AFFLUENT monthly features 特集記事

日本が誇る伝承芸 落語をたしなむ

ISSUED | 2019.04

 

日本が誇る伝承芸 落語をたしなむ

落語は古くて難しそう — —そんなイメージを持っている人もいるかもしれない。しかし落語は伝統芸能であると同時に大衆演芸だ。老若男女だれでも聞ける分かりやすさ、自由に楽しめることが魅力の一つといえるだろう。ネタのジャンルも幅広く、おもしろおかしい滑稽噺、ホロリと泣かせる人情噺など、同じネタでも聞くたびに新しい楽しさがあるのも、落語の奥深さだ。
Photograph__千里/PIXTA(ピクスタ)

日本が誇るエンターテインメントだれでも楽しめる落語

小道具といえば扇子と手ぬぐい、座布団に座る落語家の言葉だけで物語がつづられる落語は、あらゆる芸能の中で一番シンプルなものではないだろうか。聞く側に前もって求められるものは何もなく、落語家の語りに身をゆだねていればいい。落語は、老若男女問わずいくつになっても楽しめるエンターテインメントなのである。

一、古典から現代ものまで幅広い

 落語の始まりは江戸時代、長く平和な時代が続くなか、江戸や大坂、京などの都市で暮らしている町人たちの娯楽として確立していったと伝えられている。平和な時代だからこそ、笑って過ごす時間が生活に自然と浸透していったのだ。

 そんな背景を持つ落語には、江戸・明治時代に作られた噺(はなし)が、師匠から弟子へと受け継がれるなかで磨かれてきた「古典落語」と、現代の風俗をユニークに描く「新作落語」がある。

「古典落語」には、噺の最後にオチがある滑稽噺、思わずホロリとさせられてしまう人情噺があり、代表的なものでは『紺屋高尾』『柳田格之進』『芝浜』などが挙げられる。また「新作落語」は、大正期以降に作られたもので、現代もの、未来の話、古典をアレンジしたものなどがあり、立川志の輔の『歓喜の歌』、春風亭昇太の『ストレスの海』など、落語ビギナーでも感動し笑えるものが多いので、難しそうと構えず一度聞いてみてはどうだろう。

二、ネタはマクラ・本編・落ちで構成

 落語の構成は、最初に「マクラ」と呼ばれる最近のニュースや季節にちなんだ軽いトークで、観客の気持ちを引き込む。そこからさらりと「おや八っつぁんどうした〜(※)」というように本編に入っていくのが一般的で、ネタは10分程度のものから、1時間を超える大ネタまでとかなり幅広い。最後は落ち(サゲ)と呼ばれる終わり方で終了するが、さまざまなパターンがあり、キレイにまとめられたもの、拍子抜けするものなどがある。

 落語には、「江戸落語」のほかに、高座に見台が置かれ、落語家が自ら小拍子を鳴らして話す関西の「上方落語」があることも覚えておきたい。

(※)江戸の古典落語によく登場する、長屋に住み喧嘩っ早いという架空の人物・八五郎(はちごろう)の愛称。

三、落語の楽しみ方は聞き手の自由

  落語を見たい、聞きたいと思ったら、まずは気軽に入れる寄席をお勧めしたい。ほぼ毎日公演があり、出入りは自由、料金は一般2800円前後とリーズナブルで、落語だけでなく太神楽(曲芸)、紙切り、三味線漫談、奇術(マジック)などの演芸が楽しめるのも寄席ならでは。寄席以外では、劇場やホールで定期的に行われているホール落語、新聞社などが主催する落語会があるので、ホームページなどでチェックするほか、関東近郊の落語会なら演芸専門誌「東京かわら版」でも情報を入手できる。

 まずは、寄席や独演会などで好みの落語家を見つけるもよし、手頃な料金で見られる真打前の二ツ目を応援するもよし、と楽しみ方は自由だ。最近、あまり笑っていないという人、落語で笑う時間を作ってみてはいかがだろう。それはきっと幸せな時間になるはずだから。

落語家・三遊亭天どんさんに聞く多様性あふれる落語の魅力

昔から伝わる古典落語だけではなく、身近な題材をネタにした新作落語も数多く生み出している落語家、三遊亭天どんさん。知れば知るほど奥深い落語の魅力と楽しみ方、前座からの修業時代を終え、真打になった今の思いを伺った。

PROFILE

落語家(真打)

三遊亭天どん

1972年生まれ、東京都東久留米市出身。埼玉大学教育学部卒業。1997年三遊亭圓丈に入門、同年9月に初高座。2001年5月、二ツ目に昇進。2013年9月下席(21日)より真打昇進。第17回「北とぴあ若手落語家競演会」北とぴあ大賞受賞。「平成25年度 国立演芸場花形演芸大賞」銀賞受賞。「平成26年にっかん飛切落語会飛切落語大賞」奨励賞受賞。古典落語と新作落語の両方に取り組み、高座のほか落語講座の講師を務めるなど活動の幅を広げている。趣味は野球観戦とゲーム。 

