自らを現代日本画家と名乗り、従来の日本画の枠を超越したフィールドで活躍する大竹寛子さん。「流動的瞬間の中にある恒常性」をテーマに掲げ、美しさの中に壮大で深淵な世界が広がる作品を描く。その作品に込められた想いに迫る。
Photographs_TOMOKI HIROKAWA.
PROFILE

大竹寛子(おおたけ ひろこ)
2011年東京藝術大学大学院美術研究科博士課程修了。美術研究博士号取得。2014年東京藝術大学 エメラルド賞受賞。2015~16年文化庁新進芸術家海外派遣制度で渡米。2019年ローマ教皇の来日に伴い、バチカン市国に作品「Psyche」を寄贈。日本画の伝統的な技法を用いた新たな表現を展開し、国内外で活動している。現在、表参道ギャルリーためながで「FROM G —東京藝術大学出身作家4人による今—」を開催中(~2026年5月6日まで)。7月には銀座三越で個展を開催予定
マイナスの表現が空間を制する
日本画の世界に魅せられて
子どもの頃から絵が好きだったという大竹寛子さん。アートにより深い興味を持ったきっかけは多感な中学時代に遡る。
「無音で〝空間感〞を表現する現代音楽家ジョン・ケージの『4分33秒』という作品や、アートを物質的な対象から、精神的・概念的な次元へと解放した美術家イヴ・クラインの描かない表現との出会いは衝撃でした」
その後、美術高校に進学し日本画を学ぶ中で、傾倒していた現代アートの〝無〞の表現や、敢えて描かないことで表現する〝マイナスの表現〞が、すでに日本画の世界に存在していることに気づいたという。
「余白の美しさがあり、少ない手数で空間を表現する長谷川等伯の『松林図屏風』や、円山応挙の『氷図』の凄さに圧倒されました。〝新しい〞と感じたことを鮮明に覚えています。また、そうした〝マイナスの表現〞に、日本は西洋よりもずっと早く到達していることに強く惹かれました。日本画に出会い〝マイナスの表現〞のような美学は、日本人である私にはすでに備わっている感覚であり、日本人たるアイデンティティとして大切にしたいと思いました」
その想いは今の大竹さんの礎になっている。
「流動的瞬間の中にある恒常性」をテーマとしている大竹さんの作品には蝶が描かれることが多い。
「蝶は幼虫から蛹になり、蛹の時に一旦液化し成虫になります。その変化に、テーマにも通じる真理を感じています。また蝶は、心の成長や魂の変化の象徴ともされており、テーマを表すアイコンとして画面に取り入れています」
こうしたテーマを表現するうえで、日本画の技法も重要な役割を果たしている。
「箔を硫化させる技法があり、その物質を変化させる技法で、咲く花と枯れた花という相反する状態を、同時に表現できます。流動的な瞬間を技法によって作品に投影できる点は、日本画の面白さだと思います」
また金属である金箔や銀箔と、鉱物である岩絵、染料など異素材の組み合わせも、表現するうえで欠かせない要素になっているという。
既存概念やカテゴリーを
超越する表現
日本画の箔を硫化する技法を使い、 鏡の裏側から銀の成分を溶かし表現を行う作品がある。
「紙やキャンバスを使った作品の場合、私の主張や、絵自体が主体になります。 鏡を使った作品は、見る人の顔が映り込むなど、飾る場所、空間を含めて作品化できるところに面白みを感じています」
日本画の技法を使いながら、既存概念にしばられない表現について、「現代日本画家と名乗っていますが、そうしたジャンルがあるわけではありません。私自身は日本画の世界を伝えながら、現代アートを制作していると思っています」と話す。
日本人としてのアイデンティティを強みにしながら、枠に囚われることなく制作を続ける大竹さん。海外での創作活動も多く、今後の活躍に注目したい。
Memorable Words
個人主義的な自己アピールとしてではなく、
自然を中心にした世界観の表現として
作品を描いています。
「変化しながら続いていく生命の普遍的な営み」に惹かれています。流動的で少しずつ変化するものであっても、変化のパターンやリズムはどこか共通していて、そこには恒常的に変わらない本質があります。一見矛盾する両者が同時に共存する世界を描きたいと思っています。
「あわい」を漂い二つの世界を行き交うことをイメージさせる作品「Birthscape Vol.2」。
岩絵具は、同じ色であっても粒子の大きさによって見え方や印象が大きく異なる特性があり、そうした性質を生かして表現している。

GODIVAとのコラボ商品。より多くの人に日本画を知って欲しいとの想いから、企業とのコラボも積極的に行っている。