TOP MAGAZINE熱視線 ー夢追い人ー 蟹ブックス店主・作家 花田菜々子「本屋は自分と向き合う場所」

蟹ブックス店主・作家 花田菜々子
「本屋は自分と向き合う場所」

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使い捨ての情報がインターネットで手に入る時代になって、本屋の役割は変わった気がします。じっくり考えたいことがあるときや、本当にお気に入りを見つけたいときに行く場所になりました。私自身も自分と向き合うために本屋に行きます。その時々で選ぶ本から、今の自分の状態に気付かされることがあります。

悩んだときにまず頼るのは本。読むことで考えが熟成していきます。ずっと本とおしゃべりしている感じです。

今回の主役は実録私小説「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」の著者でカリスマ書店員の花田菜々子さん。
立ちはだかる数々の壁を乗り越えて、自分の店を持つに至った彼女の物語に耳を傾けてみよう。

Text_YUKI KATORI.
Photographs_KAZUO ITO.

PROFILE

花田菜々子
花田菜々子

1979年、東京都生まれ。「ヴィレッジヴァンガード」、「二子玉川 蔦屋家電」、「パン屋の本屋」「HMV& BOOKS日比谷コテージ」の店長を経て、2022年9月「蟹ブックス」をオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』、最新刊『モヤ対談』などがある。

苦難の時を乗り越えて カリスマ書店員・小説家へ

人生の大きな転機を迎えた時、そこには往々にして越えるべき高い壁があるものだ。ベストセラーとなった実録私小説「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(河出文庫)は、仕事とプライベートの両面で壁にぶつかった花田さんが、何とか突破口を見つけようと悪戦苦闘した一年を描いた作品だ。

「自分が元気になれることは何かと考えて、本を薦めるのが大好きだし特技だなと思い、出会い系サイトで『あなたにぴったりな本を選んでおすすめします』という自己PRを出しました。そして、お会いした方々に本を紹介しまくったという実話です」

小説は花田さんが進むべき新たな道をみつけて歩み始めるところで終わるのだが、実際に、その後の花田さんの快進撃がすごい。「二子玉川蔦屋家電」のブックコンシェルジュ、日暮里の「パン屋の本屋」初代店長、「HMV&BOOKS日比谷コテージ」店長と、名だたる人気書店の立ち上げや運営に携わり、ついには小説家デビューをも果たしたのだ。

「友情とか努力みたいなものはあまり好きではないのですが、成長することは好きだなぁという自覚があるんですよ。だから『まだそんな器じゃないのにどうしよう。早く出来るようにならなくちゃ……』と、がむしゃらに頑張っていた時期でしたね」

満を持して構えた書店、「蟹ブックス」が向かう場所

そんな努力と成長の日々を乗り越えて、2022年9月にオープンした「蟹ブックス」。高円寺の商店街から一本脇道に入った小さな雑居ビルの2階。優しいペールグリーンの壁は自分たちで塗ったそうだ。窓際には毎朝一緒に出勤するインコ。本棚には小説や詩集のほか、実用書や絵本、ちょっとエログロなものまで幅広く揃う。にもかかわらず、不思議とまとまり感を感じるところが、花田さんのフィルターらしさなのだろう。

「『本棚は持ち主の脳内を映す』といいますが、そうだとしたら、この店は私の脳内の縮図。何だか全裸を晒しているような気分ですよね」

花田さんに、AFFLUENT読者にもぜひお薦めの本をとお願いすると、村井理子さんの「全員悪人」(CCCメディアハウス)と、川上未映子さんの「黄色い家」(中央公論新社)を紹介してくれた。

「二冊に共通するのは、知らない世界や価値観を学ぶ大切さを、改めて教えてくれる点です。どちらも人生の折り返しの時に読むと、すごく身にしみる気づきを与えてくれる、秀逸な作品だと思います」

ふんわりとした雰囲気とは対照的に、鋭い洞察力で迷いなく本を選び、説得力ある言葉で「読みたい!」と思わせる。まさに花田さんの真骨頂だ。

「自分を知り、他者を知ることは社会を良くすることに繋がるので、そういう本を紹介することが本屋としてできるささやかな社会貢献だと思っています。ただ、単純にワクワクしたり笑える本も大事にしたい。蟹ブックスの進む方向はまだはっきりしていませんが、今は流れに身をまかせようかなと思っています」

 

  • どこか懐かしい、まちの本屋さん的な静かさが心地よい蟹ブックス店内。どこか懐かしい、まちの本屋さん的な静かさが心地よい蟹ブックス店内。
  • テレビドラマ化され、ベストセラーとなった花田さんの代表作。テレビドラマ化され、ベストセラーとなった花田さんの代表作。

AFFLUENT読者にぜひとお薦めいただいた2冊。花田さんが個人的にも大好きな作品だそうだ。AFFLUENT読者にぜひとお薦めいただいた2冊。花田さんが個人的にも大好きな作品だそうだ。

蟹ブックス
住所:東京都杉並区高円寺南2-48-11-2F
TEL: 03-5913-8947
営業時間: 12:00~20:00
定休日: 木曜日(祝日は営業)

蟹ブックス

※2023年12月5日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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