フレンチはパッションの料理だからこそ、自分の人生を捧げられる料理だと思っています。
「アジアのベストレストラン50」で3位に選ばれるフレンチレストラン「フロリレージュ」。
そのオーナーシェフである川手寛康氏は業界を牽引する旗手のひとりだ。
料理の世界で実践するサステナビリティとは? 今後の目標とともに語ってもらった。
Photographs_HISHO HAMAGAMI.
Text_YUMI KONDO.
PROFILE
川手 寛康
都内の有名店で修業後、2006年に渡仏。モンペリエの「ジャルダン・デ・サンス」で研鑽を積む。帰国後は白金台の「カンテサンス」にてスーシェフを勤め、2009年6月に独立し「フロリレージュ」をオープン。サステナブルな活動に参加、発信を続ける。
料理人ならではの視点でサステナビリティを発信
料理人の父をもち、幼い頃から厨房が生活の一部のような環境で育ったという川手寛康氏。先日発表された「世界のベストレストラン50」でも30位にランクインするなど、日本屈指の名店として世界中から客が集まる。そんな華々しい評価を得ても、川手氏は浮足立つことがない。
「料理観とかやりたいことは全く変わりませんよね。スタッフたちに世界水準の経験ができる場を提供したいという思いも変わりませんし」
川手氏と言えば、経産牛やアマゾンカカオなど市場価値の低い食材にいち早く目を向けてきたことでも知られている。
「価値の低いとされているものに、料理人というフィルターを通して新しい価値を与える。それが自分に出来るサステナブルのど真ん中だと思っています。例えば、経産牛は硬い、臭いなどネガティブなイメージがありましたけど、私は使ってみて意外と美味しいと感じました。いかにその食材だからこその美味しさを引き出せるかは料理人のスキルですし、最も避けるべきは、『サステナブルだから美味しくなくてもいい』という考え方ですよね。我慢することがサステナブルではないですし、ましてや料理に『悪』はありませんから。今では経産牛は入手が難しいほど人気になって、結果和牛の種の保存にも役立っています。そういう循環を作り出すこと、発想のバランス感覚を持つことこそが重要だと思います。東京には世界中から人が集まります。そこにお店を開いて多くのお客様と接する機会がある私は、そういったことを発信する『係』だと思っています。それが都心のレストランでシェフを務める自分に与えられた役割なのだと思っています」
まったく新しいコンセプトで2023年9月次なる挑戦へ
自身を飽き性と称し、変化と挑戦を止めない川手氏。実は次なるステージに向けてすでに動き出していた。外苑前にある現在の店舗は2023年7月15日でクローズ。場所を麻布台へと移して同年9月に新生「フロリレージュ」をオープンさせる予定だそうだ。
「コンセプトはターブル・ドット。大きなテーブルにお客さまだけでなく私たちも参加するイメージです。外苑前の店をオープンする前からずっと思い描いてきた理想のレストラン像を、ようやく実現できることになりました」
料理人として脂が乗った状態で迎える2度目の移転は、自身の働き方、料理人としての在り方にも少なからず影響を及ぼしているようだ。
引退して沖縄で畑と釣りをして過ごしたいと笑う川手氏に、今後の目標を聞いてみた。
「私は料理をしないわけにはいかない人間。根っからの料理人です。食べてくれる人がいるからこそ腕を振るいますし、食べたいと言ってくれる人がいる限り料理を作っていきたいですね」
料理人であれば誰もが持っているであろう潔いほどシンプルなパッション。それが川手氏を突き動かす原動力になっているようだ。
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川手氏を代表する一皿「サステナビリティ 牛」
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「南瓜」などの身近な野菜にも注目
料理学会に招かれ登壇することも
Restaurant Florilège(フロリレージュ)
住所:東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑B1
TEL: 03-6440-0878
E-Mail:https://www.aoyama-florilege.jp/