肌との相性が良くかけ心地もいい一生付き合えるべっ甲眼鏡
Photographs_HIDE NOGATA.
べっ甲はウミガメの一種「タイマイ」の、甲羅や腹甲などを煮て成形したもので、これを使った加工品がべっ甲細工だ。日本では徳川時代に日本独自の加工技術が発展し、現在では「江戸鼈甲」として東京都の伝統工芸品にも指定されている。
江戸の当時からその美しさと希少性で、一般庶民には手が出ない憧れの高級品だったべっ甲細工。「斑(ふ)」と呼ばれる褐色の模様は、天然の素材だから当然二つと同じものは無く、磨き込むほどに輝きを増し、妖艶なほどの美しいあめ色になる。その加工のしやすさから、かんざしやアクセサリーなど、様々な商品で親しまれているべっ甲だが、中でもべっ甲という素材にもっとも適した商品といえるのが、「眼鏡」だ。まず、べっ甲はたんぱく質からなるカメの甲羅=有機物だから、肌との相性が良く、体温で温められることで、つるやセル部分が適度にフィットしてきてとにかくかけ心地が気持ちいい。その上丈夫で驚くほど軽く、万が一破損させても、薄い素材を幾重にも張り合わせて作られるべっ甲だから、補修も出来る。まさに一生付き合える逸品といえるのだ。
享和2年の江戸後期に、日本橋馬喰町に創業した江戸べっ甲の老舗「鼈甲石川」。その200年以上の伝統を受け継いだ7代目石川浩太郎氏が作る眼鏡は、伝統の技術やデザインをベースにしながら、現代風にアレンジを加えた都会的なセンスが光る逸品だ。フルオーダーで完成まではおよそ2か月。世界にただ一つの逸品が完成するまでの時間もまた、楽しいひとときになるに違いない。