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書家 根本 知〝令和の雅〞を表現する

人世の集大成、そして人生の転機となったという2024年のNHK大河ドラマ
『光る君へ』の仕事から2年。書を通して日本の歴史や文化を見つめてきた
根本 知さんの語る含蓄ある言葉は、とても興味深い。

Text_YUKI KATORI.
Photographs_MASAKI KOZAKAI.

PROFILE

Juju
根本 知(ねもと さとし)

1984年生まれ。埼玉県出身。2013年、大東文化大学大学院にて書道学の博士号を取得。2018年、時計ブランド「Grand Seiko」のリニューアルイメージ作品に揮毫。2024年 NHK大河ドラマ『光る君へ』題字揮毫および書道指導。同年、立正大学文学部特任講師に就任。2025年、仲間とともにお茶の水にカフェギャラリー「東依」をオープン。主な著書に『平安かな書道入門:古筆の見方と学び方』(雄山閣)、『書の風流─近代藝術家の美学─』(春陽堂書店)など。

かな文字に導かれて得た
書家人生最大の仕事

日本の歴史や文化への造詣の深さは〝かな書家〞という肩書きに収まりきらない。2024年に放送されたNHK大河ドラマ『光る君へ』では、題字の揮毫や小道具の書の制作、俳優陣への書道指導や時代考証まで担当した。

「大河ドラマは、私のキャリアの集大成といえる仕事でした。小学生で書道を習い始めて、中学以降はずっとかな書道一筋です。ただ、大学生の時に『美しい字とはどんなものか』という大きな悩みにぶつかってしまい、その時にゼミの先生から、『書は時代をうつす鏡、文字には書く技術を磨くだけではない世界もある』というお言葉をいただきました。それがすごく心に刺さって、そこからは〝書〞が書かれた時代背景や思想などを学ぶ学術の世界に進みました。そして、〝書〞を研究する中で、かつて日本文化を支えた僧侶や儒学者、思想家、貴族といった先人たちが、その想いや考えを伝えるために残した〝書〞こそが、私が求めていた美しい文字の源泉だと気付いて、それを伝えるための作品作りを意識するようになりました。『光る君へ』のお仕事は、かな書家として、そして学術的な知見からも〝書〞を伝えられる私のレアなキャリアがあったからこそお声をかけていただけた仕事だと思います。まさに、かな文字が導いてくれた、大きなご褒美のような仕事でした」

本阿弥光悦に気付かされ
〝現代の雅〞を追求する

そんな根本さんが、かな文字を深く研究するきっかけになったのが、江戸時代初期に活躍した本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)の作品との出会いだという。

「大学卒業後の進路で悩んでいた時、江戸初期の画家 俵屋宗達の絵の上に、本阿弥光悦が大きな字で和歌を書いた『鶴下絵三十六歌仙和歌巻』という作品を見て、衝撃を受けました。それまで学んできた平安時代の繊細な〝かな〞とはまったく違った光悦の表現を見て、こんな風に表現をしても良いんだ!と気付かされたんです。平安時代は、日本人として大切にしたいことは何か、どういった美意識で国づくりをしていくべきか、ということに向き合った時代でした。そこから生まれたのが、〝平安の雅〞と言われるもので、〝かな〞もその一部です。要するに、〝雅〞とは、特定の形にとらわれず、時代に合わせて形を整える〝形式美〞だということなんです。それ以来、僕はそのことを伝えたい、〝現代の雅〞を表現したいという思いで、〝書〞や作品を作っています。昨年仲間とつくった日本文化を楽しめる『東依(とうい)』というカフェギャラリーでの活動もその一つです。今、四季折々の和歌を書き溜めていて、これを60歳になったら自分の〝書〞で巻物にするのが夢です。過去、詠み人本人の〝書〞で残された巻物って、実は例がないんです。だからこれができたら書道の歴史に依拠する作品になると思っています。僕が本阿弥光悦の作品に衝撃を受けたように、次の世代が僕のそんな作品や活動を見て、そこにある〝雅イズム〞を感じてくれたら嬉しいですね」

Memorable Words

日本文学における心の在りようは「紐状」です。
結ばれたり、絡まったり、乱れたり……
だから、和歌は〝縦書きのかな〞で
表現されたんだと思います

古今集などには命を「玉の緒」と表現したり、しだれ柳に恋心を託したりする表現があります。昔の人は心の在りようを〝紐状〞に捉えていたんでしょう。だから、一つひとつの言葉を〝紐状〞につなぐように縦書きする〝かな〞が普及したのだと思います。そう考えると、和歌などを詠んでいろいろなことが腑に落ちて、より深く作者の想いを感じることが出来るんです。

  • 根本さんの人気の著書『平安かな書道入門』と『書の風流』。根本さんの人気の著書『平安かな書道入門』と『書の風流』。
  • 2個展に向けて根本さんが書きおろした『源氏物語』のかな書。個展に向けて根本さんが書きおろした『源氏物語』のかな書。

カフェギャラリー・サロン「東依」(千代田区外神田2-1-10)では、根本さんの書はもちろん、茶道や古美術など日本文化を楽しめる。
カフェギャラリー・サロン「東依」(千代田区外神田2-1-10)では、根本さんの書はもちろん、茶道や古美術など日本文化を楽しめる。

根本 知オフィシャルサイト
(外部サイト)

※2026年2月3日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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