建築家ミース・ファン・デル・ローエの「神は細部に宿る」を信条とする森永さん。「人が見逃してしまうような小さな部分にまでこだわってもの作りをしたいし、そこにこそファッションの神様が宿るんじゃないかと思っています」
ファッションは音楽のようでも文学のようでも、映画のようでもある表現の一つの形です
パリコレをはじめ世界中で高い評価を得ているファッションブランド、「ANREALAGE(アンリアレイジ)」を率いるデザイナーの森永邦彦さん。
同ブランドの象徴でもある、緻密なパッチワークに込められた思いとは。
Photographs_TAKASHI TSUBAKI.
Text_SAYAKA NAGASHIMA.
PROFILE
森永 邦彦
東京都生まれ。早稲田大学社会科学部在学中にバンタンデザイン研究所に入学し服作りを始める。2003年に「ANREALAGE」を立ち上げ、NYの新人デザイナーコンテスト「GEN ART 2005」のアバンギャルド大賞を受賞。以降、世界的な賞を多数受賞。2006年より東京コレクションに参加。2015(春夏)パリコレクションデビュー。2017年、ANREALAGE FLAGSHIP SHOPを南青山にオープン。
それまでの「当たり前」を覆す
一着の服との出会いが契機に
オンオフの切り替えやその日の気分で着る服を選ぶ。それがファッションの自由さであり楽しみ方だ。
「ファッションは言葉を持たないが、色と形で想いを伝える力がある」そう語るのは、アパレルブランド「ANREALAGE」を率いるファッションデザイナーの森永邦彦さんだ。
同ブランドが掲げるテーマは「日常」と「非日常」。一見かけ離れていると思える両者を、森永さんは紙一重の存在として捉えているという。
「非日常は日常の中に潜むものです。服は気持ちや気分の切り替えをおこなえる有効な〝装置”なので、服を通して非日常を体験できるような、そんな服を提供したいですね」
その考えの根底にあるのは、高校時代に出合った一着の服だ。
「通っていた予備校の先生が、余談で教え子が作ったという服を見せてくれました。それが衝撃的に斬新で。アシンメトリーで切りっぱなしで、異なる素材が組み合わされていて。『服でこんな表現もできるのか』と、それまでの価値観が一変しました。服には常識や日常を覆す力があると、その時思ったんです」
早稲田大学に進学した森永さんはバンタンデザイン研究所にも通い、本格的に縫製の勉強を開始する。
「当時生地屋でアルバイトをしていたのですが、毎日大量に出る生地の端切れに、『この端切れで服を作ったら面白そう』と思い、パッチワークでの服作りを始めました」
みんなが捨ててしまうものを拾い集めて価値あるものに昇華させる。現在に続くブランドの原点でもあるパッチワークの発想は、まさに非日常への第一歩だったのだ。
服を通じてその人の日常に
新たなスイッチを入れたい
南青山の旗艦店「ANREALAGE FLAGSHIP SHOP」では、体形に合わせてオーダーメイドでYシャツやジャケットなどのパッチワークの服を作ることができる。テキスタイルも、例えば「古くなった思い出のシャツを使って作って欲しい」といった相談が可能だそうだ。
「パッチワークの服は2000から4000のパーツを使い、5、6人がかりでも完成まで1週間かかります。こういう手間をかけた服には気持ちのスイッチを切り替える特別な力があります。今は服も通販で簡単に買えますが、質感や仕立て具合、袖を通したときの心地よさやワクワク感は、決して通販では味わえない楽しみです。服が持つそんな力を、ぜひ店頭で感じて欲しいですね」
コロナ禍を経て、現在は3Dソフトなどを取り入れたデザインにも取り組んでいるという森永さん。
「デジタルの中から手仕事が生まれたり、その逆もあったり。新たな価値観を得るには、両者を行き来することが大事だと思っています」
世界の見え方を変えた衝撃的な服との出会い。あの時の高揚感を原動力に服作りを探求する森永さん。
「自分がワクワクできなければ、それを人に伝えることはできません。目の前の日常を当たり前と思わず、真逆の視点も意識して、非日常を楽しめる服を作っていきたいですね」
- ANREALAGE FLAGSHIP SHOPの店内
- パッチワークジャケットは45万円から、Yシャツは10万円からオーダー可能。
5月にスタートしたビヨンセの最新ワールドツアーのステージ衣装を森永さんがデザイン。
ANREALAGE FLAGSHIP SHOP
住所:東京都港区南青山4-9-3 ANREALAGE BLDG.1F
TEL: 03-6447-1400