TOP MAGAZINE特集 手付かずの日本の美がここにある 新潟、庭園街道へ。

手付かずの日本の美がここにある 新潟、庭園街道へ。

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新潟県には、豪農や豪商たちが残した邸宅、寺院・町屋などの伝統建築と日本庭園が集中している「にいがた庭園街道」と呼ばれる150km(国道290号線)の街道がある。2019年には国土交通省ガーデンツーリズム制度に認証登録され、国指定名勝や国登録有形文化財も数多く含む、見どころ満載の街道だ。街道周辺には、泉質の異なる上質な温泉が豊富に湧き出ており、旅の疲れを癒すにことかかない。29の施設(伝統建築、日本庭園)と12の温泉宿をつなぐ山裾ののどかなこの街道には、日本の原風景である里山や水田、棚田、集落、山々が続き、思いがけずノスタルジックな気分に誘われる。古き良き日本の風情と情緒、そして何世代にもわたって培われ、語り継がれてきた人々の暮らしと歴史・文化を感じさせるにいがた庭園街道で、まだ見ぬ日本の美、さらには先人たちの想いに触れてみよう。

豪農たちが共存・共栄の志で作った庭園と建築

にいがた庭園街道沿いに点在する全29の日本庭園や伝統建築、そのうちの18施設が市井の人である豪農・豪商たちによって造られたものだ。

新潟の地は、今でこそ豊富な農作物を育む恵みの大地だ。ところが江戸初期までは潟や湿地が広がり、人々は水害に苦しめられてきた。そんな氾濫原を開拓した人々の中から、やがて豪農と呼ばれる巨大地主が誕生。彼らは明治期に最隆盛期を迎えた。造園や建築に贅の限りを尽くしたのも、富を地域へ還元し、小作人や村人の雇用を促すという目的があったからだという。それを裏付けるように「お椀一杯の土を運んだら、同じ量の米で返す」、「建物は地元の材料を使い、地元の職人に建ててもらう」などのエピソードが今に伝わる。豪農たちに宿っていたノブレス・オブリージュ(身分の高いものはそれに応じて果たすべき社会的責任と義務がある)の精神。そんな先人たちを想う時間も、この旅の醍醐味のひとつだろう。

震災や戦災を逃れた新潟の庭園や建物は、造られた当時のまま残っているところが大半で、往時の様子に思いを馳せることが容易だ。また日本庭園を代表する池泉回遊式、枯山水、露地(茶庭)、そして和風建築(室内)を代表する書院造り、数寄屋造り、茶室がすべて見られるのもにいがた庭園街道の特徴と言える。各施設では、日本庭園を見るポイントや意匠を解説するガイドが常駐し、歴史・文化への知的好奇心が満たされること必至だ。

今まで知らなかった手付かずの日本との出会い。そんな気づきと学びに満ちた豊かな旅は、にいがた庭園街道ならではだと言える。

渡邉邸(わたなべてい)

最盛期は70名以上の用人も住んだ偉容を誇る豪商農・大庄屋の屋敷

3000坪という広大な敷地にある豪商農・大庄屋の邸宅。国指定重要文化財となっている母屋は、屋根が木羽板20万枚と石1万5000個を使った石置木羽葺屋根の撞木造り。地域に雇用を生み出し、経済を循環させた豪壮な建築。

渡邉邸(わたなべてい)

石を主役、木を脇役と見立てる「主石賓木」の池泉回遊式庭園は、国指定名勝。遠州流庭師が作庭した後、名匠・田中泰阿弥が修復。

TEL:0254-64-1002
住所: 新潟県岩船郡関川村下関904
料金:一般600円、小・中学生250円
休業日:12月29日〜1月3日
日営業時間:9:00〜16:00

普済寺(ふさいじ)

ホタルや山椒魚も生息する庭園は、1周およそ15分

室町時代に創建された500年の歴史を持つ曹洞宗の古刹。山の地形を生かした庭園は、正面はもちろん、築山上部から遠くの里山まで見下ろした眺望は見事なもの。滝の音が心地よく聴こえる中で、四季折々の草花を愛でたい。

