テレワークの普及により、2020年から大きく広がったオンライン会議(リモート会議)。気がついたら自分の顔が無表情だった、怖い顔で相手と会話していた……など、対面とは違うオンライン会議の緊張感に戸惑う方も多いのではないだろうか。このコラムでは、会話のプロフェッショナルである元文化放送アナウンサー・梶原しげる氏に、話し方スキルを上げる方法についてインタビュー。今日からすぐに使えるテクニックやトレーニング方法をお届けする。
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オンライン会議でよくある悩み
同じ空間で同じ空気を吸っていれば「何となく」の肌感が伝わる。しかしオンライン会議になると、肌で感じあえない部分が多く、自分や相手の気持ちが通じにくいと感じることが多々起きる。このような状況の中でよくある悩みについて、梶原氏が挙げたものは3つ。
・相手に話す自分の表情が怖い
・表情が硬い、または無表情になる
・和やかな顔にすると【わざとらしさ感】が出てしまう
離れた場所から人に何かを伝えるとき、意外に分からないのが上記のような自分自身の表情。そもそも日本人は、欧米人に比べて喜怒哀楽の表現があまり得意ではないといわれている。自分の顔が映るZoomやteams、Googlemeetは、言い換えれば怖い顔をしていると思ったら立ち戻ることができる絶好のタイミング。悩みを解決する意識付けにもつながるのだ。
オンライン会議で実践できるテクニック
では、オンライン会議で相手と上手に会話を進めるためには、どのようなスキルを持てばいいのか。目線の位置や話し方、好感度を上げる表情の作り方など、オンライン会議で実践できるテクニックについて梶原氏に教えていただいた。
オンライン上で適切な目線の位置
zoomやteamsなどパソコンやスマホを使ったオンライン会議の場合、カメラに目線を合わせてずっと話してしまうとストレートな圧が生まれる。実践すると体感できるが、長時間のカメラ目線は相手に「見ている」と威圧感を与えるのだ。
この特性を理解した上で、実行するべきは「目線の位置」を使い分け。普通に話す会話や相槌であれば画面目線、こちらの意図や意見をしっかり伝えたいときはカメラ目線と上手く使い分けることで、オンライン上でもほどよい距離感がキープできる。
オンライン上で好感度を上げる表情
無表情や怖い顔になりやすいオンライン上だからこそ、楽しそうであることが重要。相手と友好関係が取り結ぶためにも、口角を上げて目尻を下げる笑顔がベストだ。これは「私はあなたの敵ではない」という受け入れを表すメッセージにもなる。人は緊張すると怒ったような表情になりやすいため、口角を上げて目尻を下げる表情の訓練は、とても大切なこと。ただし、口角や目尻を意識しすぎてしまうと逆に表情が硬くなる可能性もあるので注意が必要だ。可愛がっているペットや夢中になっている趣味など、自分の好きなものや楽しいことを思い出すと表情が和らぎやすくなる傾向があるので実践してみよう。
オンライン上での会話のタイミング
オンライン会議で困ることといえばディレイ。リアルで会話するより数秒ほど遅れが出るため、言葉同士がぶつかる可能性があることを前提に話すのがおすすめだ。
・相手が話したら頷いて間を取る
・相手が口を開けてないタイミングで短いフレーズから語りかける
・一言で返し、相手の反応を見ながら次の会話に進む
上記のような意識から相手の言葉と重なることも減り、タイミングも掴みやすくなる。相手がこれから話すのか話さないのか、事前に判断できることで言葉の衝突回避につながる。
自分でできる会話上達スキル5つ
リモート会議といったオンライン上でのコミュニケーションスキルは、トレーニング次第で上達する。ここでは自宅でできるスキルアップ5つを梶原氏にお聞きした。
声に表情を加える「発声力」
強い弱い・高い低いといった抑揚のある発声は、自分の感情を相手に伝えるときに有効だ。真剣に伝えるなら「ゆっくり・低く・無表情」、感情をより分かりやすく伝えたいときは「声を高め・強め」で会話するなど、声をコントロールすることで多様なメッセージを相応しい場面で使い分けることができる。この発声力を鍛える方法として効果的とされるトレーニングが、離れた人に挨拶・声掛けすること。1メートル先にいる人、5メートル先にいる人、10メートル先……と距離感によって相手に投げかける声の大きさが自然に変わるため、立体的な声を出す練習として最適だ。
