65歳以上の7人に1人が発症するといわれ、「いつか自分や親がかかるのではないか」と
不安を募らせる人も少なくないだろう。一度発症すると以前の状態に戻るのは難しいため、
早期治療が重要となる認知症の、症状や原因、予防法などの基礎知識をご紹介しよう。
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PROFILE
監修 岩田信恵 先生
理学修士、医学博士。国際医療福祉大学三田病院脳神経内科部長、国際医療福祉大学医学部教授。日本認知症学会認定指導医・認知症専門医、日本神経学会認定指導医・神経内科専門医。脳神経内科の多様な疾患に対して丁寧に診察を行い、安心して納得のいく医療を提供しており、患者からの信頼も厚い。
65歳以上の7人に1人が発症
早期治療のために備える
認知症とは脳の障害や病気によって記憶力や判断力などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたした状態を指す。2012年度のデータによれば、日本では 歳以上の人に 人が発症。認知症にかかれば介護など家族の負担が大きくなりかねないため、常に高い関心を集める病気だといっていいだろう。
残念ながら認知症を完全に予防する方法はまだ見つかっておらず、年齢を重ねればいつだれが発症してもおかしくないと考えられている。また現代の医療では水頭症など治療可能な一部の疾患をのぞき、多くの認知症は完治させることができない。しかし初期段階で対応ができれば、症状の進行を遅らせたり、本人や家族が今後の生活の準備をすることができ、混乱を避けることが可能だ。
自分や家族が認知症となっても、自分らしく、快適な生活を送るために大切な、認知症の基礎知識をご覧いただきたい。
認知症とはどんな病気か
年齢を重ねればいつ発症してもおかしくない、認知症。
その特徴を知り、症状を見落とさないようにしたい。
症状と進行
− 初期症状に注意し、適切な対処を −
認知症の症状はもの忘れなどの記憶障害、時間や場所が分からなくなる見当識障害、理解力や判断力の低下などを含んだ中核症状と、怒りっぽくなる、無意欲になるなどの周辺症状に分類される。進行度によって症状も変化していくため、前兆を見逃さないようにしたい。
認知症の進行
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ステージ1
前兆(軽度認知障害)MCIとも呼ばれ、出来事の一部が思い出せないなどの軽い記憶障害があるが、日常生活には大きな支障が出ない状態。この段階で予防に力を入れることは、ある程度の認知機能の維持向上に有効だといわれている。
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ステージ2
初期(軽度)直前に起きた出来事を忘れてしまう、今日の日付が分からなくなるなど、軽度認知障害と比べると重い記憶障害や判断力の低下が起き、日常生活にやや支障をきたす状態。自信を失い、意欲の減退などが見られることも。
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ステージ3
中期(中度)食事をとったことを忘れる、自宅に1人で帰れないなどの記憶障害がさらに進行し、判断力も低下した状態。自立した生活が困難になり、介護が不可欠となる。また忘れたこと自体を自覚できていないのも、特徴の一つ。
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ステージ4
末期(重度)認知機能が著しく低下し、意欲や自発性、物事への関心がなくなる状態。自らの意思での発言や行動が困難になり、コミュニケーションをとること自体が難しくなる。身体機能が低下し、寝たきりになってしまうケースもある。
原因となる様々な病気
− 病気によって異なる主な症状 −
認知症は原因となる病気によって分類分けされ、以下の表に示した4種を4大認知症と呼ぶ。これらは一度発症すると根本的な治療が困難だが、正常圧水頭症など一部の病気から引き起こされる治療可能な認知症もある。症状だけでは判断が難しいため、早期の病院受診が重要だ。
4大認知症
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アルツハイマー型認知症
脳内の「アミロイドβ」という異常タンパクの蓄積と神経原線維変化により、脳細胞が消失することで起きる。主な症状はもの忘れで、ゆっくりと進行していく。認知症全体の中でもっとも発症数が多く、約7割を占める。
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血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により、脳の一部が神経細胞死することで起こる認知症。脳の障害の部位によって症状が異なり、記憶障害が起きているのに判断力は正常というような、「まだら認知症」が起こるのが特徴。
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レビー小体型認知症
脳に「αシヌクレイン」というタンパク質がたまり、レビー小体が形成されて起こる認知症。現実にはないものが見える幻視、歩幅が小刻みになり転びやすくなるパーキンソン症状、認知機能に波があるなどの症状が特徴。
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前頭側頭型認知症
脳の前頭葉と側頭葉にタウ蛋白などの異常タンパクがたまることで発症する認知症。感情が抑えきれなくなるなど人格の変化や異常行動、精神症状などが出てくるのが特徴。認知症のなかで唯一、難病指定を受けている。
認知症の予防法
生活習慣病が、認知症のリスクを高めることが明らかに。
運動など生活習慣を整えることが、認知症の効果的な予防となる。
生活習慣病や社会的孤立が、認知症の要因