普済寺(ふさいじ)

裏山の山裾の地形を利用した池泉式庭園は、住職自らが40年ほどの歳月をかけ造園。丹精込めて育てられた山野草も必見だ。

TEL:0254-72-1974
住所: 新潟県村上市大場沢1847
料金:無料
休業日:年中無休
営業時間:9:00〜16:00

大観荘せなみの湯(たいかんそうせなみのゆ)

空・海・湯のグラデーション五感を満たす和風リゾート

日本海の大海原に沈む夕日を眺めながら温泉につかり、歩き疲れた体をほぐす。複数の大浴場・露天風呂のほか、完全予約制の貸切露天風呂も。また地元名産の村上牛をはじめ、新潟の四季の味わいを存分に堪能できる。

大観荘せなみの湯(たいかんそうせなみのゆ)

やわらかな湯けむりはもちろん、海を渡ってきた潮風が肌にあたる心地よさは、海岸まで徒歩0分という恵まれた立地ならでは。

TEL:0254-53-2131
住所:新潟県村上市瀬波温泉2-10-24
料金:1泊19,400円〜(2名1室1名、税・サービス料・入湯税込、夕・朝食付き)
全81室 IN:15:00 OUT:10:00

村上の町屋と中庭(むらかみのまちやとなかにわ)

間口が狭く奥へ深い“うなぎの寝床”のような町屋

江戸や明治に建てられた町屋が今なお300棟を超えて現存する城下町の村上では、建物内部や庭などの生活空間を見学できる店が15軒ある。一軒一軒をのんびり巡るのも楽しい。当時の空気感を感じながら城下町の風情を味わおう。

  • 村上の町屋と中庭(むらかみのまちやとなかにわ)
  • 村上の町屋と中庭(むらかみのまちやとなかにわ)

雑貨を扱う「ギャラリーやまきち」(新潟県村上市肴町8-4)も内部を見学できる店のひとつ。中庭を含む建物は、国登録有形文化財に指定。

村上の町屋と中庭に関するお問い合わせは、事務局の千年鮭 きっかわ へ

千年鮭きっかわ(せんねんざけきっかわ)

この地の気候と対話するように伝統の自然な製法を貫く

村上の地で平安時代から受け継がれ、暮らしに根ざしてきた鮭の食文化を守り、鮭の加工品(塩引き、酒びたしなど)を製造・販売。明治時代の町屋で昔ながらの座売りをする。国登録有形文化財にも指定され、中庭の見学も可能。

千年鮭きっかわ(せんねんざけきっかわ)

塩引き鮭を1年がかりで乾燥熟成し、「鮭の酒びたし」を作る。天井の梁から鮭が1000尾以上吊るされた様子が圧巻だ。

TEL:0254-53-2213
住所:新潟県村上市大町1-20
休業日:1月1日
営業時間:9:00〜17:30

清水園と足軽長屋(しみずえんとあしがるながや)

茶会や能楽など江戸文化の薫りを今に残す

新発田藩の3〜4代目藩主によって創建された風格ある下屋敷。草書体の「水」の字をかたどった大池泉のある回遊式庭園の周りには、数寄屋造りの書院と5つの茶室が配された風雅な造りの国指定名勝。足軽長屋は国重要文化財。

清水園と足軽長屋(しみずえんとあしがるながや)

清水園の東側を流れる新発田川を隔てた路すじにある足軽長屋。幕末の下級武士の暮らしぶりを伝える住居は、極めて貴重な遺構。

TEL:0254-22-2659
住所:新潟県新発田市大栄町7-9-32
料金:一般700円、小・中学生300円
休業日:年末、1・2月の水曜日
営業時間:9:00〜17:00(11月〜2月は16:30閉館)

市島邸(いちしまてい)

当時の繁栄を物語る総檜の破風造りの四脚門

敷地8000坪、越後最大の千町歩地主の邸宅は、広大な敷地の中に12棟1構を構え、圧倒的な財力を物語っている。建物の大半は、明治初期の代表的住宅建築として簡素優雅な趣があり、回遊式庭園との美しいハーモニーを奏でる。

