海外でゆったり過ごすならスパがおすすめ
コロナ以降、マスクや行動制限から解放されたはじめての夏。まとまった休みが手に入ったならば、思い切って遠出がしたくなる、というのが心情というもの。
成田空港の発表では、2023年お盆期間の同空港利用旅客数は、国内線は2022年同期比で100.5%のところ、国際線は出国が407,200人、入国が363,400人の合計770,600人で、2022年同期比で367.8%と大幅に伸びている。
以前より遠くに感じられていた「外国」が、ようやく身近に戻ってきた気分だ。お盆期間に限らず、海の外へ飛び出す計画をしている読者も多いのでは。
閉塞感だらけだった毎日から解放されるようなゆったりとした空間で、自分を癒す時間を過ごしたい。そんな時にオススメなのは、やはり世界各国にあるリゾートスパ施設だろう。
今でこそ「スパ」という言葉は日本でも認知度を得ており、外資系を中心に、スパを併設するホテルなども多く存在している。
しかしながら、スパの選び方やスパの過ごし方を理解し、本当の意味で満喫できている日本人はどうにも少ないように見受けられる。
さらには、「スパ」という言葉だけが一人歩きし、「デイスパ」「ヘッドスパ」などさまざまな施設やメニューに使用されるようになってきている。また、「スパ」=「入浴施設」と勘違いも多く、『「スパ」って一体何なの?』と首を傾げたくなる気持ちもわかる。
筆者紹介
ここで少し筆者の紹介を。
私はCIDESCOとCIBTACというエステティックの国際的な資格を保有し、ビューティーキャリアは35年程に渡る。セラピストとしての知見や女性ならではの視点で「Nursery」というスキンケアブランドを立ち上げ、国内外への展開に、諸外国を飛び回る毎日である。また、京都にて自身のスパ「Spa ~Nursery Japan」を経営する傍ら、スパアナリストとして各国のスパを訪問し、技術、サービス、衛生面などプロの観点からの分析を行っている。
本シリーズは、私が世界を回り遭遇した数々の国内外スパ体験を中心に、セラピストの条件やオススメポイントなど、愛すべきスパの世界をご紹介していくものである。
連載第1回目の今回は、「スパ」というものが果たしてどういうものなのか、ということを美容のプロとしての視点を交えながら深掘りしていく。
スパの定義
まずは、本来「スパ」とはどのようなものを指すのか?
日本におけるスパ文化の振興を推進する非営利法人・日本スパ振興協会(NSPA)はスパの定義として、「健康と美の維持・回復・増進を目的として、温浴・水浴をベースに、くつろぎと癒しの環境と様々な施術や療法などを総合的に提供する施設」と提唱している。
スパは英語「spa」からの外来語で、ベルギーのリエージュ州にある町「Spa(スパ)」の名前に由来する。この町は古くから療養温泉地として温泉を利用した治療や健康維持が行われており、この「スパ」という言葉を鉱泉や温泉、それらがある保養地全体を意味する言葉として用いられるようになった。
日本人にとっては「スパ」=「入浴施設」、もしくは関西CMの影響か「エンタメ要素のある入浴施設」ひいては「スーパー銭湯の豪華版?」くらいに思っている方もいるかもしれない。
でも、本来のスパの条件は、「入浴施設」を伴う「美容・健康維持を提供する施設」。ビューティーとウェルネスに対してどのようにアプローチしているか、ということが各スパの個性や醍醐味に繋がるものでろう、と考える。
スパと温泉の違い
上述のように、本来のスパは「入浴施設を伴う美容・健康維持を提供する施設」という意味合いとして定義されている。そう考えると日本の温泉も「スパ」と呼べるような気がするが、日本の温泉との違いは何か。
温泉との違いは、スパは「入浴施設に付随した、トリートメントなど療養サービスの提供」が含まれているのに対し、温泉は、温泉水に含まれる成分を利用し、「入浴すること」そのものが療養としてとらえられている点にあるだろう。現に、海外スパの多くは天然温泉ではなく、塩素で消毒されたジャグジー温水プールのような入浴設備が多い。
入浴そのものに重きを置くのではなく、フィットネスや食事、エステ、サウナなど、様々なサービスを有するリゾート施設、大人が楽しむテーマパークがスパなのである。
モダンスパの在り方
現代に移り変わると、時代の流れに沿って「スパ」の定義も緩やかに変化していく。
1991年に設立され、モダンスパを提唱する「国際スパ協会(ISPA: International SPA Association)」は、「スパ」の定義を以下のように示している。
……
Spas are places devoted to overall well-being through a variety of professional services that encourage the renewal of mind, body and spirit.
