TOP MAGAZINE特集 世界で最も幸福に近い国フィンランドというスタイル

世界で最も幸福に近い国
フィンランドというスタイル

Photo: Visit Finland / Pasi Koutaniemi

「世界幸福度ランキング」で、8年連続首位に立つフィンランド。
この国が「幸せの国」と呼ばれる理由は、経済的な豊かさや、華やかな消費にあるのではない。
国土の大半を占める森と湖。
大いなる自然の存在を身近に感じながら、人々は長い時間をかけて、
自然と共に生きるための社会や文化を形づくってきた。
大自然の存在を前提とした歴史。そこから生まれたシンプルな文化や食。
そうした環境の中で育まれてきた人々の気質。
それらすべてが無理なくつながり、「幸福のベース」となっている。
この国の在り方を一つずつ見つめていくと、フィンランドがなぜ「幸せの国」と呼ばれるようになったのか、
その理由が少しずつ立ち上がってくる。
多くの情報や選択肢に囲まれて暮らす私たち日本人が、
いつの間にか置き去りにしてきたかもしれない〝何か〞。
フィンランド流の幸せに触れたとき、その存在に、改めて目を向けたくなるはずだ。

Text_SAYAKA NAGASHIMA.

自然の豊かさを享受し、ともに生きる

フィンランドは、国土の約75%を森林が占める、ヨーロッパ有数の森林国だ。国内には18万以上の湖が点在し、8万を超える群島がバルト海沿岸に点在する。地形は全体になだらかで、高い山はほとんど存在しない。41の国立公園をはじめとする自然保護区が整備され、ヘラジカやトナカイなどの野生動物が、自然のままに生息できる環境が大切に守られてきた。

夏には太陽が沈まない白夜が続き、夜という概念そのものが曖昧になる。一方、冬は昼間が短く、長い闇の時間と向き合う季節となる。北部では澄んだ空にオーロラが現れるが、これらの現象も非日常ではなく、暮らしの風景の一部として受け止められてきた。

こうした豊かな自然環境を、フィンランドでは「生活の前提」として捉えることを、子どものころから学ぶという。その背景にあるのが、豊かな自然を誰もが享受し、楽しむための、「自然享受権(エブリマンズライト)」という考え方だ。森や湖は私有地であっても、一定のルールを守れば誰もが立ち入ることができる。自然へのアクセスは特別な権利ではなく、社会全体で共有されるものとして位置づけられているのだ。

そのため、人々は週末になれば特別な計画を立てることなく自然の中へ向かい、森を歩き、湖畔に腰を下ろし、ただ時間を過ごす。森や湖は観光の対象ではなく、気の向くままに足を運べる存在だ。自然の中に身を置き、静けさと向き合う行為は、意識的なリフレッシュというより、ごく自然な生活の一部として根づいている。

自然の中で肩書や役割から一度離れ、あるがままの自分に戻る。その感覚を取り戻せる場所が、暮らしのすぐそばにある。フィンランドの人々が大切にしているのは、達成感や高揚感ではなく、心身が静かに整っていく状態だ。何かを手に入れることではなく、「あるがまま」でいられること。そして、それを許してくれる環境が日常に組み込まれていることに、フィンランドにおける幸福の出発点があるといえよう。


フィンランド北部は、オーロラ観測帯の直下に位置する。晴天率の高い冬季には、年間200夜前後も観測できるとされ、なかでも最北部に広がるラップランドは、世界有数の観測地として知られている。

Photo: Visit Finland / Pertti Turunen

フィンランド北部は、オーロラ観測帯の直下に位置する。晴天率の高い冬季には、年間200夜前後も観測できるとされ、なかでも最北部に広がるラップランドは、世界有数の観測地として知られている。


フィンランドには20万頭を超えるトナカイが生息し、その多くが北部で放牧されている。家畜として管理されながらも、森や草原を自由に移動する半野生状態で飼育する点が、この国ならではの特徴だ。

Photo: Visit Finland / Reindeer Farm Jaakkola – Pyhä-Luosto

フィンランドには20万頭を超えるトナカイが生息し、その多くが北部で放牧されている。家畜として管理されながらも、森や草原を自由に移動する半野生状態で飼育する点が、この国ならではの特徴だ。

氷河期の地形が生んだ湖は18万以上にのぼり、国土の約10%を水域が占めるフィンランドは「千の湖の国」と呼ばれてきた。

Photo: Visit Finland / Harri Tarvainen

氷河期の地形が生んだ湖は18万以上にのぼり、国土の約10%を水域が占めるフィンランドは「千の湖の国」と呼ばれてきた。

  • 国土の約75%を森林が占め、計画的な林業と自然保護が長年にわたり両立されてきた。例えば森が私有地でも、「自然享受権」のもと、一定のルールを守れば誰もが立ち入ることができる。

