「Starring the hidden gem(隠れた才能をステージへ)」がエシカル・スピリッツ株式会社の信条だ。「酒粕のように本当は価値があるのに見過ごされているものに今後も焦点を当てていきたいと思います。また人についても様々なキャリアを持つ人を受け入れ、多様性のある環境作りをしたいですね」
僕にとっての「エシカル」とは、小難しい話ではなくシンプルに、「社会的に筋の通った正しいことをすること」です。
日本酒造りの過程で発生した、行き場のない酒粕をクラフトジンに再利用するという斬新な取り組みで世界から注目されているエシカル・スピリッツ株式会社。
「循環経済の実現」を目指す代表取締役CEO・山本祐也さんの思いとは。
Text_SAYAKA NAGASHIMA.
Photographs_HISHO HAMAGAMI.
PROFILE
山本 祐也
石川県生まれ。一橋大学卒。ケンブリッジ大学大学院MBA。野村證券、JPモルガン証券、AKB48プロジェクト事業開発担当を経て、MIRAI SAKE COMPANY株式会社を2013年に設立。2015年株式会社未来酒店、2018年YUMMY SAKE株式会社、2020年エシカル・スピリッツ株式会社を創業。それぞれの会社で代表取締役CEOを務める。
日本酒業界への就職を志し
他業界でのスタートを切る
日本酒業界の長年の課題である製造工程で発生する酒粕の処理。この問題に新たなアプローチで取り組んだのが、エシカル・スピリッツ株式会社の代表取締役CEO 山本祐也さんだ。日本酒領域のベンチャー企業をいくつも手掛けており、アグレッシブな人物を想像したが、こちらの質問に言葉を選びながら静かに答える姿に、冷静さと聡明さを感じた。
「起業は手段であって目的ではありません。大切なのは社会課題の解決です。アイデアを実現するために必然性があれば起業しますが、すでにノウハウを持っている誰かがいればその人に任せてもいい。起業したい、起業家になりたいという思いが先行したことは一度もありません」
石川県に生まれ、幼少期から九谷焼や加賀友禅などの伝統工芸が身近な存在だったという山本さん。大学卒業後は日本酒の事業に携わりたいと考えたが、同業界への就職には大きな壁があったという。
「複数の酒蔵に面接を申込みましたが、どこも即戦力希望で新卒採用は厳しいと言われました。即戦力とは『売上か外部資金を調達できる能力』だと理解したので、ならばまずはその力を身につけようと、金融業界に身を置くことにしました」
大学卒業後、野村證券、JPモルガン証券で投資銀行業務に従事し、その後事業開発を学ぶためにAKB 48プロジェクトの運営会社に進む。そして、2013年に日本酒の販売や商品企画、生産支援を行うMIRAI SAKE COMPANYを立ち上げた。
行き場のない酒粕を活用した
エシカル・ジンが世界的に評価
その後は順調に日本酒に関わるビジネスを展開するが、その中で業界が抱える課題に直面する。
「酒米を醸造するとその約半量が酒粕になるのですが、それを消費するシステムが無く、どの酒蔵も処理に困っていました。その解決方法を自分なりに考えてみたいと模索していた時に、ジンは原材料に縛りがないお酒で、イギリスではウイスキーよりも大きいマーケットを持っていることを知り、ひょっとしたら酒粕をジンの原料に出来るのではないかと思いつきました」
着想を得た山本さんは2020年にエシカル・スピリッツ株式会社を設立し、酒粕を再利用したエシカル・ジン「LAST」を発売する。この試みは海外でも注目され、発売翌年の世界三大酒類の品評会「IWSC」でいきなり最高金賞を受賞する。さらにその翌年にはコーヒーやカカオを原料にしたエシカル・ジンが銀・銅賞を受賞するという快挙を成し遂げる。その後もコロナ禍で余ったビールでの生産を行うなど、新たな素材によるジンの生産を続け、その販路は海外にも及んでいる。
「我々のエシカルな取り組み、そのストーリーが皆様に共感いただけた点が、成功につながったと思っています。今後はさらにクオリティに磨きをかけていきたいと思います」
淡々とした語り口ながら確固とした信念を感じるその言葉に、「hidden gem(隠れた才能や魅力)」による新たな商品への期待が膨らんだ。
- エシカル・スピリッツが開発した5種類のクラフトジン。中央が酒粕を使った「LAST」。
- 蔵前にある「東京リバーサイド蒸溜所」。
リバーサイド蒸溜所2Fのバー&ダイニングでは、エシカル・ジンを使ったオリジナルカクテルが楽しめる。
エシカル・スピリッツ株式会社
住所:東京都台東区蔵前3-9-3 4F