TOP MAGAZINE熱視線 ー夢追い人ー 江戸扇子職人 深津佳子 「理想は持ち主の魅力が輝く扇子」

江戸扇子職人 深津佳子 「理想は持ち主の魅力が輝く扇子」

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分業制の京扇子とは異なり、江戸扇子は図案から仕上げまで30以上もの工程を一人で担当する。使用する素材のほか、季節や湿度の違いによっても繊細な調整が求められる。

伝統柄に自分の感性を加え他にはない江戸扇子を作りたい

江戸末期から続く老舗「雲錦堂 深津扇子店」の5代目・深津佳子。
伝統の技法と現代的な美意識とを融合させた江戸扇子は、唯一無二の存在感を放つ。
150年の歴史を背負う扇子職人が切り開く、新たな伝統の形に迫る。

Photographs_MASAMI OHIRA.
Text_SAYAKA NAGASHIMA.

PROFILE

深津 佳子
深津 佳子

1955年東京都荒川区生まれ。扇子界のレジェンドとして名高い父・深津鉱三氏に29歳で弟子入りして修行を重ね「雲錦堂 深津扇子店」5代目となる。皇室扇子御用達・荒川区指定登録文化財保持者。

ボッテガ・ヴェネタの鞄に似合う扇子を作る

粋で洒脱。まるで江戸扇子の魅力を体現したような人柄である。工房での取材の冒頭、挨拶もそこそこに、次々と繰り出される話に思わず引き込まれた。中でも皇室御用達の名工だった父・深津鉱三氏とのエピソードは枚挙に暇がない。

「私にとって父は扇子職人として完璧な存在です。今も父を手本に修行を続けています」

そう語るのは、江戸末期から150年の歴史を持つ「雲錦堂 深津扇子店」5代目の深津佳子氏だ。

「幼いころから父にはよく手伝いをさせられましたが、逃げ回っていました(笑)。でも不思議と色には強い興味があり、扇面の色の組み合わせなどを考えるのは好きでした」

文化学院を卒業後、自分を表現できる何かを作りたいという気持ちはあったが、継承者になることは考えていなかったという。しかし、知人からの一言で意識が変わる。

「父が日本一の扇子職人であるということは、世界一の扇子職人でもあるということ。その素晴らしい技をなぜ引き継がないのかと言われました。正直当時はピンときませんでしたが、その言葉はずっと心の中に引っ掛かっていました」

そんなある日、街でイタリアの高級ブランド「ボッテガ・ヴェネタ」の鞄を持ち、颯爽と歩く女性を見かける。その瞬間「この鞄から出てきても違和感のない扇子を作りたい!」という強い思いが駆け抜けたという。物作りへの憧れと情熱が一体となり、29歳で父に弟子入り。職人としての日々がスタートした。

江戸扇子の伝統を守りながらもオリジナリティを追求

武家文化から生まれた江戸扇子は、雅な絵柄の京扇子に対してシンプルな絵柄が特徴だ。深津氏の扇子は「毘沙門格子」「鮫小紋」「三社網」など江戸ゆかりの伝統紋様に、女性ならではの柔らかい感性で現代的なアレンジを加えており、色合わせの妙を楽しめると評判だ。

「伝統に裏打ちされた柄や色には普遍的な美しさがあります。その伝統柄を活かしつつ、自分の感性を加えて、唯一無二の扇子を作りたいと思っています」

最近では、現代作家やふすま屋とのコラボレーションを行うなど、新たな試みにも積極的だ。

「国内外の美術館巡りや街歩き、舞台の観劇など、父は私に好きなことを自由にやらせてくれました。物作りのアイデアは、自分が持っているものの中からしかでてきませんから、多くの良いものに触れて感性を磨く機会を与えてくれていたんだと思います。今も産みの苦しみは多いですが、手にしたお客様に喜んでいただき、その方の魅力がひときわ輝くような扇子を作れたら最高ですね。これからも自分が納得できる扇子を作り続けていきたいです」

伝統技術展への出展やオンライン講座の開催など、江戸扇子の魅力を広める活動を積極的に行っているという深津氏。伝統に現代の風を吹き込む扇子職人として、独自の感性を武器に今日も新たな「粋」を生み出している。

  • 独自の色合わせが印象的な江戸扇子は、絵柄の考案から完成まで年単位の時間がかかるという。
  • 独自の色合わせが印象的な江戸扇子は、絵柄の考案から完成まで年単位の時間がかかるという。

独自の色合わせが印象的な江戸扇子は、絵柄の考案から完成まで年単位の時間がかかるという。

独自の色合わせが印象的な江戸扇子は、絵柄の考案から完成まで年単位の時間がかかるという。

歌舞伎で使用する舞扇。

雲錦堂 深津扇子店
住所:東京都荒川区荒川4-31-8
TEL:03-3807-6886
E-Mail:sensu@tcn-catv.ne.jp

※2022年8月2日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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