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美しい文字を書く

書:根本 知

デジタル全盛の今、自筆で文字を書く機会は減りつつある。とはいえ、お祝い事の祝儀袋や葬儀の際の芳名帳、取引先への礼状など、手書きが必要となるシーンは意外と多い。書道教室やカルチャースクールに通わなくても、コツさえおさえれば格段に文字は美しくなる。そのヒントをご紹介しよう。

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監修いただいたのは

根本知さん
書家 根本 知さん

立正大学文学部特任講師。教鞭を執る傍ら、腕時計ブランド「Grand Seiko」への作品提供(2018年)やニューヨークでの個展開催(2019年)など創作活動も多岐にわたる。2024年、NHK大河ドラマ「光る君へ」題字揮毫および書道指導。無料WEB連載「ひとうたの茶席」(2020年~)では、茶の湯へと繋がる和歌の思想について解説、および作品を制作。近著に『平安かな書道入門 古筆の見方と学び方』(2023年、雄山閣)、『書の風流-近代藝術家の美学』(2021年、春陽堂書店)がある。

東依(とうい)/喫茶・ギャラリー・サロン
東依(とうい)/
喫茶・ギャラリー・サロン

東京都千代田区外神田2-1-10
2025年6月に根本さんが茶道家、古美術商、不動産会社経営の3人の仲間と御茶ノ水・聖橋に立ち上げた喫茶・ギャラリー・サロン。内装の壁紙には越前和紙が施され、伝統とモダンが調和した空間で根本さんの書や茶道、古美術など日本文化が楽しめる。予約優先の日本茶カフェではオリジナルの和洋菓子が提供され、根本さんが書や東依の掛け軸、しつらいなどについて語る茶話会も定期的に開催。


心のこもった〝美しい文字〞と
〝きれいな文字〞について学ぶ

2024年放送のNHK大河ドラマ「光る君へ」では、主人公の紫式部や貴族たちが流暢にかな文字を書くシーンがたびたび描かれていた。このドラマの題字揮毫、書道指導を担当した書家の根本 知さんに、美しい文字、きれいな文字について伺った。

〝本当に美しい文字〞は
自信とエネルギーに満ちている

〝美しい文字〞とは、どのような文字なのか。根本さんは〝美しい文字〞と整った〝きれいな文字〞は異なるものだと言う。

「誰が見ても整って見えるきれいな文字の基準は、時代とともに変遷してきました。奈良時代は力強く整った楷書が尊ばれ、平安時代になると柔らかく、崩しを加えた左右非対称の文字が良いとされました。そして活版印刷技術が発達した明治時代以降、きれいとされる文字の基準は活字のような垂直・平行に整った均一な文字へと変化していきました。

時代によって変化してきた〝きれいな文字〞の基準

時代とともに〝きれい〞〝整っている〞といわれる文字の基準は変遷した。その代表例を紹介する。

奈良時代・平安時代初期は、中国風の書体が模範とされた。

日本書紀巻第十残巻 紙背 性霊集

日本書紀巻第十残巻 紙背 性霊集
(にほんしょきかんだい10ざんかん しょうりょうしゅう)
国宝、所蔵:奈良国立博物館
写真/Colbase
https://colbase.nich.go.jp/collection_item_images/narahaku/1190-0?locale=ja#&gid=1&pid=1)をトリミング

平安時代中期になると、日本独自の感性に基づいた「和様」の書が発展。かな文字の発展もこの美意識を後押しした。

古今和歌集(元永本)上帖

古今和歌集(元永本)上帖
(こきんわかしゅう げんえいぼん じょうじょう)
国宝、所蔵:東京国立博物館
写真/Colbase
https://colbase.nich.go.jp/collection_item_ images/tnm/B-2814-1?locale=ja#&gid=1&pid=5)をトリミング

明治時代以降は西洋から活版印刷技術が導入され、印刷文字(活字)が普及し、きれいな文字の基準は、活字のような均一な形へと変化していった。

尋常小學國語書キ方手本 第6學年用

尋常小學國語書キ方手本 第6學年用:下
文部省著、東京書籍発行 大正12(1923)年
写真/近代教科書デジタルアーカイブ
https://nierlib.nier.go.jp/lib/database/KINDAI/EG00016876/900188302.pdf)をトリミング

一方、文字には人それぞれに個性があります。例えば、〝ヘタウマ文字の元祖〞と称される一休宗純(いっきゅうそうじゅん)や白隠慧鶴(はくいんえいかく)といった禅僧の書には、その人の思想や教えが文字の中に表れていて、人の心を惹きつける美しさ、魅力があります。また、私が好きな武者小路実篤の書も癖は強いですが、独特の味わいが感じられる美しい文字です。たとえ技術は拙くても、思いや個性がそれを上回って、時代を超えた美しさになる場合があるのです。

