オフィスで、街中で、自宅のリビングで、ちょっと周囲を見回せば、私たちは実に多くの色に囲まれている。しかし、意外にそれらの色をこと細かに意識することは少ない。
意識する、しないに関わらず、色には人の気持ちを高揚させたり落ち着かせたり、さまざまな心理的効果があり、使い方次第で仕事効率をアップさせることも、コミュニケーションを円滑にすることも可能だという。色が持つ心理的効果を理解し活用することで、私たちの毎日は大きく変わるのだ。
色には人の心を動かす力がある
利用しないのはもったいない
職場の部下ともっとコミュニケーションを図りたい、家ではリラックスしたい、最近、寝つきが悪くて困る……。
「そんな時、ファッションや仕事で使っているステーショナリーなど、身のまわりの“色”を意識し、“色の力”を利用すればうまくいきます」。
そう語るのは、カラーキュレーターとして多くの人の人生を変えてきた七江亜紀さん。
果たして、色にはどのような力があるのか、仕事や暮らしの中でどのように取り入れたらいいか、活用の仕方を伺った。
PROFILE
色のひと® /カラーキュレーター®
株式会社ナナラボ
代表取締役 七江 亜紀
トータルカラーコンサルタントとして、色に関するさまざまな問題について25年間取り組んでいる。クライアントは自動車メーカー、飲食店チェーン、調剤薬局、下着メーカー、化粧品会社など多岐にわたり、取り扱うテーマは商品開発から人材教育までと幅広い。専門家を対象とするセルフブランディング、パーソナルスタイリングも人気で、その実績は3万人以上。著書多数。
- ビジネスマンにオススメの著書
『色はビジネスの武器になる あなたの仕事効率が劇的にアップする55の方法』
祥伝社 1,650円(税込) - 最新刊
『自分の機嫌は「色」
でとる』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 1,760円(税込)
さまざまなところで活かされている色の力
突然だが、クローゼットに納められた洋服やネクタイ、ハンカチの色。普段持ち歩いているカバンや財布、スマートフォンなどの色を思い浮かべてみてほしい。なんとなく同じような色が並んではいないだろうか?
「男性はよほどファッションや流行に関心のある方でないと、自分が身につけるものは同じような色を選びがちです。失敗したくないという気持ちから、これまで無難にやり過ごせてきた色を手に取る傾向が強くなるのですが、色の力を利用しないのはもったいないですね」と、七江亜紀さん。
色の力とは心理的効果のことで、色には人の心理に働きかけ、元気づけたり、落ち着かせたり、癒しを与えるといった作用があり、それぞれの色が持つ心理的効果を理解し、意識して色を選ぶことで人に与える印象をコントロールしたり、人間関係をよくしたり、仕事の効率を高めることもできるそうだ。
「たとえば、政治家が大衆の前で演説するときは赤のネクタイをしめて情熱的でパワフルな印象を与え、討論会の際には青のネクタイで知的さ、冷静さを演出するという話はよく知られていますが、それを徹底して実践したのがアメリカ前大統領のドナルド・トランプ氏です。また、身につけるものに限らず、使う道具の色が効果を発揮する場面もあります。私は、普段は青や黒のペンを使っているのですが、モチベーションを高めたいときは赤いフォルムのペンに持ち替えます。すると、次第にエネルギーがわいてくるのを感じることができます」
大衆の前では常に鮮やかな赤いネクタイで、強いリーダーシップを印象付けたドナルド・トランプ氏
気になる色で心理状態がわかる
早速取り入れてみようと思っても、例えば「赤」といっても、いろいろな「赤」があり、どれを選べばいいか迷いそうだ。
「色は明るさ(明度)や鮮やかさ(彩度)の違いで印象が異なります。ファーストフード店やファミリーレストランなどで多く使われている少し黄みがかった赤はセールや売り出しの広告や店頭でもよく見られ、少々チープな印象を与えがちですが、一方、明るさを抑えたダークな赤や、少しグレーがかった赤は高級感を感じやすいのです。こうした感じ方の違いというのは、人それぞれの経験から得た情報や知識によって異なることもあります。ですから、自分の感覚にあったもの、“これなら”と思う色を選ぶようにするといいでしょう」と七江さん。
また、気になる色はそのときの心理状態を表しているので、普段は意識することがない店の看板の色が目にとまったり、普段は気にならない色が気に障ったりしたときは、「なぜだろう?」と考えてみるといいそうだ。
