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JAZZ誕生100年心にしみるJAZZVOCALを

ISSUED | 2017.09

 

秋になるとなぜか聞きたくなるジャズ。
今年はジャズ誕生100年の年として、いつになくジャズシーンが活況だ。

ジャズボーカルの魅力を改めて感じてみる

1917年2月、オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドが、世界で初めて「ジャズ」という名の音楽を商業用録音してから、今年でちょうど100年。この節目を記念して名作アルバムの再販やイベントなど、ジャズが静かに盛り上がりをみせている。
ジャズというと、難しい音楽と身構えてしまう人も多いが、映画やドラマ、レストランなどで、私たちは頻繁にジャズに触れている。特に映画では印象的な場面で効果的に使われることも多く、それがキッカケでジャズを好きになる人も少なくない。今回の特集では、そんなジャズの中から、初めてジャズに触れる人にもおすすめできる、ジャズ界を代表する女性ヴォーカリストをピックアップ。名門ジャズ・レーベル「Verve(ヴァーヴ)」初の日本人女性シンガーとして活躍をする、akikoさんにも、その魅力を語っていただいた。

圧倒的な歌唱力でジャズ界をリードした偉大なるジャズヴォーカルの女王
[エラ・フィッツジェラルド]Jazz Vocal ELLA FITZGERALD
1917年4月25日~1996年6月15日
アメリカ合衆国ヴァージニア州ニューポート出身

まず最初に紹介するのは、ジャズ誕生と同じ1917年生まれのエラ・フィッツジェラルド。約60年間の現役生活の中で、13回のグラミー賞受賞、アメリカのジャズ専門誌が行う女性ジャズ部門人気投票で、20年連続トップの獲得、アメリカ文民に贈られる最高位の勲章、大統領自由勲章を授かるなど、ジャズの世界ではもちろん、音楽シーンを語る上でも外せない、偉大なるジャズヴォーカリストである。

父親のいない貧しい家庭に生まれ、さらに10代で母親を亡くし、一時はニューヨークでホームレスを経験するなど、厳しい貧困の幼少時代を送った彼女は、エンターテイメントの世界にあこがれ、17歳の時に受けたアマチュアコンテストで優勝。楽団の専属ヴォーカルとして活躍した後にソロとなり、彼女の熱烈なファンであった、かのマリリン・モンローの推挙などもあって活躍の場を広げ、その圧倒的かつ安定した歌唱力で不動の人気を獲得していく。

ジャズは単に曲を聴くだけではなく、アーティストの独自の解釈で演奏される「表現」も楽しさの一つだ。現役ジャズシンガーであるakikoさんは、「ジャズの楽しさは自由であること。自由に自己表現できる楽しさが、ジャズの魅力」と語る。原曲はあくまでもベースとして、その曲をアーティストが自由に自己表現していくのが、ジャズということだ。

1930年代に人気を誇った大編成ビッグバンドによるスウィングジャズは、40年代になるとその人気に陰りが見え始める。そんな時期に、アーティストが休憩中に遊びとして楽しんでいた即興的(アドリブ)な演奏が人気を呼び、これがモダンジャズの原点、「ビバップ」という演奏法として確立されていく。どんな曲も抜群の歌唱力で歌い上げるエラも、曲に合わせて声を楽器のように使い即興的に歌う、「スキャット」という歌唱法を取り入れ、スキャットのみで一曲歌いきる作品をつくるなど、ジャズの楽しさを変幻自在に自己表現し、他を圧倒する存在感を持っていた。

「エラの歌は、とにかく『ジャズってこんなに楽しいものなんだ。自由なんだ』ということを、聴衆である私たちにも伝えてくれる。そんな明るい力をもったアーティスト」とakikoさんは言う。
ジャズヴォーカリストとして大成功を収めたエラは、私生活では二度の離婚や晩年には重度の糖尿病を患うなど、成功だけの人生ではなかったのだが、彼女の歌には決して暗さはなく、晩年まで多くのファンを魅了し続けた。

「ジャズには『陰』を楽しめるアーティストもいますが、エラの歌は『陽』の部分が多く、まるで太陽のよう。ジャズの知識がない人でも、純粋に心地よい音楽として楽しめると思います。女性にもおすすめですね」とakikoさん。
ジャズ、そしてジャズヴォーカルの楽しさを知るには、まずはエラ・フィッツジェラルドから。そう断言できる、ぜひおさえておいてほしいアーティストだ。

Editor's recommend

  • 「マック・ザ・ナイフ~エラ・イン・ベルリン」
    こちらもエラの代表作。ベルリンで行われたライブの録音で、名曲「SummerTime」やルイ・アームストロングのモノマネをするタイトル曲など、とにかくエラ自身が楽しんで歌っているのが伝わってくる作品です。「How High the Moon」では、彼女の絶妙なスキャットも楽しめる、ジャズヴォーカル入門作品としておすす めです。
    写真提供:ユニバーサルミュージック

akiko's recommend

  • 「エラ・アンド・ルイ」
    20世紀を代表するジャズ界の巨人、サッチモことルイ・アームストロングとの共演アルバム。この二人の共演作はいくつかありますが、このアルバムが一番エラの歌の明るさ、楽しさが伝わってくる一枚だと思います。二人の楽しげな姿が目に浮かんでくるようなそんな温かい雰囲気の名盤です。エラの代表作でもあるので、ぜひ一度聴いてみてほしいです。
    写真提供:ユニバーサル ミュージック

