宮内庁にお納めする国産原料・杉桶熟成の特別な醤油
Photographs_HIDE NOGATA.
「一麹、ニ櫂(かい)、三火入れ」。これはしょうゆ造りにおける重要な3つの工程を表した言葉だ。麹づくり、諸味の攪拌(かくはん)の次に挙げられている「火入れ」は、しょうゆの色や香りや味わいなどに大きく影響する。明治時代から現在まで長きにわたり、この「火入れしょうゆ」の最高峰を造り続けているのがキッコーマンだ。
江戸時代初期に現在の千葉県野田市に誕生したキッコーマンは、原料確保に最適な地の利を生かし、江戸へのしょうゆ供給地としてその礎を築いた。1908年に宮内省(現宮内庁)からしょうゆ造りを賜ったことから、1939年には御用命しょうゆの専用醸造所として、東京・江戸川沿いに「御用蔵」を建設。2011年には建物の老朽化に伴う修繕を兼ねて同蔵を本社の工場脇に移築するも、仕込み木桶、屋根の小屋組み、屋根瓦など可能な限り移築前のものを使用し再現に務めた。そのため現在でも当時の面影を垣間見ることができる。
そんな特別な蔵で造られる火入れしょうゆがこの「御用蔵」だ。選りすぐった国産の大豆、小麦、食塩を、何ヶ⽉ものあいだ杉桶でじっくりと発酵・熟成させる伝統の製法で醸造することで、他にはない力強い香りとしっかりした塩味をまとう。さらに現在のしょうゆ造りでは一般となっている、原料や発酵による仕上がりのブレを調整する工程を敢えて挟まないことで、伝統製法で作られたしょうゆだけが持つ唯一無二の味わいや素材に負けない豊かな風味を感じられる。
入手のハードルはそれなりに高いが、毎日の食事を彩る調味料だからこそ、その労力を楽しんでみるのもいいのではないだろうか。