とはいえ、自分の書く文字に自信がないなら、まずきれいな文字の書き方の基本を学ぶとよいでしょう。きれいな文字の基本をおさえた上で、書き手の個性や思いをのせて、自信を持って書く、それが美しい文字なのです。〝書は人なり〞といわれるように、書き手のエネルギーや思いが込められた文字は、時代を超えても美しく見える文字になるのです」

美しい文字を書く基本は、ゆっくり、丁寧に、そして心を込めることだと根本さんは強調する。デジタル全盛の時代に、あえて手書きで文字を書く意味は、〝心を込めて思いを伝えるため〞なのだから。

ヘタウマの元祖、現在も根強く人気の禅僧の書(禅林墨跡)

臨済宗を主とする禅宗僧侶の書は禅僧の精神性を重視する自由で人間味にあふれた文字、迷いのない書きっぷりの太い文字など、個性的で強い思いが伝わるものが数々残されている。

関山像(かんざんぞう)

禅林墨跡の代表といえば、江戸時代中期に活躍した白隠慧鶴。大衆への布教のため、生命感溢れるユニークな禅画や書を数多く描いた。

関山像(かんざんぞう)
白隠慧鶴筆・自賛。江戸時代・18世紀
所蔵:九州国立博物館
写真/Colbase

七言絶句「峯松」

室町時代の初めから半ばにかけ、一休宗純は既存の権力や権威を厳しく批判し、波乱の生涯を送った。大胆で勢いのある筆跡が特徴。

七言絶句「峯松」 (しちごんぜっく「ほうしょう」)
一休宗純筆。室町時代・15世紀
所蔵:東京国立博物館
写真/Colbase


きれいな文字の基本を習得し自分らしい美しい文字を書く

美しい文字とは、書き手の思いや個性がのった文字であることは分かった。しかし、それでも自分の書く文字にコンプレックスを持つ方はいるだろう。

「やみくもに練習しても文字はきれいに見えません。一般的な書道教室などではお手本に倣って書くことが多いです。しかし、この方法は、練習した文字は上達するものの、それ以外の文字を書く時は苦労します。文字をきれいに見せるには、いくつかのポイント、書き方の基本があります。その基本を頭に入れて書けば、お手本なしでもきれいな文字になります」

それでは、文字をきれいに見せる基本を解説する。


きれいな文字を書くための基本を伝授
コツをおさえれば見違えるような文字に

漢字、ひらがな、文章を書く際の、それぞれのポイント、基本となる書き方のコツを根本さんに伝授してもらった。このポイントをおさえるだけでも、文字は確実にきれいになるという。きれいな文字を書くための第一歩にしてほしい。

漢字はリズム
ひらがなは流れを大切に

漢字をきれいに見せるために、まず気をつけたいことは何か。

「書くリズムです。文字の書き始め(起筆)と終わり(終筆)をしっかりと意識しながらペンを運びます。始めは一文字書くのに時間がかかりますが、慣れてくるにつれて、リズム良く書けるようになります。また、横線をやや右肩上がりに、線と線の隙間の大きさを均一にするときれいに見えるようになります」

ひらがなはどうか。

「ひらがなをきれいに書くには文字の流れに気を配ることが大切です。さらに、ひらがなの元となった漢字(字母)を意識すると、格段にきれいになります。例えば〝あ〞の字母は〝安〞ですので、〝あ〞の二画目の縦線は〝女〞を意識して、〝く〞の文字のようにやや曲げて書くのがポイントです」

最後に、文章をきれいに見せるにはどうしたらよいのか。

「一文字一文字がどんなにきれいでも、それが読みやすくなければ宝の持ち腐れです。文章を書く際は、漢字は大きく、ひらがなは小さく、文字の間隔は狭めて書くのがコツです」

文字をきれいに見せるための最低限のコツをお手本と共に紹介する。自信を持って文字を書くための練習に役立てていただきたい。このポイントをおさえれば、自分の名前も格段ときれいに書けるようになるはずだ。

きれいな文字を書くための準備

正しい姿勢で、
丁寧なペン運びを心掛け

きれいな文字は、美しい姿勢から。背中を丸めて前のめりになるのではなく、ゆったり構えて、丁寧に、ゆっくりと書くことが肝要だ。丁寧なペン運びは自信のある文字に繋がる。

自分に合った筆記具を

筆記具はできれば店頭で試し書きをして、自分の手にしっくりと合うものを選ぼう。万年筆は日本語の縦書きを想定している日本のメーカーのものが、右斜め下に引く線が滑らかになるとのこと。

自分に合った筆記具

根本さん愛用のペン。右上から筆ペン(ぺんてる)、ボールペン(ジェットストリーム/三菱鉛筆)、使い捨て万年筆(プラマン/ぺんてる)、万年筆(セーラー)。ジェットストリームは滑らかで手の動きに合わせやすい。プラマンはペン先がしなり、強弱をつけた線が書きやすいとのこと。

漢字をきれいに見せるコツ

①「三」を構成する横線は3種類に書き分ける

「三」の文字を構成する横線は左の3種類。これが全ての漢字の横線を書く時のポイントになるので、しっかり練習しよう。線と線の隙間の幅をそろえるときれいに見えるので、覚えておこう。

