「自分に似合う帽子は被ってみて初めて分かります。だから気軽に試せる場所を作りたかった」と語る川近さん。帽子に関する膨大な知識は仕事をする中で蓄積していったという。
帽子は型や素材が無数で自分に合うものが必ずある。それを見つけ出す楽しさがあります
高級紳士ブランド帽子の専門店として、国内最大級の品揃えを誇る「時谷堂百貨」。
このビジネスを生み出したのが、株式会社ソキュアスの代表取締役社長、川近 充さんだ。
学生起業家としての立ち上げから現在に至るまで、川近さんを動かす原動力とは。
Photographs_HISHO HAMAGAMI.
PROFILE
川近 充
アムステルダム生まれ。幼少期をオランダで過ごし、15歳のときに帰国。東京都立科学技術大学で航空宇宙工学を専攻し、大学院2年時に、インターネット関連ビジネスで起業。2016年にオンラインの高級紳士帽専門店「時谷堂百貨」をスタート。2021年には東京・八王子に来店型倉庫をオープンした。
「転んでもタダでは起きぬ」
旅先での不運がビジネスの芽に
パナマハット、フェルトハット、中折れハット、ハンチングなど、国内で入手困難な高級インポート紳士帽が所狭しと並ぶ「時谷堂百貨」の倉庫。「帽子は色や形などのバリエーションが豊富で、ファッションの楽しさをさらに広げてくれる存在です」と語るのは、株式会社ソキュアス代表取締役社長の川近充さんだ。
大学では航空宇宙工学を専攻するも、自身を研究者向きではないと判断し大学院2年生で友人達と起業。「いつかは起業したいと漠然とは考えていましたが、学生のうちにとは思ってもいませんでした。しかし当時は就職氷河期で、かつインターネットバブルの名残りの時期だったこともあり、想定外ではありましたが少し早く起業の道を選びました」。
起業後はインターネット通販の立ち上げや運営代行を手掛けるが、低迷の時期が続く。運営代行ではなく独自の商品を扱うECビジネスの必要性を感じていたタイミングでパナマハットに出会うことになるが、このエピソードが非常に印象的だ。
「エクアドルを旅行中に財布をすられてしまったんです。でも落胆して終わりでは嫌なので『僕はエクアドルに投資をしたんだ』と思い直すことにしました。投資をしたからには何か“回収”できるものを見つけたい。そこで現地のガイドに特産品を尋ねたところ、エクアドルが世界一のパナマハットの生産地だと分かりました。その時『ビジネスになる!』と直感的に思ったんです」。
持ち前のポジティブさが、「時谷堂百貨」の構想を生み落とした瞬間だ。そして、高級パナマハットブランド「オメロオルテガ」が、最初の取り扱いブランドとなった。
顧客、取引先、従業員……
誰に対しても誠実でありたい
「時谷堂百貨」立ち上げ後は、日本に知られていない海外ブランドに自らコンタクトを取るなど地道な活動を繰り返した。時には在日大使館に足を運び、取り次いでもらえるよう頼み込んだこともあったという。
「行動力があると言われますが、僕自身は行動力ではなく瞬発力かなと思っています(笑)。本来、僕自身は保守的で傷つくことが嫌なタイプですが、かといって傷つくことを避けてばかりも嫌なんですよね」。
そんな川近さんは「小さな嘘をつかない」ことを大切にしている。
「人は小さくても嘘をつくと、それを取り繕うため更に嘘をつき、やがては八方塞がりになって大きな嘘をつかざるを得なくなります。お客様やお取引先様、従業員、そして自分自身に対しても誠実であるために、小さな嘘を省みて、真実を明かすことを大切にしたいと思っています」。
日本最大級の高級紳士帽専門店となった今、次なる目標があるという。「帽子専門店としての地位を盤石にする目標はありつつも、それだけで終わらせるつもりはありません。紳士の皆さんがもっとファッションを楽しんでいただけるサービスを提供していきたいと思っています」。
持ち前の瞬発力と誠実さで、どんなビジネスを展開するのか、若き経営者の次の一手に注目していきたい。
時谷堂百貨
住所:東京都八王子市明神町4-7-15 落合ビル5F
TEL:042-631-1430
E-Mail:https://www.tokiyado.com