TOP MAGAZINE熱視線 ー夢追い人ー 映画館Stranger代表 岡村忠征「観るだけでは終わらせない」

映画館Stranger代表 岡村忠征
「観るだけでは終わらせない」

地方ではミニシアターが次々に閉館している時代ではありますが、映館を通じて「繋がる」ためのタッチポイントをつくっていけば、映画館は新たなブランド体験の場になると思います。映画ファンにも地域にも愛される、ミニシアターの新しいスタイルをつくっていきたいですね。

感度の高い映画好きな方のためだけではなく、地元の方々に気軽に通っていただけるそんな繋がれる映画館にしていきたいですね

一度はあきらめた映画の世界への夢を追い、ミニシアター Stranger(ストレンジャー)を立ち上げた岡村忠征さん。閉塞感漂う映画業界への課題意識から、「映画で繋がる」ことを目指した映画館づくりのこだわりと、これからについて聞いた。

Text_MAKOTO KAJII.
Photographs_HISHO HAMAGAMI.

PROFILE

岡村 忠征
岡村 忠征

1976年、広島県生まれ。18歳の時に観たゴダール監督作「気狂いピエロ」に衝撃を受け、映画業界を目指し上京。映画美学校修了後、映画・ドラマの制作業務に従事。その後デザイン会社に就職し、2011年にブランディングデザインの制作会社、アートアンドサイエンス株式会社を設立。2022年9月、新しい映画鑑賞体験を提供する場として、東京・菊川にカフェ併設の映画館Strangerを設立。

「繋がる」という新しい価値を映画館で提案したい

一人で映画館に行き映画を観て帰る。その間誰とも口を利いていないーー。そんな経験はないだろうか。

「例えば古本屋とか洋服屋、カフェとかにフラッと立ち寄って、店員さんと世間話をしたりすることってありますよね。そこでは自然とコミュニケーションが生まれて心の潤いみたいなものを感じたりします。でも、映画館ってそういう接点が無いんですよ。だからもっと人が繋がれる映画館をつくりたいと思ったんです」

岡村さんが目指すのは、映画を通じて「知る」「観る」「語り合う」「論じる」という体験が出来る、人が「繋がる」映画館だ。

「映画館のロビーって、なぜか決まって暗いので、あえて外光の入る明るいロビーにして、結構本気のカフェを併設して映画批評のオリジナルマガジンも販売するなど、コミュニケーションが生まれやすい環境を整えました。シアターも幅4.2mのスクリーンにハイクラスな音響装置、座り心地重視で選んだ座席と、ミニシアターとしてはかなりハイレベルな設備を整えています」

カフェで寛ぎ、上質な環境でレアな作品を楽しみ、そしてロビーで映画の余韻に浸りながらスタッフと映画談義に花を咲かせる。この映画館には、まさに「映画で繋がる」ための仕掛けが整えられているのだ。

「オープンから1年経って、目指している価値を少しずつ評価いただけるようになったかなと思っています。『墨田区に素敵なミニシアターをありがとう』『映画を観るならここがいい』そんな言葉がいただけるようになってきました」

良い仲間と仕事をすることの楽しさを再発見した1年

「居心地の良さ、自然とお客様とのコミュニケーションが生まれる雰囲気は、とにかくスタッフの力によるところが大きいですね。スタッフは皆映画好きで、自立的で明るくイキイキと働いてくれます。常に前向きなスタッフと仕事をすることが、こんなに楽しく、成果を出す力にもなるのだと、改めて実感しています」

スタッフの醸し出す雰囲気が、「映画で繋がる」ための重要な価値になっていると断言する岡村さん。それは自身のやりがいにも繋がるという。

「映画業界って古くてちょっと閉鎖的な部分があって、映画館運営も正直儲けも少ないし配給会社との交渉など、苦労の多い仕事です。『夢中は努力に勝る』という言葉がありますが、映画の世界に憧れて上京して、その大変さに一度挫折して、そして経営者として改めてチャレンジして夢中で取り組んでいたら、いつの間にか評価をいただけるようになっていた。まさに夢中が努力に勝って結果が出たのかなと思っています。
東京の東側にはミニシアターが無かったので、まずはここで成功事例を作って地域を盛り上げて、その流れを全国にも広げていきたいと考えています。スタッフと力を合わせて、映画館の新しいムーブメントをつくれたらうれしいですね」

「日々苦労の連続」と語りながらも、その顔はどこか朗らかで、充実感に溢れていたのが印象的だった。

 

  • カフェ併設のロビー。コーヒーはこだわりの「前橋 敷島焙煎所」の豆を使用。カフェ併設のロビー。コーヒーはこだわりの「前橋 敷島焙煎所」の豆を使用。
  • Strangerが発行する映画批評メディア「Strangerマガジン」。現在6号まで発行されている。Strangerが発行する映画批評メディア「Strangerマガジン」。現在6号まで発行されている。

座席数49席。ミニシアターとは思えないハイレベルな設備が整う場内。座席数49席。ミニシアターとは思えないハイレベルな設備が整う場内。

映画館 Stranger
住所:東京都墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル1F
TEL: 080-5295-0597
営業時間: 9:00~22:00(無休)

映画館 Stranger(外部サイト)

※2023年11月7日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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