「やる気をアップさせたくて無意識に赤に目がいくこともあれば、冷静になりたいときに赤い色が邪魔だと感じることもあるので、自分が置かれている状況をよく考えて、必要な色か避けるべき色かを判断しましょう。必要な色をより多く、不要な色をより少なくすることで、気持ちが落ち着き、物事がスムーズに運ぶようになります」
難しく考えず、まずは、自分に必要と思われる色を意識して、積極的に取り入れてみよう。
代表的な色の心理的効果
色にはそれぞれ特有のイメージや心理的効果がある。その一例を紹介しよう。
「寒色」と「暖色」の印象の違い
「寒色」は、青、青緑、青紫など、寒さや冷たさを感じさせる。「暖色」は赤、橙、黄色など暖かさを感じさせる。どちらにも該当しない緑、紫などは「中性色」という。
「明度」と「彩度」による印象の違い
「明度」とは色の明るさの度合いのこと。明度が高いほど明るくやわらかな印象になり、低いほど落ち着きや重厚感を感じさせる。「彩度」とは色の鮮やかさ度合いのこと。彩度が高いほど色に濁りがなく、低いほど色がくすみ地味な印象になる。
ビジネスで色を活かす
社内外の人間関係やモチベーション、思わぬトラブルなど、ビジネスでは自分の力だけで解決するのが難しいことは多い。
そんな時にこそ、色の持つ心理的効果を積極的に利用したい。
ビジネスシーンにおける効果的な色の使い方を紹介しよう。
色でなりたい自分を演出する
フランクな上司を目指すなら「橙(オレンジ)」
部下とのコミュニケーションを図りたい、もっと気軽に話しかけてもらえるようになりたいという人は、陽気さや親しみやすさ、安心感を与える「橙」の力を積極的に利用しよう。身につけるのが難しければ、手帳やスマホケースを「橙」にしてデスクの上に置いておくとか、部下の前でオレンジジュースを飲むといったことでOK。
プロ意識の高さを伝えるには「黒」
商談やプレゼンでプロ意識の高さをアピールしたい、信頼を得たいというときは高級感や威厳を感じさせる「黒」。スーツだけでなく、手帳や筆記具、眼鏡など小物も「黒」で統一すると話に重みが加わり説得力が増す。「黒」は何にも屈しない強い色でもあるので、苦手なクライアントを前にしてもプロ意識を保ち、堂々と振舞うことができるはず。
ランチのお店やメニューを色で選ぶ
午後のやる気を引き出すには「赤」
「赤」は人に活力を与えやる気を引き出す色。中華料理店やイタリアンレストランは内装に「赤」を使っている店が多いのでおすすめ。麻婆豆腐やトマトソースの赤い色の料理でエネルギーをチャージしよう。
冷静になりたいときは「緑」や「グレー」
仕事が思うように進まずにイライラしたり、ムシャクシャしているときは、気持ちを落ち着かせてくれる「緑」や、調和や中立の色、「グレー」が効果的。グリーンサラダやグレーの蕎麦がいらだちを抑えてくれる。内装もカラフルな店は避け、落ち着いた雰囲気の店を選ぼう。
ランチミーティングはカラフルな色遣いの店で
ざっくばらんに意見を言い合い、皆のモチベーションを上げたいなら、気持ちを高揚させる「赤」や「黄」など明るい色遣いの店を選ぼう。「せっかくならいい店で」と高級店を選びたくなるが、黒や茶、白を基調にしたシックな内装だと打ち解けた雰囲気にならず、モチベーションアップも期待できない。
仕事効率をアップさせる色
仕事をスピードアップしたいなら「青」
仕事を早く終わらせたい、残業を減らしたいならデスク周りを「青」で統一してみよう。クールな印象の「青」は気軽に話しかけにくい雰囲気を作るので不要な雑談が減り、仕事に集中できる。自分の気持ちも冷静になり、雑然としたデスクがうるさく感じられ自然に整理整頓するようにもなるので、作業効率がアップする。赤や橙などの暖色は気分を明るくしてくれるが、気持ちが緩んで“まあいいか”という気持ちになりがちなので要注意だ。
ひらめきが欲しいときは「黄」
新しい企画やアイデア出しで行き詰ったときの突破口を開くのは「黄」。明るい色の刺激で心が解放され、自由な発想につながる。クリーム色などの淡い色よりも、鮮やかな「黄」のほうが効果的。資料を綴じるファイルやマーカー、付箋など、目につく小物を「黄」にしてみよう。
ここぞという場面で使う色
プレゼンには「赤」や「橙(オレンジ)」
勝負服ならぬ勝負色はやはり「赤」。「赤」のネクタイは定番だが、さらに「赤」のポケットチーフをのぞかせればよりエネルギッシュで意欲を感じさせる。“「赤」のネクタイはちょっと…”という人は、「赤」の下着でもいい。身につけていることで自然と活力がわいてくる。人前で話すのが苦手でプレゼンでは緊張しがちという人は、親しみやすく、心をほっとさせる「橙」で緊張をほぐそう。上着の襟につけるラペルピンや手元のペンなど、小さなものでもOK。
謝罪の場に相応しいのは「紺」