オペラ歌手のような声域をもった天性のジャズヴォーカリスト
[サラ・ヴォーン]Jazz Vocal SARAH VAUGHAN
1924年3月27日~1990年4月3日
アメリカ合衆国ニュージャージー州ニューアーク出身

「ピーター・ガン」や「ラヴァーズ・コンチェルト」など、自動車やビールなど数多くのCMでその歌を耳にするサラ・ヴォーン。前述のエラ・フィッツジェラルドとともに、ジャズヴォーカルの大御所として必ず名前のあがる天才シンガーだ。

同じ黒人女性ジャズヴォーカリストとして、とかくエラと比較されることの多い彼女だが、その声質はエラとは異なり、ジャジーでかすれがちな低音で、いわゆるジャズっぽさはエラよりも強いと言われる。普通の曲を普通に歌っても、きっとジャズっぽく聞こえるという、まさに天に与えられたような声。そんな大人っぽい独特な雰囲気を持つ声質だから、今なお多くのCMなどに使われるのだろう。

エラよりもより技巧的と言われるスキャットやシャウト、オペラ歌手のように幅広い声域と豊かな声量で、大胆且つ豪快、そして抜群のテクニックでノリ良く歌い、聴くものを圧倒するその歌声。代表曲でもある、「バードランドの子守歌」は、きっと誰もが一度は耳にしたことがある、彼女の魅力がギュッと詰まった名曲として有名だ。

「サラの魅力は、とにかく『高級感』だと私は思っています。音程もリズムも発声も完璧で、表現力も豊か。あの美しいヴィブラートは、ジャズを高級なものに感じさせてくれます。ジャジーであるとは、こういうことなのか。と感じられるシンガーです」とakikoさん。幼少のころからピアノを習い、12歳で教会のオルガン奏者になったというから、すでにその頃から音楽の才能は開花していたようだ。そして18歳でニューヨーク ハーレムの「アポロシアター」で開催されたアマチュアコンテストで優勝しデビューを果たす。このデビューの流れはエラと同じ。

ちなみに、「アポロシアター」のアマチュアコンテストとは、1934年にスタートし現在も「アマチュアナイト」として続くプロへの登竜門的なアマチュアコンテストで、これまでにジェームス・ブラウンやダイアナ・ロス、マイケル・ジャクソン(ジャクソン5として)、スティーヴィー・ワンダーなど、のちに音楽界にその名をのこす、名だたるトップアーティストを排出している。

その類まれな才能で、ポップスよりの作品を残すなど、幅広い作品を手掛け、ジャズ界を代表するシンガーとなったサラ。60年代にレコーディングから遠ざかるという不遇の時代があったが、その後復活し、たびたび日本での公演も行っている。そしてその活躍の反面、私生活では4度の離婚、愛煙家で酒を好み、薬物にも手を出していたと言われ、才能に恵まれたアーティストの宿命かのように、成功と反比例した荒れたプライベートを送った。そして1990年、66歳という若さで、多くのファンに惜しまれつつ亡くなっている。

エラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリデイといった、偉大な先輩ジャズシンガーに対して、「私だってこんなに歌える!」そんな対抗心ともとれる独自の世界観で、多くのファンを魅了したサラ・ヴォーン。彼女の、才能に恵まれたジャズヴォーカリストとしての魅力を、ぜひ確認してみてほしい。

Editor's recommend

  • 「枯葉 」
    これもサラの代表作で、特にタイトル曲の「枯葉」は、初めて聞いた時は本当に衝撃でした。「枯葉」は多くのアーティストが演奏する名曲ですが、サラの「枯葉」は全編スキャット。そのハイテンションな展開に原曲の面影は全くありません。しかし、「これがジャズ の楽しさなのか!」と感じられるほど、圧倒的な魅力が詰まった一曲だと思います。
    写真提供:ユニバーサル ミュージック

akiko's recommend

  • 「アット・ミスター・ケリーズ」
    1957年にシカゴのジャズクラブで録音された、サラの歌の上手さが際立つ代表作です。ライブ中にマイクが倒れるといった、ライブならではハプニングもあるのですが、そこをアドリブでセンス良くいなしたり、目の前の聴衆に優しく語りかけるような、リラックスした歌がとても印象的です。ジャズヴォーカルのライブ盤の中でも、大好きな一枚です。
    写真提供:ユニバーサル ミュージック

今なお多くのアーティストに影響を与える波乱の人生を歩んだカリスマ
[ビリー・ホリデイ]Jazz Vocal BILLIE HOLIDAY
1915年4月7日~1959年7月17日
アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア出身(諸説あり)

ジャズヴォーカリストで誰が一番好きか? その回答でもっとも多く名前があがるのが、このビリー・ホリデイかもしれない。akikoさんもその一人だそうだ。映画「マディソン郡の橋」「セブン」「フォーエバー・ヤング」など、多くの映画やドラマでその歌が使われる、今なお不動の人気を誇るカリスマヴォーカリストである。

