TOP MAGAZINE熱視線 ー夢追い人ー お化け屋敷プロデューサー 五味弘文「怖い」で人を楽しませる

お化け屋敷プロデューサー 五味弘文
「怖い」で人を楽しませる

最初にお化け屋敷を作ったのは小学3年生のとき。自宅の部屋に作りました。根本的に人を楽しませたいという思いがあるんです。落語家になりたいと思ったこともあったけど、一番得意だったのがお化け屋敷だったんです。開発の余地がたくさんあって、自分の好奇心も満たされましたしね。子どもの頃やっていたことが今も続けられて幸せ。天職だと思っています。

人を楽しませるお化け屋敷は、好きなだけではなく、得意なこと。
天職だと思っています。

暑い夏。背筋が凍るような怖い話題が恋しくなる季節にお招きしたのは、お化け屋敷プロデューサーの五味弘文さん。物語やミッションを取り入れた、現在のお化け屋敷のスタイルを確立させた第一人者だ。怖いが楽しい。そのカラクリを聞いてみよう。

Text_YUKI KATORI.
Photographs_HISHO HAMAGAMI.

PROFILE

五味弘文
五味弘文(ごみひろふみ)

1957年、長野県出身。1992年に後楽園ゆうえんち(現 東京ドームシティ アトラクションズ)の「麿赤児のパノラマ怪奇館」を手がけ、以降約30年にわたり100本を越えるお化け屋敷を制作。著書に「人はなぜ恐怖するのか?」(メディアファクトリー)、「お化け屋敷になぜ人は並ぶのか~「恐怖」で集客するビジネスの企画発想」(角川oneテーマ21)、「憑き歯~密七号の家」(幻冬舎文庫)、「恐怖ツナガル 呪い髪の女」(学研プラス)がある。

演劇を通じて気付いた
お化け屋敷の楽しみ方

部屋には二つの衣装ケースの中に十数体の新生児……。この6月からダイバーシティ東京 プラザで開催中のお化け屋敷「赤ん坊地獄」で使用する小道具だ。

「『赤ん坊地獄』は僕の代表作の一つで、1996年に東京ドームシティアトラクションズで初開催したミッション型お化け屋敷です。今回は2度目の再演です。お客さんは赤ん坊を母親の元に届けるというミッションを負って進みます。面白いのは、赤ちゃんの人形を持たされると、なぜかみんな本当の赤ちゃんのようにしっかり抱いちゃうんですよね。慈しみの気持ちが生まれるんですね。そうなった時点でお客さんの負け(笑)。もうその世界に入っちゃってますから」

実は最初からお化け屋敷プロデューサーを志していたわけではない。もともとは劇団を主宰し、脚本や演出を担当していた。

「高校生の頃までは演劇が嫌いで、観るのも恥ずかしかった。ところが、大学生の時に誘われて唐十郎さんの状況劇場を観に行って、価値観がひっくり返りました。演劇を恥ずかしいと感じていたのは、演劇を観ることは演じることと緩やかに繋がっていて、観ることで自分もその物語の住人になってしまうからなんですよね。例えば、日本人が西洋の芝居で、『僕はボブです』とか言っていると、僕が〝ボブのわけないじゃん〞って、気恥ずかしくなってしまう。だけど、恥ずかしいと感じた時点で、実はその世界の住人になって演じているのと同じだなと……。芝居を観るのが好きになったのもそこ。『僕はボブです』という世界を受け入れて、その世界の住人になることの面白さに気付いたんです。これはお化け屋敷の考え方にも繋がることで、その世界観を受け入れて、その世界の住人になりきってこそ楽しめる。非常に演劇的な空間だなと思います」

エンターテインメントとしての
お化け屋敷の美学

演劇人としての経験が、お化け屋敷のプロデュースに大いに役立っていると五味さんはいう。

「お芝居のノウハウで、まずはストーリーを考えます。すると自然にイメージが沸いてきて、どう演出するかが見えてくるんです。実際に起きた事件を題材にすることはまずありません。映像作品と違ってお化け屋敷はお客さんがその空間にいるので、フィクション性が薄れると怖すぎてエンターテインメントではなくなってしまうんです。人には未知のものを見てみたいという原始的な衝動があって、未知の最たるものが死。もしかしたら死んじゃう?って想像させつつ、でもお化け屋敷だから絶対に大丈夫っていう安心感があるから楽しめるし、好奇心が満たされるんです。それがお化け屋敷の醍醐味なんだと思います。大人の方は『お化け屋敷はこんなもの』って大体予想をつけちゃうので怖がらない。そこをどう怖がらせるかが私の腕の見せ所。最近のお化け屋敷は皆さんが若い頃に入ったものとはずいぶん違ったものになっているので、ぜひ一度体験していただきたいですね」

 

五味さんの代表作「赤ん坊地獄」は、ダイバーシティ東京 プラザで9月1日まで開催中。
五味さんの代表作「赤ん坊地獄」は、ダイバーシティ東京 プラザで9月1日まで開催中。

講演依頼も多い五味さん。写真はシブヤ大学の招きで、「恐怖のホスピタリティ」というテーマで授業を行った際の写真。
講演依頼も多い五味さん。写真はシブヤ大学の招きで、「恐怖のホスピタリティ」というテーマで授業を行った際の写真。


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※2024年7月2日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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