伝統の光を守り進化した、希少な国産線香花火
Photographs_HIDE NOGATA.
日本の夏の風物詩ともいえる花火。中でも、夏の終盤に灯す線香花火は、終わりつつある夏の寂しさが相まって、より一層儚げで美しく感じるものだ。そんな線香花火だが、現在販売されているほとんどが輸入品で、国内産はわずか3社が製造するのみとなっている。
1929年に福岡県みやま市で創業した「筒井時正玩具花火製造所」はその1社だ。元々は子ども向け玩具花火を製造していたが、1999年に国内唯一となっていた線香花火製造所が廃業すると聞き、3代目の筒井良太がその製造所に出向き修行、技術を継承する。その後、「線香花火をより良いカタチで後世に伝えていきたい」との思いから、デザインや原材料に独自にこだわった「線香花火 筒井時正」をリリース。持ち手部分を「花」や「蕾」で表現し、天然の染料を使って優しい色合いに染めた見た目は、「美しすぎる線香花火」としても注目を集める。火薬は30年以上寝かせた宮崎産の松煙を使用し、火薬を包む紙は火のまわり方が最適な福岡県八女市の手すき和紙を用いている。100分の1グラム単位で調整された火薬に吟味を重ねた素材、そして熟練の職人が一本一本丁寧に縒り上げた線香花火は、外国産に比べて火花が大きくかつ上品に美しく咲く。そして途中で火の玉が落ちにくく、消え入る最後の瞬間まで得も言われぬ美しい火花を放ち続けるのだ。
パッケージに湿度や温度変化に強い桐箱を使用することで翌年にも楽しめるそうで、時を経た線香花火は “熟成”することでさらに柔らかく、温かみのある火花を散らすようになるという。そんな国産品ならではの風情を、残り短い夏の思い出に楽しんでみてはいかがだろうか。