トラブルをスムーズに収束させるために必要なのは誠実さや信頼感。それを示すのが、威圧感や重厚感のある黒と冷静さを表す青を混ぜた「紺」。謝罪に赴く際は、「紺」のスーツに白のワイシャツ、「紺」のネクタイがベスト。もしくは、白と黒の中間色「グレー」。存在を薄くし、弱弱しい印象になるので、相手に合わせて選ぶといい。その際に注意したいのが、赤。ネクタイの赤いストライプや筆記具や手帳など、チラッとでも赤が見えると相手をイラっとさせるので要注意。
日々の暮らしで色を活かす
家で過ごす時間をより快適なものにするためにも、
色の力は効果を発揮してくれる。大きな家具やインテリアを変えなくても、必要なときに必要な色が目に入るようにすればいいので、できるところから取り入れてみよう。
気分に合わせてリビングに色を足す
ハードワークが続いているときは「緑」
くたくたに疲れて帰宅したときに欲しいのは「緑」。自然の色で癒されるのが一番なので、できれば観葉植物などを置いておき、疲れているときにぼんやり眺めるだけでも癒し効果がある。
イライラする日が続いているときは「青」
仕事のイライラが家に戻ってもおさまらない。そんなときに効果的なのは、鎮静効果のある「青」。リビングのインテリアを急には変えられないが、クッションカバーやカーテンのタッセルなら簡単に交換できるので、何色か揃えておいて気分に合わせて交換するのがおすすめ。
食卓に添える色で気分も食欲もコントロールする
食欲を抑える寒色系、食欲増進には暖色系
食欲を抑えたいという人は、ランチョンマットや食器、箸、箸置きなどを「青」にしてみよう。「青」は見ているだけで冷たく感じるので、料理がおいしそうには見えず食欲そのものを減退させる。逆に、「赤」や「橙」などの暖色系は温かさを感じるので料理がおいしそうに見え、食欲を増進させる効果がある。
高級な雰囲気を演出したいときの器は「黒」
人を招いたり、ちょっと贅沢な雰囲気で食事を楽しみたいときは、シンプルな「黒」の皿に赤いトマトソースのパスタや、真っ白な皿にグリーンサラダといった具合に、料理と器の色のコントラストをつけるといい。カラフルな色・柄の入った器は楽しげだがチープな印象になるので要注意。
寝室には安眠効果を高める色を
寝つきの悪い人は「青」や「緑」の寝具を
布団カバーや枕カバー、シーツの色は睡眠に大きな影響を与えている。寝つきの悪い人にオススメなのは、鎮静効果のある「青」やリラックス効果のある「緑」。感情の高ぶりを鎮め、気持ちを穏やかにし、不眠症にも効果があるとされる。ただし、「青」は体感温度が下がったように感じるので、冷え性の人は「青」の多用は避けたほうがいいだろう。
すっきりした気分で朝を迎えたいなら「白」
「白」は物事を一新する力があり、シーツや枕カバーを「白」で揃えると、目覚めと同時に気持ちがリセットされ、スッキリした気持ちのいい1日をスタートできる。「白」は緊張感のある色でもあるので、少しリラックス感が欲しいなら「アイボリー」や「オフホワイト」を選ぶといい。
朝の洗面台と癒しのバスルームには
朝に弱い人は洗面所に「赤」を、強い人は「緑」
洗面所は身だしなみを整えると同時に、自分と向き合い“今日も1日頑張ろう”と気合いを入れる場。テンションを上げようとするときに必要な色はやはり「赤」。とくに朝が弱い人はコップやタオルを「赤」にして、エネルギーを高めようと意識することが大事。ただ、朝から元気いっぱいという人は気持ちが高揚し過ぎてしまうので、「緑」を使って少しクールダウンしておこう。また、黒は不吉なイメージがあり、エネルギーを吸い取ってしまうので、朝はできるだけ目にしないようにしたい。
1日の疲れを癒すバスルームには「茶」
バスルームにおすすめなのは、大地をイメージする「茶」。洗面器やバスチェア、シャンプーボトルなど「茶」で統一すると地に足がつくような安心感が得られ、よりリラックスできる。壁や床、バスタブが白やグレーなど、色みがないバスルームの場合は「橙」や「黄」などの暖色系でまとめると癒し効果がアップする。
自分のテーマカラーを持とう
「色には“似合う色”と“好きな色”そして、“自分のなりたい色”があります。私はテーマカラーと呼んでいますが、自分がどうありたいか、どう見られたいかを色に置き換えてみるのです。そして、その色を身につけたり、常に目に留まるようにして、なりたい自分を意識することが大切です。2色、3色あってもいいし、数年おきに見直していくのもいいですね」と七江さん。
テーマカラーの一例を紹介するので、ぜひ自分に合ったテーマカラーを持とう。
・リーダーシップを発揮したいなら「赤」
・些細なトラブルには動じない冷静さを身につけたいなら「青」
・積極的に人と関われるようになりたいなら「黄」や「橙」
・ちょっとしたことで感情的になりがちで、穏やかな人になりたいなら「緑」