    Photo: Eeva Pukkinen

    国土の約75%を森林が占め、計画的な林業と自然保護が長年にわたり両立されてきた。例えば森が私有地でも、「自然享受権」のもと、一定のルールを守れば誰もが立ち入ることができる。

  • 冬の北部では、太陽がほとんど昇らない極夜の季節が数週間から数ヶ月続く。雪原に映る月明かりや星明かりが際立つのは、人工光の少ない環境ならではの現象であり、静寂そのものが風景となる。

    Photo: Visit Finland / Jaakko Posti

    冬の北部では、太陽がほとんど昇らない極夜の季節が数週間から数ヶ月続く。雪原に映る月明かりや星明かりが際立つのは、人工光の少ない環境ならではの現象であり、静寂そのものが風景となる。

歴史が育んだ、堅実で実直な暮らし

フィンランドは、1917年の独立からまだ100年余りしか経っていない若い国家だ。それ以前の長い時間、この地はスウェーデン、そしてロシア帝国の統治下に置かれてきた。自分たちの意思で国のかたちを選べるようになったのは、決して遠い昔のことではない。独立後のフィンランドは、短い期間で国家としての基盤づくりを進める必要があり、その結果、急激な変革を求めるよりも、社会が確実に機能することを重視し、制度や仕組みづくりに取り組んできた。

こうした歩みは、人々の価値観にも深く影響を与えている。フィンランドの国民性を表す言葉に、「SISU(シス)」という言葉がある。「困難に立ち向かう不屈の精神」「忍耐力」「粘り強さ」などを意味し、古くからフィンランドの根源的な精神性を表す言葉として存在していると言われる。

首都ヘルシンキの都市構造や公共空間のあり方にも、こうした考え方は表れている。19世紀初頭、ロシア帝国統治下で首都として定められたヘルシンキは、計画都市として整備され、官庁や大学、広場を軸に街の骨格が形づくられた。その後も、既存の街並みを生かしながら新たな建物や公共施設が加えられ、時代に合わせた機能が無理なく組み込まれてきた。かつて軍事的な役割を担っていた場所が、いまでは市民や旅行者が行き交う日常の一部となっているように、過去は切り離されるのではなく、現在の暮らしの中で意味を変えながら生かされている。

フィンランドといえば、手厚い社会保障や教育の平等性といった制度が知られているが、人々の幸福はそれだけで成り立っているわけではない。制度を一度整えて終わりにするのではなく、社会の変化に合わせて調整を重ねてきたこともその特徴だ。急激な成長を求めず、自分たちの歩幅で社会を形づくっていく。過去を受け入れ、必要な変化を静かに重ねながら暮らしを紡ぐ。その長い時間の積み重ねの上に、フィンランドの人々の幸福は築かれている。

19世紀、ロシア帝国統治下で整備されたヘルシンキ中心部。ヘルシンキ大聖堂と元老院広場を中心とした都市景観が形づくられた。現在も走るトラムが、計画都市としての骨格を今に伝えている。

19世紀、ロシア帝国統治下で整備されたヘルシンキ中心部。ヘルシンキ大聖堂と元老院広場を中心とした都市景観が形づくられた。現在も走るトラムが、計画都市としての骨格を今に伝えている。


18世紀半ば、スウェーデン統治下でロシア帝国の南下に備える防衛拠点として築かれた海上要塞スオメンリンナ。時代とともに役割を変え、現在は市民や観光客が足を運ぶ世界遺産として親しまれている。

18世紀半ば、スウェーデン統治下でロシア帝国の南下に備える防衛拠点として築かれた海上要塞スオメンリンナ。時代とともに役割を変え、現在は市民や観光客が足を運ぶ世界遺産として親しまれている。

2018年開館のヘルシンキ中央図書館「Oodi(オーディ)」は、現代フィンランドを象徴する公共建築。都市の中心にありながら、木造構造を生かした「市民の居間」で、学びや対話、休息の場となっている。

2018年開館のヘルシンキ中央図書館「Oodi(オーディ)」は、現代フィンランドを象徴する公共建築。都市の中心にありながら、木造構造を生かした「市民の居間」で、学びや対話、休息の場となっている。

column
歴史が育んだ、日常に根づくデザイン

フィンランドでは暮らしを支える道具にも、歴史の中で培われた価値観が色濃く反映されている。
1951年に誕生したマリメッコ(Marimekko)は、ファッションからインテリア雑貨までを手がけるライフスタイルブランドだ。第二次世界大戦後の復興期に生まれ、日々の暮らしを前向きに、軽やかに整えるという実用的な発想を大切にしてきた。代表作「ウニッコ」に象徴される大胆な色彩やパターンには、花や植物など自然から着想を得たものも多い。

