古くからヨーロッパの貴族を中心に愛されてきたオペラ。
舞台を構成するすべてのものが調和したとき、その空間は素晴らしい感動に包まれる。
優雅で、贅沢で、非日常。オペラは究極の芸術といっても間違いないだろう。
音楽評論家 石戸谷 結子さんが語るウィーン国立歌劇場の魅力
オペラの頂点といえば「ウィーン国立歌劇場」。
その魅力を知ってこそ、オペラを語るにふさわしい。
「オペラの殿堂」ウィーン国立歌劇場
ベートーヴェンやモーツァルト、シューベルトやブラームスといった楽聖たちが活躍した音楽の都ウィーン。
かつてはハプスブルグ帝国が華やかな宮廷文化を花開かせた栄光の都。そのウィーンの街の中心に、今も昔も変わらない姿で威容を誇っているのが、ウィーン国立歌劇場だ。馬に乗ったミューズ象を左右の肩に載せ、頭上にはハプスブルグ家の紋章と王冠が飾られている。まさに「オペラの殿堂」にふさわしい堂々たる歌劇場だ。
歴史を遡ると、1868年にオーストリー=ハンガリー二重帝国の宮廷歌劇場として、フランツ・ヨーゼフ1世の命により建設。しかし第2次世界大戦中の1945年には空襲を受けて破壊され、1955年に再開場した。これまで歴史に名を残した総監督は、作曲家のグスタフ・マーラーやリヒャルト・シュトラウス、指揮者のカール・ベームやヘルベルト・フォン・カラヤンなど錚々たる顔ぶれが並ぶ。そして2002年から2010年までは、我らが小澤征爾が音楽監督を務めた。
歌劇場の外観はちょっと厳めしいけれど、一歩中に足を踏み入れると、そこには日常を超越した優雅な空間が広がっている。吹き抜けの中央階段を上ると、豪華な絵画に彩られたサロンやロビーが続く。かつては王侯貴族たちが集い、いまはドレスアップした市民たちが、オペラ談義に花を咲かせる。劇場内部は、黄金色と赤をふんだんに使った絢爛たる空間だ。5層に分かれた馬蹄形の桟敷席からは、客席の姿が良く見える。オペラハウスは、結婚相手や不倫相手を品定めする社交の場としても機能していたのだ。
いまもその伝統は続いていて、2月のオペラ座舞踏会では1階の客席が取り払われ舞踏会場に変身。社交界デビューする盛装した120組の紳士、淑女によって、左回りの優雅なワルツが披露される。
ウィーン国立歌劇場が、オペラの殿堂と呼ばれる理由はいろいろある。9月から6月までのシーズンにはほぼ毎日、オペラかバレエが上演される。プラシド・ドミンゴやアンナ・ネトレプコといったスーパースターが常時登場し、公演の質の高さは折り紙つき。そしてオーケストラピットに入る歌劇場管弦楽団は、世界最高のオーケストラ、ウィーン・フィルの母体。柔らかく典雅な響きは、他の歌劇場では決して味うことのできない贅沢な楽しみだ。
その世界に冠たるウィーン国立歌劇場が、この秋日本にやって来る。オーケストラから合唱団、バレエ団に名ソリストたち、そして裏方まで総勢450名を超える大集団による、まさに「引っ越し」公演だ。指揮者には、あの世界最高人気を誇るリッカルド・ムーティの名も挙がる。オペラは総合芸術。歌手はもちろんのことだが、オーケストラ、指揮者、合唱団、演出と舞台装置、その全てのクオリティが調和してこそ、感動が生まれるのだ。
そうとなれば、この機会を逃さない手はない!オペラファンもそうでない方も、この秋はぜひともオペラ鑑賞に没頭してみよう。
ウィーン国立歌劇場
今秋注目の3作品
ウィーン国立歌劇場を聴くなら外せない3作品をダイジェストで紹介。
劇場へ行く前に予習・復習しておこう。
1・優美で官能的な最もウィーンらしいオペラナクソス島のアリアドネ
ウィーン国立歌劇場で改訂版が初演されたゆかりの作品。R・シュトラウスの傑作で、台本はウィーンの文豪ホーフマンスタール。18世紀ウィーンのお金持ちのお屋敷で、祝宴が開かれる。作曲家に新作オペラ「ナクソス島のアリアドネ」が委嘱され、幕が開こうとしている。そこに執事が知らせを持ってくる。オペラと同時にこっけいな芝居を上演するようにというのだ。
さあ楽屋は大混乱。しかし時間がきて幕が開く。悲劇のオペラの途中に喜劇の即興劇が入るが、混乱はなく不思議な調和がとれた舞台が展開する。幕開き前のドタバタを描いた「序幕」と「オペラ」の2幕構成。ドイツの名演出家スヴェン=エリック・ベヒトルフの、おしゃれで洗練された美しい舞台も見どころだ。
2・人間的な感情に彩られたドラマティックなオペラワルキューレ
