国内名門蒸留所の原酒不足に対応したジャパニーズワールドブレンデッドや、世界各地で人気急騰のクラフトウイスキーが新たな潮流を作っている。そんなウイスキー新時代に、「今だから飲むべき1本」を探る。
Photographs_KATSUNORI SUZUKI.
Edit&Words_POW-DER.
かけがえのない“時間”を味わうお酒
ウイスキーの魅力とは! ?
ウイスキーは原産国、蒸留所、熟成年数によって、種類も味もそれこそ千万無量だ。そこでウイスキーの達人、栗林幸吉さんに最近のトレンドやお薦めのお酒、飲み方などを伺った。
東京都豊島区に、ウイスキー好きには聖地に近い存在の小売酒販店がある。その名は『目白田中屋』。店内には世界中のウイスキーはもちろん、ワインや日本酒まで整然と並んでいる。そして、店主の栗林幸吉さんもまた、ウイスキー業界では知られたお人である。なにしろ今までに訪れた蒸留所は300カ所以上、試飲したウイスキーは5000種以上! そんな豊富な経験と深い造詣を持つ栗林さんに、ウイスキーの魅力について伺った。
「ウイスキーというのは、一朝一夕で味が完成するものではありません。ウイスキーの味の完成には〝人〞すなわち酒造りの人達のこだわりや姿勢、技術の高さと、〝土地〞すなわち蒸留所の風土や気候、水などが良質であることが重要。それに加えて、〝時間〞も凄く大切な要素なんです。ウイスキーが美味しく完成するには、10年以上もの熟成期間が必要なわけで、その10年というのはどんなにお金を積んでもどうにもなりません。そんなかけがえのない時間を楽しむことができるのも、ウイスキーの魅力と言えるでしょう。ですから、綺麗な水と澄んだ空気など、ウイスキー造りの好条件が揃ったスコットランドで丁寧に蒸留されて、しっかりと熟成させたスコッチウイスキーは、飲むと感動すら覚えます」と語る栗林さんの眼差しは熱い。
では、ここ最近のウイスキーのトレンドはいかがだろう?
「北海道・厚岸のウイスキーを筆頭にジャパニーズモルトが人気を呼んでいますが、それはひとえに日本人の真摯な酒造りへの姿勢と、繊細な味覚が美味しいウイスキーを生んだからでしょう。日本のウイスキーが世界中で大量に消費された結果、原酒が足りなくなるという事態に陥りました。そこで世界の名蒸留所の原酒をブレンドすることで、ワールドブレンデッドウイスキーが脚光を浴びるようになったんです。一方、台湾の大手飲料メーカーがウイスキーを造り始めたように、世界各地の新興ブランドも見逃せません。新しいからこそ、小さなメーカーだからこそ出来る個性豊かなクラフトウイスキーは、これからに期待したいですね」と栗林さんは語る。
さて、そんな達人の言葉で美味しいウイスキーが飲みたくなったら、ぜひ次ページのお薦
めを参考にしていただきたい。
ウイスキーの達人が掲げる 良いウイスキーの条件
1. 【余韻が長い】
良いウイスキーは飲んだあとに、口の中に味や香りがいつまでも残る。「その余韻をいつまでも楽しんでいたくなるのが、ウイスキーの魅力ですよね」。
2. 【強い個性がある】
穀物の味や香りの他に、潮の味や草の香りが強いものもある。苦手な人には「ウッ」となるくらい個性的なウイスキーもあるが、「その個性が堪らない!」と達人は推す。
3. 【飲みやすい】
味や香りの“角”が取れて、誰もが飲みやすいウイスキーもある。達人曰く、「条件2と相反しますが、その飲みやすさもまた良いウイスキーの条件なんです」。
牡蠣に合うジャパニーズシングルモルト
THE AKKESHI 寒露
