東京には、その変遷を語るように各時代の技術が施された建築物が多く存在する。
だが、東京大改革といわれる大規模な開発が進み、
歴史的建造物は老朽化による改築解体が次々に行われ、
偉大な建築家たちが残した本来の姿は、いつ失われてもおかしくない。
今回は、今東京で見ておくべき歴史的建物を紹介したい。
※各施設名下の記載は、文化財指定の有無、建築家名/竣工年(または再建した年)
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1910年代
明治から大正へ改元された時代。
第一次世界大戦の影響により好景気を迎えたが、同時に米騒動が起こるなど社会不安も増した。
東京駅
● 重要文化財
● 辰野金吾/1914年
東京を代表する煉瓦造りの玄関
もともとはドイツの鉄道技師フランツ・バルツァーによる設計が進められていたが、千鳥破風の屋根がかかった和風様式案が却下。その後、近代建築家ジョサイア・コンドルのもとで学んだ日本建築の祖、辰野金吾が設計することとなった。明治大正期を代表する建築で、辰野式と呼ばれる赤煉瓦を基調として縦横に白い石のラインを入れたデザインが特徴である。戦災で1度は2階建になったが、2012年に当初の3階建に復原された。
東京駅
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
1920年代
戦後恐慌をはじめ、関東大震災での震災恐慌、金融恐慌など不景気に見舞われた。
大正はわずか15年で閉幕し、1926年、昭和が始まる。
聖徳記念絵画館
● 重要文化財
● 小林正紹/1926年
盤石の如く構える日本の庫
明治末期から昭和初期にかけて官庁営繕で活躍した小林正紹による日本最初期の美術館建築で、明治天皇の事績を描いた絵画を展示している。中央のドーム屋根を戴く吹き抜けの大広間と左右の絵画室で構成。ドームのシェル構造や絵画室の採光など、当時では先駆的な技術が取り入れられた日本建築技術の発展を知る上で重要な作品だ。外観は左右対称かつ直線を強調した幾何学的造形で、花崗岩を使い重厚に仕上げている。
聖徳記念絵画館
住所:東京都新宿区霞ヶ丘町1-1
営業時間:10:00~16:30(最終入館16:00)
休館日:水曜日※祝日の場合は翌日
施設維持協力金:500円
自由学園明日館
● 重要文化財
● フランク・ロイド・ライト/1921年
幾何学が生む調和的学び舎
近代建築の三大巨匠とよばれるアメリカの建築家フランク・ロイド・ライトが72年にわたり設計した1200以上の建築物のひとつ。人間の生活と自然界の調和を図る、プレイリースタイルを反映して軒を深く出し水平立面を強調、建物の中と外を一体化させている。建物全体の意匠を幾何学模様でまとめ、ホールの窓にはステンドグラスでなく木製の窓枠や桟を配置。床の高さが部屋ごとに少しずつ違う空間構成もユニークな特長だ。
自由学園明日館
住所:東京都豊島区西池袋2-31-3
営業時間:10:00~16:00(最終入館15:30) ※夜間見学日、休日見学日は時間が異なる
休館日:月曜日、年末年始、※要事前確認
料金:建築見学のみ500円、喫茶付見学800円(夜間見学ではお酒付1,200円もあり)
1930年代
アメリカを皮切りに起こった世界恐慌の影響から昭和恐慌が発生。
株価暴落や中小企業の倒産が相次ぎ失業者が街に溢れた年代。
国立科学博物館日本館
● 重要文化財
● 文部省大臣官房建築課(担当:糟谷謙三)/1931年
モダニズム転換直前の高質な様式建築
文部省大臣官房建築課の設計で、文部技師の糟谷謙三が担当したネオ・ルネサンス様式の建築。建物全体が飛行機の形をしており、地上3階、一部4階、地下1階建だ。昭和初期に流行した表面に傷のあるスクラッチタイルや御影石を配し、レンガ造り風の西洋建築の趣を出している。様式建築の最終時代に建設されただけあり、アーチをはじめドリス式やコリント式などの柱頭飾り、色鮮やかなステンドグラスなど館内各所の意匠は高い完成度だ。
国立科学博物館日本館
住所:東京都台東区上野公園7-20
営業時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
休館日:月曜日(一部不定休あり)
入館料:一般・大学生630円、高校生以下無料
※65歳以上の方および18歳未満の方、障害者の方、その他各種会員の方は無料