自分の言葉をクリアに届ける「滑舌力」
オンライン会議は、相手に自分の言葉を正確に伝えることが重要視される。誰が聞いても明瞭でクリアな発音は滑舌力を訓練することで大きく変わる。滑舌力スキルを上げるためにできることは、とにかく話すこと。なかでもアナウンサーが練習に取り入れている早口言葉は要チェック。滑舌トレーニングの基本として知られている「あ・え・い・う・え・お・あ・お」で舌の位置を確認し、自分の苦手な発音を知ることで効率よく滑舌力のスキル向上が目指せる。基本のトレーニングや早口言葉に加え、雑誌や新聞、ネット記事などを声に出して読むという体験の積み重ねが滑舌力につながる。
好感度を高める「コメント力」
オンライン会議で意見や考えを求められたとき、良くも悪くも自分の印象を決めるのがコメント力だ。コメント力のスキルを上げる方法は、とてもシンプル。まず、否定から入らないこと。賛成できない部分があったとしても頷くことから入るのがポイントだ。「違うと思います」「それはないですね」と最初から否定するより、肯定から入ることで相手に対して「理解しています」という意思表示を示すこと。そこから徐々に自分の意見を伝えていく流れを意識しよう。オンラインは誤解が広がりやすいからこそ、こうした一言がコミュニケーションの良し悪しになる。
言葉に説得性が増す「プレゼン力」
好感度のある表情や言葉で「いいことを言う人」で終わらないのがプレゼン力。オンライン上であっても言葉選びと話し方で自分の考えに共感してもらい、相手の行動を変えなければならない。このプレゼン力で分かりやすい例が、ジャパネットたかた。オンライン上で伝わりにくいからこそ、「これだけは言っておきます!」「これは絶対!」といった言葉を、真剣な表情とともに発するだけで相手の注意を引くことができる。相手の行動を変えるという目標のために話を構築していくことを考えるのがプレゼン力に求められるスキルだ。
表現力を高める「描写力」
話し方に描写力が備わると、こちらの意図が相手に伝わりやすくなる。相手が容易に話した内容を想像できることで面白いことが面白く伝わり、結果として全体の印象がプラスにつながっていく。描写力は、どんな言葉や表情、仕草で表現すれば相手が喜ぶかを考えていくことがスキルアップのコツ。具体的なトレーニング方法を挙げるなら、1日の行動や出来事を面白おかしく実況中継してみるといい。電車に乗る人や道行く人の様子など、自分が目にしたものを相手がイメージできるよう言葉にする。たったこれだけでも、今まで気にならなかったことに気がつき、新しい発見や新しい価値観に触れる可能性が出てくる。例えば、ただ饅頭を食べるのではなく饅頭に押された印の意味を考えてみたり、中身の餡について感想を述べていく。このような実況中継を繰り返し練習すると、情報や表現の幅が広がるだろう。
「話し方」は変わる
梶原しげる氏から教えていただいた話し方スキルを上げるトレーニングは、やればやるほど効果が期待できるもの。「話す」という声を出す行為は、自分の考えを外にアウトプットするという意味で考えを整理する役割も果たしている。
梶原しげる氏が開催している話し方スキルアップ講座の中でも、発声や滑舌のやり方、スピーチ力の向上、フリートーク・プレゼンテーション・司会進行など、実践形式を中心とした内容が充実している。今後もビジネスの定番となりつつあるオンライン会議でより良い結果を残すためにも、ぜひ会話上達スキルの向上を目指してもらいたい。
教えてくれたのはこの方
オンライン話し方教室【ツタバナ】塾長
梶原しげる(元文化放送アナウンサー)
バラエティーから報道まで数々の番組に出演してきた元アナウンサー。50冊を越える著作には15万部を突破した「口のきき方」(新潮新書)などがある。プロのアナウンサーがマンツーマンで指導するオンライン話し方教室「ツタバナ」の塾長をはじめ、日本語検定審議委員、日本語大賞審査員を務める。さらに49歳で東京成徳大学大学院心理研究科に進学し、心理学修士号を取得。幅広い分野で「しゃべる楽しさ」や「言葉の面白さ」を発信する。初のエッセイ 新刊「妻がどんどん好きになる」(光文社)発売中。