日本 ¥16,500(税込)
北海道の厚岸蒸留所で作られているシングルモルトウイスキー。「いろいろな味と香りを試行錯誤し、最終的には地元の牡蠣に合うテイストを選択したそうです。なので、牡蠣と一緒に飲むと最高ですよ」と、栗林さんは太鼓判を押す。海の潮の香りと、スパイシーかつ心地よく柔らかなピート感は、厚岸産の牡蠣にベストマッチ。
達人が期待するアジアの新鋭ブランド
KAVALAN
台湾 ¥14,500(税込)
台湾の大手飲料メーカーが、豊富な資本を元に造り出したシングルモルトウイスキー。スコットランドから専門家を呼んだり、日本の著名な蒸留所を見学しただけあり、トロピカルな香りとクリーミィな味わいは世界中のウイスキー好きを唸らせている。「あとはどれだけ長期熟成をできるかどうか」と、今後に期待する。
目白田中屋
住所:東京都豊島区目白3-4-14 田中屋ビルB1
TEL:03-3953-8888
営業時間:11:00~20:00
休日:日曜
PROFILE
栗林幸吉さん Koukichi Kuribayashi
知る人ぞ知るウイスキーの名店『目白田中屋』の店長。ウイスキーに関する広い知識と深い造詣は、酒メーカーやお客から絶大な信頼を得ている。そもそもウイスキーにのめり込んだのは、若い頃バイトしていたお店に故・松田優作らが訪れて、ウイスキーをカッコ良く飲んでいる姿に魅了されたのがきっかけだったとか。
ウイスキーの達人 栗林幸吉さんが薦める
厳冬に染みるウイスキー
せっかくの美味しいウイスキーだからこそ、香りや味を深く堪能したい。そこで栗林さんに、ウイスキーの賢い嗜み方を教えてもらった。
「ウイスキーはストレートで、それも常温で飲んでいただきたいですね。出来ればテイスティンググラスに注ぎ、まずは液体せの色をチェック。銘柄や熟成年数などによって異なる色合いを、しばし楽しんでください。次はグラスの口に鼻を近づけて、香りを味わいます。いよいよ飲んだら、口の中全体で複雑な味を堪能しつつ、鼻腔に抜ける香りも楽しんでください。そして最後は、飲んでからの余韻に浸りましょう。良いウイスキーは口の中にいつまでも余韻が残るので、決して次のひと口を急いで飲まないように」
う〜む、話を聞いているだけで、美味しさが想像できる。早速試してみよう。
「そうそう、自分の基準となる1本を決めると良いですよ。それを基準にして『もっと潮の香りが強いものを飲もう』とか、『今度は甘めを飲んでみよう』とか……ウイスキーの世界がどんどん広がって行きますから」
と笑う栗林さん。
なるほど、1本を基準にして、香りと味の振り幅で2本目、3本目と決めていくというわけだ。ということは、最低でも3本は飲むことになる……!?
いやはや、今年の冬は長い夜になりそうだ。
World blended whisky 【ワールドブレンデッドウイスキー】
世界の名原酒の個性を生かしつつ、絶妙に仕上げた“新しい味”が魅力。達人曰く、「日本人の繊細な味覚と秀逸なブレンド力が生んだジャパニーズブレンデッドウイスキーは秀逸」とか。
名ブレンダーが生み出したまったく新しい価値
碧 Ao
日本 ¥5,500(税込)
世界5大ウイスキーの産地の原酒を名ブレンダー、福與伸二氏がブレンド。甘く華やかな香りとまろやかで厚みのある味わい、さらにスモーキーな余韻が世界中のウイスキーファンを魅了。「調和が取れたテイストは、まさにサントリーならではの仕上がりだと思います」。
サントリースピリッツ
TEL:0120-139-310
スコットランドと日本が融合した個性が光る!