築地本願寺
● 重要文化財
● 伊東忠太/1934年
古代仏教建築が生む独特な刺激
1923年に震災の影響で焼失しているが、1934年に再建が行われ本堂は現在の姿となっている。アジアの古代仏教建築を模した外観や本堂のステンドグラス、数多くの動物の彫刻、大谷石の石塀が特徴的だ。オリエンタルかつ独特な雰囲気が漂っているのは、設計士の伊東忠太がシルクロードを旅し、仏教伝来のルーツを辿った経験も一因か。辰野金吾の弟子であり、「建築」を現在の意味の言葉に改めた、日本建築史の創始者である所以を感じさせられる構造である。
築地本願寺
住所:東京都中央区築地3-15-1
営業時間:6:00~16:00(本堂参拝時間)
休館日:無休
入場料:無料
高輪消防署
二本榎出張所
● 東京都選定 歴史的建造物
● 越智操(警視庁総監会計課営繕係)/1933年
高輪のレトロシンボル
かつては数多く建てられていたが、徐々に姿を消していった火の見櫓付き消防署。現役の出張所としては僅かな存在で、高輪のシンボルとして地元の人々に守られ続けているレトロな建築である。戦後に流行したドイツ表現主義の様式で、窓や梁、壁などの随所に力強く躍動感のある曲線と曲面を取り入れた設計だ。3階の円形講堂には8本の梁とアーチ窓が天井中央に向かって集まり一体となった独特の意匠が施されている。
高輪消防署
二本榎出張所
住所:東京都港区高輪2-6-17
営業時間:9:00~16:30(見学可能時間)
休館日:無休
入館料:無料
日本橋三越本店
● 重要文化財
● 横河民輔/1935年
重厚感漂う日本最古の百貨店
日本の鉄骨建築の先駆者である建築家、横河民輔が設計を担当し、ルネサンス様式を取り入れて1914年に竣工。関東大震災の被害によって増改築を繰り返し、1935年に現在の姿になった。アール・デコ調で装飾された特別食堂など、西洋古典様式の中に各時代の先進的なデザインが光る。
日本橋三越本店
住所:東京都中央区日本橋室町1-4-1
営業時間:10:00~19:00(食品・1Fは19:30まで)
休館日:不定休
※各階レストラン・喫茶は店舗により営業時間が異なる
1940年代以降
1941年に太平洋戦争が始まり4年後に敗戦を迎えるまで、戦時色が濃厚に。1952年に占領から解かれた日本は、高度経済成長期へ向かう。
国立西洋美術館
● 世界文化遺産/重要文化財
● ル・コルビュジエ/1959年
日本唯一のル・コルビュジエ建築
基本設計を近代建築の三大巨匠の一人であるル・コルビュジエが、監理をその弟子の坂倉準三、前川國男、吉阪隆正が担当。柱で建物を持ちあげ、人も風も自由に行き来するピロティなどル・コルビュジエが提唱した「近代建築の5つの要点」が具体的に表現されており、2016年には世界文化遺産にも登録された。
国立西洋美術館
住所:東京都台東区上野公園7-7
営業時間:9:30~17:30、金・土曜日9:30~20:00
休館日:月曜日(祝休日の場合は開館し、翌平日休館)、年末年始
入館料:入館料:500円、大学生250円
※高校生以下及び18歳未満、65歳以上、心身に障害のある方及び付添者1名は無料
国際文化会館
● 登録有形文化財
● 前川國男、坂倉準三、吉村順三/1955年
日本庭園と調和する
正統派モダニズム建築
多様な世界との文化・知的交流を目的とした会員制施設で、宴会場や宿泊施設、レストランを備える。当時の日本建築界を牽引していた前川國男、坂倉準三、吉村順三が共同設計した。直線的なデザインが特徴の正統派モダニズム建築だが、木製のサッシや窓枠などを採用し、日本庭園との見事な調和を実現。
国際文化会館
住所:東京都港区六本木5-11-16
営業時間:レストラン11:30~15:00、17:00~21:00、ティーラウンジ7:00~22:00
※レストラン、ティーラウンジ、会議宴会場は一般利用可
安与ビル
● 登録有形文化財
● 明石信道/1968年
光をまとう、テナントビル
八角形の箱を幾重にも重ねたような外観が特徴的なテナントビルは、フランク・ロイド・ライト研究に力を入れていた建築家、明石信道が設計を担当。夜にはビル全体がライトアップされ、八角の隅まで精緻に取り付けれたアルミルーバーによって光が美しく反射することで、建物の幽玄な趣を演出する。
安与ビル
住所:東京都新宿区新宿3-37-11