認知症の発症を完全に抑える予防法は、発見されていない。しかし近年、認知症のリスクとなる要因が明らかになり、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病や、過度な飲酒や喫煙、さらに社会的孤立が該当することが分かってきた。またバランスの良い食事を心がけるのも、認知症予防には有効だと言われている。以下に主な予防法をご紹介しよう。
人と交流する
家に閉じこもらず、外出して家族以外の人と交流することが脳に刺激を与える。また将棋などのゲームを楽しむことも予防効果があると言われている。
知的活動を行う
日記を書く、本を読む、脳トレをする、料理をするなど、考えることや記憶をすること、判断することを意識的に行うことで、脳の活性化が期待できる。
過度な飲酒と喫煙を控える
過度な飲酒は脳に直接的なダメージを与え、喫煙は血流の悪化などにより、認知症リスクを高める。過度な飲酒と喫煙は控えるようにしよう。
運動習慣を身につける
生活習慣病の予防となるだけでなく、脳と身体の機能低下を防ぐことができる。話しをしながら歩くなどの、「ながら運動」も効果的。
認知症の検査
早期治療が、その後の症状や生活を大きく左右する認知症。
気になる症状が出てきたら、早めに医療機関にかかろう。
かかりつけ医や専門医での受診を
気になる症状が出てきた場合、既往歴を把握しているという点から、まずはかかりつけ医に相談するのが有効な方法だ。また認知症の専門医が在籍する病院を受診するという選択肢もある。検査は問診、血液や尿検査などの身体検査、簡単な質問や作業によって認知機能の状態を調べるスクリーニングテスト、脳の萎縮や血流を調べる脳画像検査などが一般的で、結果を元に医師が総合的に診断を行う。問診に詳しく答えられるよう、気になる症状を事前にまとめておくことも重要だ。
診断を受けられる主な場所
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かかりつけ医
現在の身体の状態や既往歴を把握してくれているため、その情報を踏まえて診察することが可能。必要があると判断した場合は専門医を紹介してくれる。
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認知症専門医のいる
医療機関専門的知識や経験など一定の水準をクリアした認知症の専門医による、詳しい検査を受けられる。脳神経内科、脳神経外科、精神科、もの忘れ外来などに在籍していることが多い。
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認知症疾患
医療センター認知症の中核施設として厚生労働省が全国約250ヶ所に設置。専門医が診察や治療を行うほか、専門の相談員による医療福祉相談を受けることもできる。
認知症と診断されたら
一番大切なことは冷静になり、対策を考えることだ。
相談窓口を決め、サポート体制を整えよう。
安心できる相談先が、生活の質を決める
認知症の診断を受けたら、医療、介護、資産管理の3つの視点から相談先を決めよう。医療に関しては認知症に知見のある、かかりつけ医を見つけ、治療を受けるのが望ましい。介護については、市区町村に設置されている地域包括支援センターで相談が可能だ。ここは介護保険の窓口であり、福祉サービスや制度について総合的な相談もできるため、積極的に活用したい。また資産管理に関しては、銀行口座の凍結や相続対策ができなくなることを防ぐため、自ら資産整理を進めるのと同時に、認知症の資産問題に詳しい司法書士や弁護士に相談しておくのも1つの手だろう。
認知症の治療
薬物療法とリハビリなどの非薬物療法を並行し、症状の進行を抑える治療が一般的だ。また新薬「レカネマブ」はアルツハイマー型認知症の根本的治療薬として注目を集めている。
介護保険について
どの程度の介護が必要かを7段階で表した要介護度によって、1~3割の自己負担で介護サービスを受けられる介護保険。主なサービスとして、自宅や施設での介護などが受けられる。
診断後にやるべきこと
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・相談窓口を決める
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・かかりつけ医を見つける
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・地域包括支援センターで相談する
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・要介護認定を受ける
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・介護保険サービスを利用する
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・財産を整理する
認知症の疑いをチェック
さまざまな機関などで使用されている認知症テストを紹介するので、確認しよう。
■ 認知症チェックリスト
以下の項目に対して「ほとんどない(0点)、たまにある(1点)、よくある(2点)」で合計点数を出そう(家族や身近な方がチェックすることも可)。
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身近な人や物の名前が思い出せないことがある
0・1・2 点
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言おうとする言葉がすぐに出てこないことがある
0・1・2 点
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昨日食べた食事のメニューが思い出せない
0・1・2 点
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物を置いた場所が分からなくなることがある
0・1・2 点
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今日の日付が分からないときがある