NIKKA ses ion
日本 ¥4,180(税込)
「誰でも気負いなく楽しめること」と「古くからのウイスキーファンも虜にすること」をテーマに、スコットランドと日本のモルトをブレンド。オレンジやリンゴのような爽やかな香り、モルトの甘みと香ばしさ、なめらかでクリーミィな口当たりが魅力だ。「ニッカらしい個性豊かな逸品」とイチ押しする。
アサヒビール
TEL:0120-011-121
ワールドブレンデッドを代表するこだわりの逸品
Ichiro’s Malt & Grain
日本 ¥3,850(税込)
日本が…いや、秩父が世界に誇るワールドブレンデッドウイスキー。こだわりのウイスキー職人、肥土伊知郎氏が造っただけあって、芳醇さと軽快さを併せ持ち、かつ穏やかな口当たりは世界最高峰と言っても過言ではない。「秩父の山奥で、真摯にスコッチらしい味を作り出しているんです」と、栗林さんもファンだとか。
Craft whisky 【クラフトウイスキー】
「小規模だからこそ生み出せる強い個性が、クラフトウイスキーの魅力」と栗林さんが明言。そんな個性豊かなウイスキーが世界中でどんどん出現しているので、今後に期待が高まる。
不死鳥がトレードマークのアイリッシュウイスキー
TEELING
アイルランド ¥5,500(税込)
「口に含むと驚くほどの甘さを感じます。こんな独特の味が出せるのがクラフトウイスキーの魅力」と絶賛するのは、2015年にダブリンで造られ始めたシングルモルト。栗林さんが指摘する甘さの中に柑橘系の爽やかさと、3回蒸留ゆえのクリーンなテイストもあり、誰でもスイスイ飲めるのが嬉しい。
オーガニックトウモロコシを使った風味豊かなバーボン
Kings County Distillery
アメリカ 375㎖ ¥6,700(税込)
「2009年のニューヨーク州の酒類製造法規制緩和をきっかけに、二人の若者が“ニューヨークで一番古い蒸留所”で作り出したんです」と語る栗林さん。ヒップフラスコを模したボトルに入ったバーボンは12カ月以上アメリカンオーク樽で寝かせたこともあり、風味豊かなフレーバーと濃厚な味わいが魅力だ。
歴史あるモルトの聖地に新しいシングルモルトが誕生
KILCHOMAN
スコットランド ¥6,000(税込)
2005年、“ウイスキーの聖地”アイラ島に124年ぶりに誕生した蒸留所で造られているシングルモルト。原料の大麦を蒸留所で栽培しているおかげで、アイラモルトらしいピート&スモーク感が凝縮したリッチな味わいを実現。「液体とラベルの色がとても印象的!」と達人が指摘するように、美しい見た目も魅力だ。
Single malt whisky 【シングルモルトウイスキー】
単一蒸留所の原酒のみで造られるため、その土地の風土や水、気候などが溶け込んだ味わいが魅力。「新興ウイスキーもいいですが、やっぱり王道のスコッチは別格です」と絶賛する。
アイラ島の絶品モルトは芳醇で長い余韻を楽しむ
LAGAVULIN
スコットランド ¥12,000(税込)
創業200年を越える蒸留所で造られている王道ブランド。この〈ダブルマチュード ディスティラリーズエディション〉は8年物や16年物と違い、甘さとスモーキーさのバランスが良く、絶妙な味わいに仕上がっている。「熟成の最後に甘めのシェリー樽に移し替えるんです」と、達人は美味さの秘密を指摘する。
熟成樽にこだわりを持つハイランド地方の名酒
GLENDRONACH
スコットランド ¥16,000(税込)
「グレンドロナック21年はビターチョコの苦さとアプリコットの甘さが、絶妙なバランスなんです」とその魅力を分析。その秘密は辛口と甘口の2種類のシェリー樽で熟成しているから。スコットランドで最も古い歴史を持つ蒸留所の名ラベルにもかかわらず、コストパフォーマンスに優れているのも嬉しい。
ゴルフの巨匠達も愛飲した由緒正しいスコッチ
GLENMORANGIE
スコットランド ¥11,000(税込)
創業177年の伝統あるスコッチをゴルフの巨匠、ヘンリー・ニュートン・ウェザーレットも愛飲したとか。他のスコットランドのウイスキーとは違い、硬水(敷地内の湧き水)を使用した複雑で奥行きのある味わいに、巨匠も舌を唸らせたに違いない。「華やかな香りと味は、女性にも人気があります」。
※「碧 Ao」と「NIKKA session」を除き、価格は『日白田中屋』の参考価格です。