瑞風グリーンと名付けられた深い緑色のボディに金色のラインとエンブレム。
質実剛健な佇まいの中に繊細さを宿したその列車こそ、寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」だ。
かつて大阪札幌間を結んだ豪華寝台特急の先駆け、「トワイライトエクスプレス」の面影を受け継ぐその姿に、懐かしさを覚える。贅を尽くした美しい調度品の数々に、日本ならではのおもてなしの精神が息づくそのサービスは、〝高級ホテルが走り出している”と感じる方もいることだろう。
極上空間で最高のサービスを受けながら、西日本の美しい景色や文化、食を楽しむ。それでは早速、「瑞風」で行く西日本の旅に出発しよう。
「瑞風」で巡る日本の「美」のかたち
「瑞風」は美しい。車両のエクステリアやインテリアはもちろん、美味なる海の幸に山の幸、黄金の稲穂が揺れる沿線の風景、
長い歴史のなかで育まれた豊かな文化、沿線の方々のあたたかいおもてなし…。
「瑞風」で巡る旅とは、そんな日本の美しさを再発見できる旅なのである。
「瑞風」の旅を支える洗練されたおもてなし
「瑞風」の旅は、出発駅改札でのクルーによる出迎えから始まる。客室16室乗客定員31名の瑞風では、一車両に一名のクルーが付く。運行には総勢17名のクルーが乗務するのだが、クルー全員が常に携帯しているというクレド(信条や行動指針)にはこう書かれているという。
「最上級のおもてなしとは、お客様にお会いする前から想いを馳せ、万全の備えと連携のもとに、お客様一人ひとりのお気持ちやニーズを読み取り、臨機応変にご期待以上のサービスを提供すること」。
クルーはこれを実践するために、日々接遇の訓練に励み、知識を蓄え、提案と改善を繰り返しているという。柔和な笑顔の中に凛とした美しさを湛えているのは、その自信の現れなのかもしれない。駅の人いきれの中、そんな彼等に導かれて「瑞風」に乗り込む瞬間は、旅への期待感とともに、誇らしさすら感じることが出来る。
「瑞風」は、2015年に惜しまれつつ26年の歴史の幕を閉じた、「トワイライトエクスプレス」の伝統と誇りを受け継いでいる。
[美意識]
心満たすもてなしの精神
アートやインテリアを巡るもうひとつの旅
「瑞風」に乗車してまず感じるのが、その内装の美しさだ。重厚感のなかにどこか懐かしい温かさを感じるデザインのコンセプトは、「ノスタルジック・モダン」。1910年代から30年代に世界を席巻したアール・デコ様式が採用される。華美な装飾を排した機能的でシンプルなインテリアは、そこにしつらえた調度品の美しさを一層際立たせている。
客室の扉や壁には中国地方5県の木材が使用されている。美しい木目がインテリアのアクセントとなり、そこに色を添える布張りのソファ。これはハプスブルク家御用達のオーストリアの老舗ブランド、バックハウゼン社のファブリックで、部屋ごとに異なる意匠が楽しめる。
全16室のうち12室を占めるロイヤルツインの客室では、ドアを大きく開け放つことができ、客室にいながら車両の左右両側の風景が楽しめる。窓を開け沿線の風を浴びながら車窓を気ままに眺めるのも一興だ。
部屋でひと息寛いだ後は、車内を散策していただきたい。各車両には西日本各地の伝統工芸品や、作家、職人が「瑞風」のために制作したオリジナル作品、アンティーク品などが並び、さながら小さな美術館のようだ。先頭と最後尾の展望車では、天井まで回り込む大きな窓を備えた開放感いっぱいの空間で車窓を楽しめる。そして、「瑞風」の車両の大きな特徴でもある最後尾の展望デッキに出れば、沿線の風を感じながら流れゆく景色を楽しめる。
他にも紹介したいしつらえは車内のあちこちに多々あるのだが、この続きはご自身の目で。車内の細部まで行き届いた「瑞風」の美意識に、とにかく感嘆のため息がもれることだろう。