市島邸(いちしまてい)

写真の表門をはじめ、玄関、朔月閣、南山亭、松籟庵、水月庵、説教所など敷地内の12棟1構が新潟県有形文化財に指定されている。

TEL:0254-32-2555
住所:新潟県新発田市天王1563
料金:一般620円、小・中学生310円
休業日:水曜日(祝日の場合は翌日)、12月29日〜1月3日
営業時間:9:00〜17:00(12月〜3月は9:30〜16:30)

白玉の湯 華鳳(しらたまのゆ かほう)

心からくつろげる細やかで懐深いおもてなし

大正時代の石油開発によって偶然にも湧出したことで、温泉地として発展を遂げた月岡温泉。その中で華鳳は、温かな旅情とラグジュアリーでモダンな快適性が共存する旅館。自慢の硫黄泉は国内随一の成分含有量を誇る自家源泉。

白玉の湯 華鳳(しらたまのゆ かほう)

ゆったりと散策を楽しめる旅館の大庭園は、夕方になるとライトアップ。高台にある舞台では、新潟・月岡の郷土芸能が披露されることも。

TEL:0254-32-1515
住所:新潟県新発田市月岡温泉134
料金:1泊26,550円〜(2名1室1名、税・サービス料・入湯税込、夕・朝食付き)
全109室 IN:15:00 OUT:10:00

五十嵐邸ガーデン(いからしていがーでん)

産米改良の指導を通して地域に密着・貢献した豪農の邸宅

約5000坪の広大な敷地に建つ明治・大正期の豪農・実業家の大邸宅は、威風堂々とした外観はそのままに、現在は阿賀野川の伏流水を用いたスワンレイクのブルワリーを併設したレストラン、結婚式場として利用されている。

五十嵐邸ガーデン(いからしていがーでん)

約2500坪の回遊式日本庭園は、園遊会ができる芝庭と、その先に広がる伝統的な池泉回遊式の組み合わせ。夜のライトアップも美しい。

TEL:0250-63-2100
住所:新潟県阿賀野市金屋340-5
料金:無料
休業日:火曜日
営業時間:9:00〜18:00

北方文化博物館(ほっぽうぶんかはくぶつかん)

7段に組まれた梁など大豪邸ゆえの職人技に注目

新潟を代表する大地主・伊藤家の本宅として8年の歳月をかけ建造された部屋数65の主屋は、豪農の館と呼ぶにふさわしい豪壮な近代和風の大邸宅であり、国登録有形文化財でもある。現在は、邸宅や収集した美術品などが見られる博物館として一般公開。

北方文化博物館(ほっぽうぶんかはくぶつかん)

30mの杉の丸桁を使用した、100畳敷大広間から眺める京都風古庭園の風格を持つ池泉回遊式庭園。庭園には大茶会に備え5つの茶室が点在。

TEL:025-385-2001
住所:新潟県新潟市江南区沢海2-15-25
料金:大人800円、小・中学生400円
休業日:年中無休
営業時間:9:00〜17:00(12月〜3月は16:30閉館)

旧齋藤家別邸(きゅうさいとうけべってい)

日本画家・佐藤紫煙の板戸絵をはじめ随所に贅を尽くした造り

豪商がゲストをもてなすために建てた、近代和風建築の秀作といわれる迎賓館は、大正時代の港町・商都としての新潟の繁栄を物語っている。庭園と建物の一体美の趣向で造られた開放的な建物で、各部屋からの庭の眺めも最高。

旧齋藤家別邸(きゅうさいとうけべってい)

高低差のある自然の砂丘地形を巧みに利用して、水の流れを作り出した国指定名勝の池泉回遊式庭園。建物と庭が完璧に調和している。

TEL:025-210-8350
住所:新潟県新潟市中央区西大畑町576
料金:一般300円、小・中学生100円
休業日:月曜日、休日の翌日、年末年始、その他臨時休館あり
営業時間:9:30〜18:00(10月〜3月は17:00閉館)

にいがた庭園街道ネットワーク http://teienkaido.niigata.jp/

※2022年5月10日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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