0・1・2 点
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家電製品やATMの操作がうまくできないことがある
0・1・2 点
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おつりなどの簡単な計算が困難になってきた
0・1・2 点
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片方ずつちがう靴下を履いてしまうことがある
0・1・2 点
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誤って同じ物を何度も買ってしまうことが増えた
0・1・2 点
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歩いていて人にぶつかることが多くなってきた
0・1・2 点
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「前にも同じ話をしていた」と指摘されることが多い
0・1・2 点
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薬の飲み忘れを指摘されることが多い
0・1・2 点
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部屋が散らかっていると言われることが増えた
0・1・2 点
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身だしなみの乱れを指摘されることが多くなった
0・1・2 点
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予定していたことを忘れてしまうことが増えた
0・1・2 点
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怒りの感情が抑えられないことが増えた
0・1・2 点
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お風呂や歯磨きが面倒に感じるようになってきた
0・1・2 点
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何をするのも億劫に感じることがある
0・1・2 点
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よく見知った道なのに迷ってしまうことがある
0・1・2 点
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週3日以上、家から全く出ない日がある
0・1・2 点
・合計が0~9点の場合
認知機能低下の可能性は低い。頭の体操をする、生活習慣に気をつけるなど予防に取り組みながら、認知機能を維持することを心がけよう。
・合計が10 ~15点の場合
もの忘れの症状が現れる頻度が高くなっている。適度な運動など予防に取り組みつつ、気になる場合はかかりつけ医や専門の医療機関に相談しよう。
・合計が16点以上の場合
認知機能の低下が進んでいる可能性がある。早めにかかりつけ医や専門の医療機関を受診し、相談することをおすすめする。
出典:一般社団法人日本認知症予防協会 ※このチェックによって出た結果はあくまで目安であり、認知症やMCIについての診断は決定できない
■ ひらがな計算テスト
つぎのひらがなの足し算をよく読んで答えよう。 例:ごたすにじゅういち (5+21)26
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① はちたすよんたすじゅう
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② いちたすにたすご
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③ にじゅうよんたすきゅう
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④ ごじゅうたすごじゅういち
〈解答〉① 22 / ② 8 / ③ 33 / ④ 101
いくつか間違いがあった場合や難しいと感じた場合は、認知症の疑いがあるため医療機関に相談してみよう。
認知症を学ぶ映画3選
罹患した本人や家族の想い、悩みなど、認知症の理解に役立つ映画をご紹介。
『ファーザー』
患者視点で認知症を描いた2021年公開の映画。現実と幻想の境目が曖昧になる演出は、認知症の恐ろしさを疑似体験させてくれる。また、徐々に追い詰められていく家族の姿がやるせない。
DVD販売価格:4,180円(税込)
販売元:インターフイルム
ⓒ NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINE-@ ORANGE STUDIO 2020
『ぼけますから、よろしくお願いします。』
アルツハイマー病の母と父の暮らしを描いた2018年公開のドキュメンタリー映画。娘が撮影しており、病気の進行に寄り添う家族を描く。特に認知症の自覚に苦しむ母の様子に胸が痛む。第2弾も公開されている。
DVD販売価格:4,180円(税込)
販売元:TCエンタテインメント
発売元:フジテレビジョン
ⓒ『 ぼけますから、よろしくお願いします。』製作・配給委員会
『ペコロスの母に会いに行く』
息子目線で認知症の母との日々をユーモラスに描いた2013年公開の映画。家族の温かみを感じながら介護の大変さや接し方を学ぶことができる。認知症への理解を深める第1歩としてぴったりの作品だ。
DVD販売価格:4,180円(税込)
販売元:TCエンタテインメント
発売元:TCエンタテインメント
ⓒ 2013『ペコロスの母に会いに行く』製作委員会