彼女の名前を一躍有名にしたのは、やはり「奇妙な果実」だろう。「奇妙な果実」とは、彼女の自伝や映画にもなった作品なのだが、その言葉の意味は、黒人差別が激しかった時代に、リンチの末に亡くなり木につるされた黒人青年の姿を比喩したもの。そしてその事件を発端にした人種差別を告発する歌が「奇妙な果実」なのだ。人種差別の時代に、それを黒人であるビリーが告発する歌を歌うこと、そして内容のシリアスさもあり、ヒットは期待されなかったが、反して1939年のビルボードシングルチャートで16位にランクするヒットとなった。それは彼女の天性というべき説得力ある歌声、他者が真似ることが出来ない、唯一無二と言われる歌声が、聴者の心を捉えたからに他ならない。

ビリー・ホリデイの歌には、彼女の歩んだ壮絶な人生がにじむと言われる。1915年、10代という若い未婚の両親のもとに生まれた彼女は、11歳の時にレイプされ更生施設に入り、14歳の時には売春容疑で母とともに逮捕されたという。その頃からナイトクラブで歌い始め、シンガーとして本格的な活動をスタートをきる。その表現らわし、18歳の頃にはカウント・ベイシーやベニー・グッドマンの楽団で歌うようになる。そして、「奇妙な果実」のリリースへとつながっていく。

akikoさんいわく、「ビリーの歌は、とにかくドラマチック。音楽とは何か、生きるとは何か、愛とは?と、大きなスケールで語りかけてきます。ジャズボーカルはシンガーそれぞれの独自の歌唱スタイルが楽しみの一つですが、彼女に限ってはスタイルではなくスピリットが魅力だと思います。彼女の歌には波乱の人生が確実に影響しているとは思いますが、そこには心に訴えかけてくる不思議な魅力が確実にあるんです」

幼少期の過酷な経験に加え、トップアーティストとなった以降も、アルコール依存症や暴力、そしてドラッグでの度重なる逮捕など、命を削るような日々を送った彼女は、44歳という若さでこの世を去る。こう書くと、ビリー・ホリデイは悲惨な人、作品も暗そうという印象を持ってしまうかもしれないが、彼女の歌には、そんな人生を送った人間にしか表現できない、特別な何かがあると言わざるを得ないほど、強烈なインパクトがあるのは事実だ。

もちろん、圧倒的な音楽センスがあっての話だが、彼女の全身全霊で歌う声に、世界中が魅了され、その強いエネルギーが、死後60年が経とうとする今もなお人々の心を打つものであることは間違いない。ジャズ史上最高のシンガーと言われる伝説のカリスマ歌手ビリー・ホリデイ。マニア向けと言われることもあるが、一聴の価値はある。

Editor's recommend

  • 「奇妙な果実」
    本文でも触れたこの作品は、やはり外せないと思っています。万人におすすめできる作品ではないかも知れませんが、エラ、サラとは違ったジャズの一面を知ることができる作品です。ジャズを聴き始めた学生時代に、「ビリー・ホリデイの良さが分かるようになったら一人前」と言われたことがありますが、その良さが分かる年齢に なりました。
    写真提供:ユニバーサル ミュージック

akiko's recommend

  • 「レディ・イン・サテン」
    多くのジャズシンガーは脂が乗り切った最盛期の歌が最も素晴らしく、晩年の作品になると嫌味に感じ られてしまうことが多いのですが、ビリー・ホリデイだけは、晩年の作品に特別な魅力を感じます。もちろん、若い頃の歌も可愛らしく大好きなのですが、豊かな声量が望めず、まるで命を絞り出すような掠れた晩年の声に、たまらなくジャズを感じるのです。魂を感じる歌です。
    写真提供:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

akiko’s Information

akiko

2001年、名門ジャズレーベル「ヴァーヴ」初の日本人女性jとして『ガール・トーク』でデビュー。 スイングジャーナル誌選定“ゴールドディスク”に選ばれたこの作品は、オリコンのジャズ・チャートで初登場1位を獲得した。その後レコーディングで世界各国をまわり、アート・リンゼイ、re:jazz、吉澤はじめ、Studio Apartmentなどとコラボレーションや客演を行う。「ジャズ・ディスク大賞」「Billboard Japan Music Award」を始め、数々のミュージックアワードを受賞し、2003年にはエスティー・ローダーより日本人女性に送られる美の賞「ディファイニング・ビューティー・アワード」を授与されている。
シンガーとしての活動にとどまらず、ソングライティングからジャケットのアートディレクション、コンピレーションCDの選曲や他アーティストのプロデュースまでも手がける。その活躍の場はさらに広がり、アパレル・ブランドとのコラボで、帽子やワンピースを展開するなど、ファション方面にも及んでいる。2013年秋には自身初となる書籍を出版。2016年にはアーユルヴェーダプランナー、アーユルヴェーダヨーガの資格も取得するなど、その多才さでライフ・スタイルにも注目が集まっている。

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