Photo: Tallink-Silja

19世紀創業のイッタラ(iittala)は、ガラス食器などのテーブルウェアを中心に、機能性と耐久性を重視してきたブランドである。無駄のないフォルムと確かな使い心地を備えた器は、世代を越えて使い続けることができる。「良いものを長く使う」という考え方は、必要なものを丁寧に整えてきたフィンランドの暮らし方そのものだ。
どちらにも共通しているのは、デザインを特別なものとして切り離さず、歴史や自然、日常の延長として捉えてきた姿勢である。使われ、時間を重ねながら生活の一部となっていく。そのあり方が、穏やかで実直なフィンランドの暮らしを映し出している。

心身を整える、サウナのある日常

フィンランドの暮らしに深く根づいている文化のひとつが、サウナだ。厳しい寒さをしのぐための生活の知恵として生まれたとされ、およそ2000年の歴史を持つともいわれている。体を温め清潔に保ち、病人を癒やし、ときには食料を燻製する場として、サウナは家や集落の中心に置かれてきた。特別な娯楽ではなく、生活を支えるインフラとして存在してきたのである。現在でも、人口約560万人に対して約300万のサウナがあるとされている。

フィンランド式サウナは、日本で一般的な高温・低湿のドライサウナとは様相が異なる。温度は60〜80℃ほどと比較的低めで、熱したサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」は、フィンランド発祥の慣習だ。十分に体を温めたあとは、外気浴をしたり、湖や雪の中で体を冷やしたりする。自然の寒さをそのまま取り入れるこのクールダウンも、この国の気候や環境と深く結びついている。

日本ではリフレッシュを目的とした利用が多いのに対し、フィンランドのサウナはより日常性が高い。時計を気にせず、語らい、あるいは何もせずに心身を整える。その穏やかな時間が、無理なく暮らしに組み込まれている。心をほどくための時間を当たり前に持てること。そのこと自体が、フィンランドの幸せの一端なのだ。

サウナは住居とは別棟で設けられることも多く、清潔で安全な空間として大切にされてきた。かつては出産や治療の場としても用いられ、家族単位にとどまらず、集落で共有される社会的な場でもあった。

Photo: Visit Karelia / Harri Tarvainen

サウナは住居とは別棟で設けられることも多く、清潔で安全な空間として大切にされてきた。かつては出産や治療の場としても用いられ、家族単位にとどまらず、集落で共有される社会的な場でもあった。

  • 熱したサウナストーンに水を注ぐ「ロウリュ」は、湿度と体感温度を調整するための行為。立ち上る蒸気が室内に広がり、乾いた熱をやわらげながら、心身をゆるやかに包み込む。

    熱したサウナストーンに水を注ぐ「ロウリュ」は、湿度と体感温度を調整するための行為。立ち上る蒸気が室内に広がり、乾いた熱をやわらげながら、心身をゆるやかに包み込む。

  • サウナで十分に温まったあとは、湖や外気で体を冷やすのが伝統的な流れ。冬には氷に開けた穴へ入ることもある。自然の冷たさをそのまま受け入れることも、サウナ文化の一部とされている。

    Photo: Visit Finland / Harri Tarvainen

    サウナで十分に温まったあとは、湖や外気で体を冷やすのが伝統的な流れ。冬には氷に開けた穴へ入ることもある。自然の冷たさをそのまま受け入れることも、サウナ文化の一部とされている。


大地の恵みをそのまま味わう、素朴な食文化

自然とともに生きるフィンランドの暮らしでは、食は特別な演出ではなく、自然の恵みをそのまま受け取る行為に近い。人々の間には、「自然享受権」という考え方が根づいており、節度を守れば私有地であってもベリーやキノコなどを自由に採取することができる。自然は所有するものではなく、分かち合うもの。その感覚が、食文化の土台を静かに形づくってきた。

フィンランドでは、魚介類や野生肉、地元で採れる食材を中心にした素朴な料理が多い。清らかな水に育まれたサーモン、北部ラップランドで古くから食されてきたトナカイ、寒冷な気候に適したライ麦から生まれるパンなど、いずれもその土地と環境の中で無理なく育まれてきたものばかりだ。自然の循環の中にある、自然の恵みそのものの食材が、日常の延長として食卓に並ぶ。

