大好きな音楽作りですが、20年もやっていると嫌になる部分もあって。でも、ごちめしの仕事が中心になって、音楽作りが早朝のわずかな時間だけになってからは、ものすごく集中できるしリフレッシュもできるようになったんです。その時間が今はとても尊い時間になっていて、音楽を作れること、仕事をいただけることに改めて感謝しています。
ごちめしの仕事を始めてから、
寝ている時間がもったいないくらい、
創作の時間が楽しくなりました。
音楽プロデューサーとして数々のヒット曲を生み出し、フードテック事業でも
社会に貢献する画期的なサービスをリリースしている今井了介さん。
サービスに込めた想いや、音楽とサービスに共通するヒットの法則とは?
Text_YUKI KATORI.
Photographs_HISHO HAMAGAMI.
PROFILE
今井了介(いまいりょうすけ)
1971年東京都出身。TEE/シェネル『ベイビー・アイラブユー』や、安室奈美恵の『Hero』など、音楽プロデューサーとして数々のヒット曲を生み出し、2018年には音楽活動と並行してGigi株式会社を設立し、食事のWEBギフトサービス「ごちめし」を提供開始。コロナ禍の先払い店舗支援「さきめし」、社食サービス「びずめし」、地域の飲食店を利用するこども食堂「こどもごちめし」などを展開している。
音楽の無力さを痛感させられた
東日本大震災での体験
天は二物を与えずというが、今井さんは例外のようだ。音楽プロデューサーとしてヒット曲を次々生み出し、フードテック事業を行う経営者としても日々邁進する。
「フードテック事業を始めたきっかけは東日本大震災でした。身内の生死も分からず、空腹も満たせない極限の状況では、音楽もエンタメも無力、衣食住足りてこその音楽なんだと、あの時痛感しました。そこから、衣食住というエッセンシャルな営みに関われる、より社会貢献度の高い仕事をしたいと考え始めました」
そして、試行錯誤し生み出したのが「ごちめし」だ。
「イタリアのナポリに、購入したコーヒー代にプラス1杯分の代金を加えて支払う、『サスペンデッドコーヒー』という習慣があって、プラスの1杯分はお店の裁量で使われます。たとえば貧しくてコーヒーを買えない人のためとか。これと同じ考え方で、帯広の本間辰郎さんという定食屋のおじさんが、『ゴチメシ』という名前で子どもたちに食事を提供していたんです。この恩送りの仕組みにヒントをもらって作ったのが、どこからでも誰にでも食事を贈れるWEBサービス『ごちめし』です」
世の中の幸福度を上げれば
自らも幸せになれる
その後、今井さんは「ごちめし」を進化させたサービスを次々にヒットさせる。コロナ禍で苦しむ飲食店を救うために考えた飲食代金を先払いして利用する「さきめし」。飲食店を社員食堂代りに利用できる企業向けサービス「びずめし」は、福利厚生の一環として社員皆が公平に利用でき、離職率低減にも役立つと注目を集めている。そして、飲食店を子ども食堂化する「こどもごちめし」は、貧困問題、子ども食堂の課題に正面から向き合ったサービスとして、高い評価を得ている。
「国や自治体、多くの人の力とDXの力を合わせて持続可能な仕組みを作れば、支援の輪は無限に広がって時代を動かす力になると思っています。音楽でもチャリティー活動はしていますが、たとえばマイケル・ジャクソン並みに稼いでも、1人でできることって限られますからね」
最後に、音楽と事業に共通するヒットの法則はあるのか尋ねてみた。
「音楽もフードテック事業も、どのくらいのマスを獲得できるかは常に考えます。それと、三方よしのサービスかどうか。僕らのサービスは飲食店から手数料を取らないという従来なかった仕組みで、ギフトを貰う人の還元率を出来るだけ高くするようにしています。たとえば『こどもごちめし』の場合で費用の90%が子どもの食事に還元されます。より多くの人の心が動けば経済も動くし、社会に貢献出来れば世の中の幸福度が上がりますからね。音楽もフードDXも、喜んでくれる人が1人でも増えて、多くの人に『あなたがいて良かった』と思われる仕組みを作りたいですね。Your Happiness is My Happiness。読者の皆さんにも、これからの日本とご自身の幸せのために〝ギブ〟をお願いしたいです。〝汝、隣人を愛せよ〞です」
- May J.の楽曲「Sweetest Crime feat. ハラミちゃん」のピアノレコーディング時の一コマ。
- 小田原の商店会の皆様と、「こどもごちめし」紹介イベントを実施した時の集合写真。
今年10月に開催された「TEDxKumamoto 2024」に登壇。ロゴオブジェとともに。