素材と油を極める江戸前天ぷらの老舗
大森海岸の寿司店「松乃鮨」の手塚良則さんからバトンを受け継いだのは、神楽坂の天ぷら店「天孝」の新井均さん。食材と油にこだわり、江戸前天ぷらの技と思想を体現する。
Text_SAYAKA NAGASHIMA. Photographs_MASAMI OHIRA.
新井さんの江戸前天ぷらの味はもちろん、その伝統を守りながらも、革新を恐れず、後輩を導くその姿を常に尊敬しております。
松乃鮨|手塚良則さんより
Profile
新井 均(ひとし)さん
東京都生まれ。「神楽坂 天孝」初代である父親の背中を見て育ち、伊豆での修業を経て家業を継承。素材と油に徹底してこだわり、江戸前天ぷらを追求する。2010年、サンフランシスコ・ナパバレーで開催された「ワールド・オブ・フレイバー」に日本代表として参加。その後もニューヨーク、ワルシャワ、パリ、ミラノなど海外での江戸前天ぷらの文化発信に尽力している。
香り高いゴマ油と薄衣で仕立てる江戸前天ぷら。ゆえに油と素材の質がそのまま味になる。その伝統を今に受け継ぐのが、老舗「神楽坂 天孝」だ。店に立つ新井 均さんは2代目。天ぷら一筋60年の父親・孝一さんの背中を見て育ち、店を継いだ。「天ぷら屋の違いは、油のブレンドの違いです。ごま油100%の店もあれば、関西系などごま油を全く使わない店もある。油の配合がそのまま店の個性になるんです」
同店では、圧搾製法のごま油と綿実油を配合。植物性の油を用いることで、雑味のないからりとした味わいを実現する。
加えて、新井さんの素材へのこだわりも先代ゆずりだ。
「修行先から戻った際、実家に並ぶ食材の質の高さに衝撃を受けました。さまざまな現場を経験してきたからこそ、これだけ質の良いものを使うなら、ちゃんとやらなきゃいけないと思ったんです」
しかしながら、近年では江戸前素材の入手がだんだんと難しくなってきているという。
「いま江戸前の魚は激減しています。東京湾のアナゴなどもほとんど入ってこない。例えば今出回っているアナゴの多くは九州や韓国産です。この状況には強い危機感を持っていますね」
さらに、若い世代が上質な和食体験から遠ざかっている現状についても危惧している。
「一年に一日でいいから、自分の〝ハレの日〞をつくってほしい。そこにお金を惜しまない体験は、喜びや新しい発見につながるし、人を成長させると思うんです。それを食を通じて伝えていきたいですね」
そこには、海外に向けた天ぷら文化の発信にも積極的に取り組んできた新井さんならではの思いもある。
「もっと多くの日本人に海外へ出て、日本を見直してほしいですね。外から見て初めて、日本がどれほど食に恵まれているかがわかる。そうすれば自然とその文化を守りたいという気持ちも生まれると思っています」
RESTAURANT INFO店舗情報

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神楽坂 天孝
かぐらざか てんこう/神楽坂電話番号: 03-3269-1414
交通: 東京メトロ有楽町線・南北線飯田橋駅より徒歩3分 住所: 東京都新宿区神楽坂3-1
▶︎MAP営業時間: 12:00-14:30、18:00-23:00 ※完全予約制 休業日: 日・祝日 ※昼個室・夜全席サービス料:10%