「三」を構成する横線は3種類に書き分ける

②縦線にはしっかりと打ち込みを入れる

縦線の起筆の打ち込みをしっかりと入れると、文字がきれいに見える。「川」の縦線には、払う、止まる、払い切るの3種類を使い分け、全てに打ち込みを入れるのがコツ。

縦線にはしっかりと打ち込みを入れる

打ち込みのない「光」と打ち込みのある「光」

打ち込みのある文字は、打ち込みのない文字と比べて、堂々とした印象になり、きれいに見える。接続部分にも打ち込みを忘れずに入れよう。

打ち込みのない「光」と打ち込みのある「光」縦線にはしっかりと打ち込みを入れる

③横長の「口」は下と右を出す
縦長の「日」は下を両方出す

横長の「口」の文字は下をすぼませるときれいに見えるので、下の接続部分の下と右が出るように書く。整った「口」の文字を書くには、一画目の縦線を斜めに引いた後、二画目の折れの終筆を短めに止めるとよい。「口」の文字が入る漢字は「古」「右」「品」「兄」などたくさんあるので、基本をしっかりマスターしよう。「口」の内部に横線が入る縦長の「日」は、縦線は平行に書き、接続部分は両方下に出す。接続部分を明確に、しっかり書き分けることで、文字にメリハリが生まれ、きれいに見える。

横長の「口」は下と右を出

「品」は右下の「口」をやや大きく書くと、遠近法でバランス良く見える。

縦長の「日」は下を両方出す

「富」は上に「口」、下に「田」があり、「口」は下と右、「田」は下を両方出すことがポイント。貴の上の部分は「口」なので、下と右を出す。縦線を打ち込んで次の横線を強調する(一画強調)。「貝」の「目」は下を両方出す。

ひらがなをきれいに見せるコツ

①ハネと次の点画を結ぶように流れを大切にする

ひらがなを書く時は、次の点画がどこにあるかを常に意識すること。この流れを大切に、例えば「い」「さ」のハネは次の点画に向けてハネ、ハネの受け取り側の点画はハネを受けた始筆をすっと、やや円を描くように書く。「か」は字母の「加」を意識しよう。一画目の横線はやや右上に持ち上げるように書き、その後は下に書き下すとよい。二画目の斜め線は、始筆とハネを結んだ所まで引き、最終画は懐を大きくして書くとバランスが良くなる。

ハネと次の点画を結ぶように流れを大切にする

②結びは丸く書かない

ひらがなの結びを丸く書くと、子どもっぽい文字になるので注意しよう。結びには、おさかな形、おむすび形、おこめ形があるが、現在の学校教育では、ほぼおさかな形に統一されている。おさかな形は、まずJの文字を書いた後、「へ」の文字で結ぶように書くのがコツ。

ハネと次の点画を結ぶように流れを大切にする

文章をきれいに見せるコツ

漢字を大きく、ひらがなを小さく
文字間は狭めて、中心をそろえる

漢字とひらがなを合わせて書く場合は、漢字を大きく書いて、ひらがなを小さく書く。そして文字と文字の間隔をできるだけ狭めると一体感が生まれる。さらに文章をきれいに見せるコツは「行の中心」をしっかりとそろえること。一番上に書いた漢字の幅に、残り全ての漢字の大きさを合わせよう。加えて、行間や上下左右の余白もきれいに整えると◎。

漢字を大きく、ひらがなを小さく

「春夏秋冬」できれいに見える文字のコツを練習しよう

様々な要素を含んだ「春夏秋冬」は、文字をきれいに見せるコツの練習にもってこいだ。繰り返し練習したら、ポイントをおさえながら、自分の名前をきれいに書く練習をしてみよう。

「春」は、3種類の横線と「日」の練習になる。左払いと右払いを結ぶラインが「日」の真ん中の横線と重なるようにするとバランスが良くなる。

「夏」は、上の部分と、下の部分で構成される。最初の「一」で上の部分の一画強調。下の部分は、左払いを短く、右払いを長くして一画強調。上と下それぞれで強調する所を作るとバランスが良い。下の左払いと右払いの終筆がアーチして見えるようにしたい。「夏」をきれいに見せるポイントは見えない横線が一画目の横線と平行になること。

ハネと次の点画を結ぶように流れを大切にする

「秋」は、へんとつくりで構成されている。へんを書く時のポイントは必ず右端をそろえること。つくりの右上の払いは、一旦斜め右下に打ち込みを作った後、すくい上げるように払う。最終画の右払いは長くなり過ぎないように。

「冬」は、フォルムが◇形の文字。一画目はまずしっかりと打ち込みを作り、円を描くように左へ払う。二画目の横線はやや下げて書き、左払いは背中が丸くならないように、直線的に左下に下げた後、払う。左払いと右払いの高さをそろえ、最終画の点の位置で、きれいな◇形になるよう注意して書くとよい。

※2026年1月6日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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