個性的で美味しいビール」を創り出している。
そうした“頑張っている”ブルワリーと自慢のクラフトビールを紹介!
神奈川県鎌倉市
03.【鎌倉ビール】 歴史ある町が生んだビールの新潮流
ビールのベースになるピルスナー・モルト、色や風味に特徴を出すクリスタル・モルトとブラック・モルト、この3つに良質なファイン・アロマホップと酵母で作る鎌倉ビール。鎌倉という土地の特色を生かしつつ、スタッフの熱い想いと確かな技術で作られたクラフトビールは、大手メーカーのブランドビールとは一線を画している。「まろやかでフルーティ」な味わいは個性を求めるファン、中でもスマートなテイストを好む女性の間で人気を呼んでいる。
鎌倉ビール
TEL:0467-23-5533
観光で訪れる人、仕事で通う人、それらに加えて地元の人たちも交差する町、鎌倉。観光地の有名な地ビールからさらに発展し、そこの土地ならではの味わいを具現化したこだわりのクラフトビールが自慢だ。
長野県軽井沢町
04.【ヤッホーブルーイング】 人生に幸せをもたらすクラフトビール
日本を代表する高原リゾート、長野県軽井沢にあるビール醸造メーカー。1997年に一念発起して創業したエールビール専門のビール醸造所が、これまで画一的な味しかしなかった日本のビール市場にバラエティを提供しながら、新たなビール文化も創出している。「よなよなエール」を始め「インドの青鬼」や「水曜日のネコ」、「僕ビール君ビール」など、名前も味もインパクトが強いクラフトビールは、多くのビールファンから熱い支持を受けている。
ヤッホーブルーイング
TEL:0120-28-4747
「ビールに味を! 人生に幸せを!」というミッションを掲げ、美味しいビール作りに熱心な人たちが立ち上げたビールの醸造所。クラフトビールの製造・販売だけでなく、ビールのファンイベントも開催している。