[出典:https://experienceispa.com/]
(スパはマインド(精神)、ボディ(身体)、スピリット(魂)の再生を促すための様々な専門的サービスを提供することで、全体的なウェルビーイングに導く場所である」
……
つまりは、「心と体を癒しリフレッシュさせるための専門的なサービスを提供する施設」ということ。「入浴」という定義のみにとらわれず、マッサージやトリートメント施術はもちろん、空間設計や香り、すべてを通じて心と体を癒し、新しい自分へと生まれ変わることができる場所、それが「モダンスパ」のあり方なのだろう、と私は思っている。
この「モダンスパ」の考えに基づくと、「ヘッドスパ」「デイスパ」といった言葉もうなずける。
また、「タイ式」「バリニーズ」「アーユルヴェーダ」など、各国の伝統的なマッサージ方法を取り入れたトリートメントに着目したスパも多く、世界に広がるスパの波に多彩なヴァリエーションを与えている。
さらには、ヨガやピラティスなどのアクティヴィティとの複合サービス、医師による診断・栄養指導なども含めたメディカルスパ等、スパを中心としたウェルビーイングの可能性は広がりを見せている。
スパ・エステティック・マッサージ
ここまで「スパ」という定義について解説してきたが、少し派生して「エステティック」との違いにも触れていきたい。
「エステ」の語源は紀元前500年頃に遡り、当時の女王・エステルの美しさから「美」を表す形容詞として「エステティック」というフランス語が生まれ、美意識を表す言葉として使われたのが始まり。
2002年に総務省が定めた「日本標準産業分類」では、エステティックは「手技又は化粧品・機器等を用いて、人の皮膚を美化し、体型を整える等の指導又は施術を行う事業所をいう。」と定められており、スパの目的が「心身に対しての癒しやリフレッシュ」であることに対し、エステティックはより「美」に特化したものであると言える。
但し、現在はサービスも多様化。ビューティー・リラクゼーションサービスを充実させている温泉施設や、エステティック的なアプローチを行うスパのトリートメントも多く存在する。特に筆者は自身のエステティシャン経験から、エステティックとスパの融合はこれからも進み、体形や美容にアプローチできるエステティック技術・サービスの有無はスパのクオリティを左右していく重要な要素になり得る、と考えている。
楽しくも奥の深い「スパ」の世界。特徴豊かなスパ施設の分析、また時には失敗談も交えながら、スパを選ぶ視点や判断ポイントも紹介していく。素晴らしいスパに出会い、身も心も解放される、最高のリラクゼーションを味わってもらうきっかけになれば幸いである。
春日 郁代(かすが いくよ)
Spa~Nursery Japan オーナー
一般社団法人日本インターナショナルセラピスト協会 理事長CIDESCO認定インターナショナルエステティシャン
CIBTAC認定スキントリートメント/ボディマッサージ
日本エステティック業協会(AEA)認定インターナショナルエステティシャン、認定講師公務員を経て、大手エステサロンに勤務。2年後に店長となり、全国売上1位店に押し上げる。
その後京都にてサロンを開業し約35年にわたり経営。
アロマティックスキンケアブランド「Nursery」をはじめ、長年培った美容経験と女性の感性に寄り添って立ち上げた多様なビューティー商品は、アメリカ、中国、UAE他、世界中で販売・愛用されている。
また、スパアナリストとして、世界各国のスパを調査、コンサルティングを行う。
ワールドレベルの美容サービスの在り方を考え、世界に通用する美容従事者の育成とジャパニーズビューティーの国際的普及を目指し、日々アクティブに邁進している。
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