気負いなくキャンバスと向き合い手を動かし続けるスギヤマ氏。作品にテーマはなく、描いているのは目の前にあ
る現象であり、リアリティの中にある美しさを追求していると語る。
人は誰しも、美しいものを美しいと感じるようにデザインされている
個展に加え、映画の美術協力、エッセイの挿絵制作、店舗空間デザイン、さらに俳優業に服飾のデザインと、活躍の場を厭わず多彩な創作活動を行うスギヤマタクヤ氏。独自の視点で向き合う「美」へのこだわりとは。
Text_YUMI KONDO.
Photographs_TAKASHI TSUBAKI.
PROFILE
スギヤマ タクヤ
2011年に多摩美術大学卒業後、ニューヨークにある「AGORA GALLERY」にて作家活動を始める。ダイナミックでグラフィカルな抽象画や動物モチーフ画、幻想的なイメージ画など、自由で多彩な表現スタイルを持つ。近年は表現を喜びと感謝が共存する「祈り」と捉えて、創作に取り組んでいる。
意味、価値、目的………
概念を手放し「美」に向き合う
「絵を描きたい」。 18歳の冬にふと思い立ち美大への進学を目指す。そして一浪後に進んだのは絵画学科ではなく、ランドスケープやインテリアデザインを学ぶ環境デザイン学科。そんな選択をするのが美に真っすぐ向き合い、独自の創作活動を続けるスギヤマタクヤという人物だ。
「絵が置かれるのは空間の中。だから絵は空間表現でもあると思っています。以前から『個性』を概念として捉えていたので、個性を表現するための作品作りにリアリティーを感じませんでした。だから絵画学科で個性を探求した作品作りをするよりも、空間やデザインを学んだ上で絵を描いた方が、より自分にあった創作が出来ると思い環境デザイン学科を選びました」
一般に私たちがイメージする個性を追求し続ける画家然とした在り方や、個性そのものを疑うスギヤマ氏。その考え方が伺えるエピソードだ。
世の中にリアルに内在するものの「美」を描くスギヤマ氏だが、自身の行為は「美を表現する」ということではなく、「美の探求・研究」だと話す。
「作品は美を探求した結果生み出された副産物なので、意図などはありません。見る側が作品を理解しようとすると、分からない、難しいと感じてしまうこともあるかもしれません。意図なく描いている作品だから、例えば星空や夕陽を見るように作品を見ることも出来ると思っています」
普段、私たちが星空や夕日を見て「美しい」と感じるのは、特別な知識や経験によるものではなく、その瞬間目の前で起きている現象に素直に感じる感覚だ。スギヤマ氏の作品も同様に、そこに経験や知識は一切不要という考え方である。
未知のクリエーション体験を楽しみながら追求する
アパレルブランド「led. tokyo」とのコラボレーションアイテムを発売するなど、2022年に新たな取り組みをスタートさせたスギヤマ氏。
「ファッションが好きだし、コラボレーションする事での不確定要素が楽しそうだと思ったので始めました。方向性を持たない事で、可能性を制限する事なく、必然性を伴った現象が生まれてくるというのが、私の美しさに対するアプローチです。美しさを利用し、個人的な願望を叶えようとするアプローチは、私の美に対する考え方とは矛盾するんです」
また、作品をスペースと予算に応じて定額で貸し出す、「アートレンタル」も新たにスタートさせた。
「スタッフと考えたサービスです。絵を飾りたい場所を拝見して、その場所に最適な作品を提案させてもらっています。日常にアートを取り入れる事で、可能性が拡張することを提供する狙いです」
アートがもつ力を知るスギヤマ氏、そしてチームだからこそ生まれた、アートを楽しむための提案だ。
「食事を摂るように、歯を磨くように絵を描き続けている。絵を描くことは生活そのものだから」
スギヤマタクヤという画家は、この先も私たちにアートとの新しい付き合い方を提案してくれるはずだ。
TAKUYA SUGIYAMA.株式会社
住所:東京都渋谷区神宮前3-11-13 MIRAIE表参道
E-Mail:info@ts-art-japan.com