この国の料理で大切にされているのは、味を重ねることよりも、素材の力を引き出すことだ。見た目の華やかさより、体が自然と受け入れること。旬の恵みをその時季に味わい、必要以上に手を加えない。食べること自体が、「自然とともにある暮らし」の一部として、ごく当たり前に位置づけられている。

食は語らずとも、その土地の生き方を映し出す。自然に敬意を払い、分かち合いながらいただくという姿勢が、穏やかで誠実なこの国の幸福を静かに伝えている。

サーモンと野菜、ミルクで仕立てるサーモンスープ「ロヒケイット」は、家庭でも親しまれる代表的な料理。塩と胡椒のシンプルな味付けに、ディルで香りづけするのが定番とされている。

サーモンと野菜、ミルクで仕立てるサーモンスープ「ロヒケイット」は、家庭でも親しまれる代表的な料理。塩と胡椒のシンプルな味付けに、ディルで香りづけするのが定番とされている。

  • ライ麦の薄い生地で米粥を包んだ「カレリアパイ」は、東部カレリア地方に由来する伝統食。地域によっては大麦やジャガイモを詰めることもあり、携帯しやすい主食として親しまれてきた。

    ライ麦の薄い生地で米粥を包んだ「カレリアパイ」は、東部カレリア地方に由来する伝統食。地域によっては大麦やジャガイモを詰めることもあり、携帯しやすい主食として親しまれてきた。

  • 薄切りにしたトナカイ肉を炒め煮にする「ポロンカリストゥス」は、ラップランド地方を代表する郷土料理。脂肪分の少ない赤身のトナカイ肉には、リンゴンベリーのジャムやソースなどを添えるのが一般的だ。

    薄切りにしたトナカイ肉を炒め煮にする「ポロンカリストゥス」は、ラップランド地方を代表する郷土料理。脂肪分の少ない赤身のトナカイ肉には、リンゴンベリーのジャムやソースなどを添えるのが一般的だ。


少なさの中に見出す、心の豊かさ

フィンランド人の気質を語るとき、「穏やか」「誠実」といった言葉が挙げられる。その象徴的な例として知られているのが、米誌が世界16都市で行った「落とした財布が持ち主に戻るか」を調べた調査だ。この調査では、首都ヘルシンキが最も高い返却率で、12個中11個の財布が戻ったと報告されている。

この結果は単なる美談ではなく、「他人に信頼を置く」という社会的な前提を示している。人の都合では動かせない自然の制約の中で生きてきたことに加え、教育や医療、社会保障が行き届き、過度な競争や不安が生まれにくい社会構造が、その土壌を支えてきた。貧富の差が比較的緩やかで、誰もが社会の一員であるという感覚が共有されていることも、相互の信頼を育んできた要因の一つといえる。

こうした価値観を端的に表すのが、「Less is More(少ないほうが豊か)」という考え方だ。多くを持つことや、過剰に満たすことを幸福の指標とせず、本当に必要なものだけを選び取る。自然の中で静かに過ごす時間や、安心して人と向き合える関係性を大切にする姿勢が、その背景にある。

情報や選択肢があふれる現代において、何を得るかではなく、何を手放すかを選ぶ生き方。フィンランドの幸福度の高さは、「少なさ」の中に豊かさを見出す、この国の精神性に支えられているのかもしれない。

フィンランド人は「誠実」「控えめ」であると表現される。自己主張を過度に強めることなく、互いを信頼し、必要な距離を保ちながら関係を築く姿勢が、日常の風景の中に自然に表れている。

Photo: Visit Finland / Julia Kivelä

フィンランド人は「誠実」「控えめ」であると表現される。自己主張を過度に強めることなく、互いを信頼し、必要な距離を保ちながら関係を築く姿勢が、日常の風景の中に自然に表れている。

  • フィンランドが生んだ、世界的キャラクター・ムーミン。物語に描かれるのは、競い合うことや優劣を測る世界ではなく、各人が自分の居場所を持ち、無理に変わることを求められない世界だ。

    フィンランドが生んだ、世界的キャラクター・ムーミン。物語に描かれるのは、競い合うことや優劣を測る世界ではなく、各人が自分の居場所を持ち、無理に変わることを求められない世界だ。

  • フィンランドの人々は、自然のそばで穏やかな時間を過ごすことを好む。街中に点在するカフェは賑わいを求める場ではなく、風景と静けさを共有しながら、自分のペースを取り戻す日常の一部だ。

    Photo: Visit Finland / Julia Kivelä

    フィンランドの人々は、自然のそばで穏やかな時間を過ごすことを好む。街中に点在するカフェは賑わいを求める場ではなく、風景と静けさを共有しながら、自分のペースを取り戻す日常の一部だ。

※2026年2月3日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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