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いとをかし、伝統工芸の世界 東京手描友禅作家 大地佐和子スペシャルインタビュー

ISSUED | 2016.08

 

女性職人の柔らかな感性によって生み出された伝統的工芸品は面白い。 東京手描友禅作家の大地佐和子さんが自由な発想で染め上げた遊び心いっぱいの着物や帯は、大人の乙女心を刺激する。 撮影:田所瑞穂 取材・文:香取ゆき

もっと自由に、もっと大らかに遊び心あふれる伝統工芸の世界

伝統工芸を仕事にする喜びと苦労

友禅染めの着物や帯は不思議だ。単体で見ても十分美しいが、身体に纏うと、たちまちまったく違う魅力を放ち始める。日本の伝統的工芸品は芸術品としても鑑賞に耐えるものが多いが、実は生活の中で育まれた実用品なのだろう。どんなに高価な着物や帯も、使われて初めてその使命は全うされる。

しかし戦後、日本人の生活様式は大きく変わった。丁寧に手作りされた道具よりも、安価な大量生産品が重宝され、着物は洋服にとって代わられた。伝統技術を守り、継承することが難しい時代になってしまったが、その流れに逆らい、あえてその世界に身を投じた人たちがいる。

若き東京手描友禅作家の大地佐和子さんもその一人。「手塩にかけて作った作品を誰かが着る」というゴールに喜びを感じて、日々作品作りに励んでいる。 大学では日本画を専攻。伝統工芸を仕事にすることは容易でないと承知していたが、描くことが好きだったため迷いはなかった。友禅作家だけでなく陶器の絵付師などの可能性も模索。京都の工房にも出向いて仕事を探した。そして縁あって入門したのが東京手描友禅界をけん引する小倉貞右氏の工房だった。約11年間師匠のもとで腕を磨いた。

「第一線で活躍している師匠のそばで勉強させてもらえたのはとても有難かったです。実家から通えたのも幸運でした。修業を続けられる環境に恵まれたからこそ、今の自分があると思っています」

師匠の教えで最も大切にしていることは、「一本の線にも気を抜かない」ことだという。

「線一本一本の集合体が一つの作品になるので、たった一本の線でも考えて引いたかそうでないかでは、まったく違う仕上がりになります。細かい葉脈の一本もどこから出てどこにつながるのかを考えて引かないと師匠にはばれてしまいます。仕事はスピードも要求されるので、意識が散漫になりそうなときもありますが、そこは妥協しちゃいけないところだと自分に言い聞かせて仕事をしています」

反物は高い品質の絹織物を使う。美しいもの同士が交わり、究極の美を生むのだ。 工程を経るにつれ、作品に命が吹き込まれてゆく。次第に輝きを増す生き生きとした作品は、まるで大地さんそのもの。

1:一度筆を持てば、凛とした職人の顔に。息を呑むような緊張感と向き合い、作品を仕上げてゆく。 2:工房には大地さんの好きなものが彼方此方に。職人仲間の作品でもあるおにぎりのバッジは特にお気に入りだとか。

若き女性職人が取り組む伝統と革新の東京手描友禅

 そんなストイックな世界に身を置きながらも、大地さんの作品はのびのびと大らかで遊び心にあふれている。駄洒落シリーズの「エビがタイ」と名付けられた帯は、垂れ先に釣竿を持った海老が描かれ、お太鼓部分には釣られた鯛がいきいきと描かれている。灯台や砂時計、グラスや酒瓶など、現代的なモチーフと伝統柄を融合させた作品も彼女の持ち味だ。

「着物や帯は人の記憶に残らないものの方が需要があるのですが、私の作品は一発で覚えられてしまうものばかり(笑)。今後は作品の幅を広げて、大人しいけれどどこかに面白味もある、両方の要素を兼ね備えた作品も作っていこうと思っています」

自由な発想から生まれた作品の数々。伝統技術を担う者としての責任を感じることも多いことだろう。

「恐れ多くて、私ごときに背負いきれるものでもありません。でも、伝統ってなんだろうと考えたことはあるんですよ。その答えはきっと100年後にあると思っています。今できる最先端の技術が100年後も残っていたら、それが伝統なんじゃないかなと思うんです。例えば東京手描友禅には糸目糊置きという工程があります。模様の輪郭線など、色を乗せたくない部分に糊を置いて防染するんですけど、このとき、昔は真糊を使っていたのですが、今はゴム糊もよく使われます。真糊じゃなきゃ伝統じゃないと言う方もいますが、ゴム糊だからできる表現もあって、過去に遡れば真糊が最先端だった時代もあったはずなんです。だから、今の時代と自分にできる一番の技術を追い求めていけばいいんだと思うようになりました」

伝統に対する前向きな姿勢は技術だけにとどまらず、職人としての新しい働き方にも挑戦してる。
30代から50代までの女性友禅作家9人とともに「そめもよう」というグループを結成して活動の幅を広げている。

「作家の中には子育て中の人や病気を抱えている人もいて、女性が一生職人としてやっていくためにはネットワークが必要と考えました。東京の友禅作家は、デザインから仕上げまでのほとんどの工程をひとりで行う場合が多いですが、今後は状況に応じて分担することも考えています。まだまだ課題も多いのですが。グループを組むことで、デパートの催事などにも声をかけてもらえることが多くなりました。昔は独立すれば問屋さんなどから仕事をもらえ、職人は作ることに専念できたそうですが、今はそういう時代ではないので、職人も自ら外に出ていかなければなりません。お客様の声を直接聞けるので、勉強にもなっています」

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