落語を聞くのにルールはない新作も古典も同様に楽しんで

 江戸〜明治時代の頃に作られ、今なお多くの落語家に演じられているのが古典落語、一方で新作落語は落語家によって生み出された、現代劇ともいえる。

 三遊亭天どんさんは、古典と新作の両方に精力的に取り組んでいる落語家だ。何気ない話にもつい引き込まれてしまうのは、肩の力の抜けた飄々とした雰囲気ゆえだろうか。「天どん」というインパクトのある高座名は、前座時代から変わらない。

「もともとうちの師匠(三遊亭圓丈師)は、圓丈の丈の字をとって『丈天どん』と付けようと思っていたようです。でも字面が悪いといわれ『天どん』になった。覚えてもらいやすいのですが、トチっても記憶に残ってしまうのが困りものです(笑)」「古典落語」を演じるだけでなく数多くの新作落語を発表している天どんさんだが、「どちらも同じ落語。同じように楽しんでください」と語る。

「古典だって最初はどれも新作です。落語を聞くのに〝こうしなければいけない〞というルールはありません。自分が面白いと思うネタを演じるように心がけているので、楽しんでやっていることが伝われば嬉しいです」


「ウケやすいネタばかりをやるよりは、地味でも自分が好きなネタをやっていきたい」と語る三遊亭天どんさん

落語家に必要なのは気遣い運と才能と努力も引き寄せて

 落語家を目指したきっかけは大学の落語研究会、いわゆる〝落研〞だという。「もともと演芸が好きだった」という天どんさんは、そこで落語の魅力にハマり、大学卒業後は新作落語のパイオニアである三遊亭圓丈師に弟子入りする。

「当時は新作落語を演じる落語家の数も少ないものでした。加えて、新作落語をやる落語家の弟子でないと新作を演じてはいけないような雰囲気もあったんです。僕は古典も新作も両方やりたいと思っていたので、新作落語の第一人者である師匠の圓丈に入門しました」

 弟子入り後は見習いを経て、前座、二ツ目、最後に真打を目指す。前座は毎日寄席に通い、演者の交代の際に座布団を裏返す高座返し、太鼓を叩く太鼓番、師匠の着付けの手伝いなどの仕事を行いながら落語家としての修業を積んでいく。

「僕の場合は一般的な修業のほかに、新作のネタを作ってこいと言われていました。覚えることも多く体力的にも大変でしたが、今ではキツさを忘れてしまいました。あと大切なのは気遣いです。僕は得意ではなかったので偉そうなことは言えませんが(笑)。師匠の好みを把握したり細かい気配りを身につけたりすることが、二ツ目、真打になってから、お客様の望むことを汲み取るのにとても役に立つんです」

 今、天どんさんは、真打として弟子を抱える立場だ。「一応師匠らしくしていますよ。弟子の前で大ハズシする訳にもいかないですからね」と笑いながらも、「弟子に教えることで自分の至らない点に気づくことも多いです」と語る。

「大切なのは真打になる前にきちんと〝自分〞を見つけることでしょうか。二ツ目に昇進して時間ができたときに、どれだけ頑張るかで結果が変わってくるんです。運と才能と努力、この三つを引き寄せることも必要だと思います」

古典落語は〝深さ〟新作落語は〝広さ〟

 昔から受け継がれ、長い年月をかけて練り上げられた古典落語には、名作と呼ばれる噺も多い。それだけに同じ噺であっても演じる落語家によって全く味わいが異なる。天どんさん曰く、古典にはネタを追求する〝深さ〞、新作にはより多くの人にウケるための〝広さ〞が求められるのだという。

「古典落語は、誰が演じてもよほどのことがなければ五〇点は取れる。そこから八〇点、一〇〇点を目指すには、落語家の技量や個性がものを言います。一方で新作落語は、実際にやってみないとどうなるか分かりません。フィギュアスケートで例えるなら、古典はショートプログラムで、新作はフリースケーティング。でも使う筋肉は野球とサッカーくらい違います」

 前座時代から作り続けてきた新作落語は一二〇を数える。常に周りにアンテナを張り、ネタにつながりそうなアイデアを思いつくと、スマートフォンでメモを取るという。ネタ帳を持つと変に張り切ってしまうから、というのが天どんさんらしい。しかしそうやって積み重ねたアイデアも、ネタとしてまとめていく中で半分くらいはボツになるそうだ。

「ただ、ボツにしたものも何年か経つと見方が変わって、面白いものができることもあります。経験を積むからこそ多少無茶苦茶な、訳の分からないネタも作れるようになるんですよ。自分でアイデアを生み出していくのは体力がいりますが、これからも新しいネタを作り続け、聞いてくれる人を増やせるように頑張っていきたいですね。ぜひ、一度僕の落語を聞いて、大きな声で笑ってください」

END

SHARE THIS ARTICLE この記事をシェアする

RELATED ARTICLESこちらの記事もおすすめです