[美食]
贅を尽くす唯一無二の美味
西日本の食の匠と豊かな食材との出会い
食においては西日本の恵まれた食材が堪能できる。2泊3日の山陽・山陰(周遊)コースでは、和食の監修を京都の老舗料亭「菊乃井」の村田吉弘氏、洋食の監修を大阪のレストラン「HAJIME(ハジメ)」の米田肇氏が担当。それらの料理を、車内で「瑞風」専任のキッチンクルーが沿線各地の食材を使用して生み出す。その一皿一皿からは、西日本の四季の移ろいや自然の豊かさを感じ取ることが出来るはずだ。
新型コロナウイルス感染予防対策で使用が中止されていた食堂車「ダイナープレヤデス」は、この9月から2年ぶりに使用が再開された。食堂車が使用中止中には部屋食が行われ、「時間や周りを気にせずゆっくりと楽しめる」と好評だったという。そのため、食堂車使用再開後も朝昼各一回の食事を部屋食で提供するそうだ。こういったお客様からの声を取り入れるのも、「瑞風」らしいサービスといえるだろう。
また、途中下車する観光地でも特別な食事が待っている。例えば、島根県雲南市の「食の杜室山農園『茅葺の家』」では、地元のお母さんが作る郷土料理をいただく。こちら素人料理と侮るなかれ。料理家の大原千鶴さんも太鼓判を推すほどの絶品料理なのである。鳥取県岩美町のレストラン「アルマーレ」では、眼前に広がる海を眺めながら、地中海料理をベースにした朝食を味わうといった具合だ。そのどれもが「瑞風」乗客のために用意された、特別メニューなのである。
そして、ラウンジカー「サロン・ドゥ・ルゥエスト」では、「瑞風」のおもてなしの心を茶道で表現したいという思いから乗車初日の午後に椅子に座って行う立礼(りゅうれい)式茶会が催される。選び抜かれた茶道具で立てたお茶と和菓子で至福の一服が楽しめる。また、深夜1時までドリンクの提供が行われるバーカウンターでは、オリジナルカクテルなども用意されているので、ディナーの後、弦楽器の生演奏に耳を傾けながら、ゆっくりと大人の時間を過ごすのも良いだろう。
「瑞風」で提供される料理は、食の権威として多方面で活躍する門上武司氏プロデュースの元、一流の料理人たちが監修を行う。
ラウンジカーのバーカウンターでは、沿線の特産品を使ったドリンクやお酒、オリジナルカクテルなどが提供される。クルーとの会話を楽しみながら過ごす時間も「瑞風」の楽しみのひとつだ。
[美景]
日本の美しき原風景を巡る
最高のロケ―ションで最高の車窓を演出する
運行途中、「瑞風」では幾度となく運転士の交代が行われ、各区間土地勘のある運転士が状況に応じたベストな運転を行う。そして、ビューポイントでは減速して、車窓の風景を存分に楽しんでもらおうといった工夫も行うという。日本海や瀬戸内海の煌めく海原、日本の原風景ともいえる田園や里山の眺め。西日本の美しさを車窓から存分に楽しめるのもまた、「瑞風」の大きな魅力のひとつだ。
立ち寄る観光地でも特別な演出が数々用意されている。雲南市で特別 上演される「出雲神楽」、一般公開されていない岡山後楽園の「延養亭」見学などがそれだ。そして、地元の人々との温かい交流も、忘れられない時間になる。出発時には別れを惜しみ、展望デッキからいつまでも手を振り続ける乗客が少なくないそうだ。
クルーが持つクレドにはこうも書かれている。「瑞風は多くの夢や希望を乗せているフラッグシップトレインです。私たちは、瑞風が愛され輝き続けるために、飽くなき向上心を持ち挑戦し続けます」
「瑞風」という旅は、「おもてなし」という日本人の美意識を体感する、至極の旅なのである。
「瑞風」とは、みずみずしい風、吉兆をもたらすめでたい風という意味。しばし日常を離れて、「瑞風」とともに、美しい日本を再発見する旅を楽しんでみたい。