ワーグナー畢生の大作、上演に4日4晩を要する4部作「ニーベルングの指環」の2作目第一夜が「ワルキューレ」。世界を支配できるという黄金の指環をめぐり、天上界、地上界、地下界で繰り広げられる、壮大なスケールの争奪戦。その中で、最も人気が高いのがこの「ワルキューレ」だ。
とくに1幕では、幼い時に別れた兄と妹が再会し、恋に落ちる場面が見どころ。近親相姦の禁断愛こそ、激しく燃え上がる。3幕は映画「地獄の黙示録」でも使われた勇ましい「ワルキューレの騎行」が見どころ。8人の勇ましい乙女たちが天空を駆け巡る。ヴォータン役のコニエチュニー、ブリュンヒルデ役のシュテンメと、当代一のワーグナー歌手が勢揃いする圧巻の舞台だ。
3・世界中で愛される究極のモーツァルト・オペラフィガロの結婚
モーツァルトの最高傑作。実力派のカリスマ指揮者、リッカルド・ムーティが指揮する極上のモーツァルト。17世紀中頃の貴族社会が舞台。アルマヴィーヴァ伯爵家に仕えるフィガロと伯爵夫人の小間使いスザンナの結婚式当日、とんでもない大混乱が起きてしまう。浮気な伯爵は、夫人に飽きてスザンナに言い寄っているのだが、フィガロが知恵を働かせてそれを阻止しようとする。
お屋敷に住む個性的な登場人物たちが活躍する楽しいお話だが、音楽はたとえようもないほど美しく感動的だ。演出は故ジャン=ピーエール・ポネルで、伝説に残る伝統様式に沿った名舞台。歌手では伯爵役を歌うダルカンジェロが聴きもの。上り坂の若手歌手たちも顔を揃える。
ウィーン国立歌劇場
2016年日本公演M
日本中を感動の渦に包んだ世界最高峰のオペラが再び上陸
リヒャルト・シュトラウス作曲
「ナクソス島のアリアドネ」
(プロローグ付第1幕)
演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ
指揮:マレク・ヤノフスキ
10月25日(火)7:00p.m.
10月28日(金)3:00p.m.
10月30日(日)3:00p.m.
会場 東京文化会館
- 入場料
S ¥63,000 A ¥58,000 B ¥53,000
C ¥48,000 D ¥32,000
エコノミー券 ¥13,000
リヒャルト・ワーグナー作曲
「ワルキューレ」全3幕
演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ
指揮:アダム・フィッシャー
11月6日(日)3:00p.m.
11月9日(水)3:00p.m.
11月12日(土)3:00p.m.
会場 東京文化会館
- 入場料
S ¥67,000 A ¥61,000 B ¥54,000
C ¥49,000 D ¥33,000
エコノミー券 ¥13,000
ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲
「フィガロの結婚」全4幕
演出:ジャン=ピエール・ポネル
指揮:リッカルド・ムーティ
11月10日(木)5:00p.m.
11月13日(日)3:00p.m.
11月15日(火)3:00p.m.
会場 神奈川県民ホール(横浜)
- 入場料
S ¥65,000 A ¥60,000 B ¥54,000
C ¥49,000 D ¥33,000
エコノミー券 ¥13,000
入場券ご購入にあたり、あらかじめご了承ください。
表記の出演者は2016年8月22日現在の予定です。病気や怪我などのやむを得ない事情により出演者が変更になる場合があります。その場合、指揮者、主役の歌手であっても、代役を立てて上演することになっておりますので、あらかじめご了承ください。出演者変更にともなうチケットの払い戻し、公演日・券種の変更はお受けできません。最終出演者は当日発表とさせていただきます。お申込みいただいた後の変更はお受け出来ません。またお支払い期限までにご入金が確認できない場合は、お申込みは無効とさせていただきます。 ● 開演時間に遅れますと、休憩時間までお待ちいただくか、場合によっては指定された場所でのお立見になります。 ● 会場内での写真撮影・録音・録画等、著作権・肖像権を侵害する行為がなされた場合は、機材をお預かりし、記録されたメディアやデータを没収または消去させていただきます。 ● 本公演会場には駐車スペースがありません。 ● 未就学児童のご入場はお断りします。 ● インターネットオークション等による営利目的での転売はお断りします。
主催:公益財団法人日本舞台芸術振興会 日本経済新聞社 共催:神奈川県民ホール(横浜公演) 後援:オーストリア大使館 ウィーン在日代表部