発達心理学者のロバート・キーガンによると、人の成長には知識やスキルを獲得する「水平的成長」と、人の器を大きくする「垂直的成長」があるそうです。垂直的成長には旅が最適なのだとか。「おてつたび」のユーザー最高齢は84歳。人生100年時代ですし、皆さんにも「おてつたび」を体験していただけたら嬉しいです。
旅は人を手っ取り早く成長させてくれるソリューション。
コンフォートゾーンを離れると新たな自分に出会えます。
お手伝いをしに旅に出る。旅先でお手伝いをする。少子高齢化や東京への一極集中による
地方の過疎化、労働者不足といった社会問題に、「お手伝い」×「旅」という
新たな提案で挑む永岡里菜さん。そのサービスへ至る道のりと想いを聞く。
Text_YUKI KATORI.
Photographs_MASAKI KOZAKAI.
PROFILE

永岡 里菜(ながおか りな)
1990年生まれ、三重県尾鷲市出身。千葉大学卒業後、イベント企画会社などを経て、2018年に株式会社おてつたびを創業。旅と人材のマッチングサービス「おてつたび」のユーザー数は、2025年4月現在約7万人、登録事業者数は1800社にのぼる。2025年日本ユースリーダー協会主催「第16回若者力大賞」、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」を立て続けに受賞。
パソコンの中にはない
答えを求めて旅へ
「人生を変えたければ旅に出よ」とはよく言うが、永岡里菜さんも旅で人生が変わった1人だ。人手不足に悩む地域と、旅をしたい人をつなぐ「おてつたび」は、永岡さんが自ら全国を巡って生み出した、今注目の人材マッチング×旅のサービスだ。
「もともとは小学校の教員希望だったのですが、教育実習で自分の引き出しの少なさを実感して、まずは経験を積もうと一般企業に就職しました。二社目では和食の普及活動に携わって、日本中を飛び回る仕事をしていたのですが、『どこそれ?』と言われるような地方の町や村にも、魅力がたくさんあることに気づいたんです。私の故郷、三重県尾鷲市も『どこそれ?』と言われがちなのですが、私はとても魅力的な街だと思っていますし、全国のそういった地域にスポットライトが当たる未来をつくりたい、そんな仕事をしたいなと考えるようになったんです」
目指すべき方向性が見えるや、永岡さんは具体的な策を見つけるために、早々に仕事を辞めてしまう。
「決断力や行動力があるタイプでは決してないので、動かざるを得ない環境に無理やり自分を追い込んだ感じです。退職後しばらくは毎日カフェでPCとにらめっこして、事例を調べたり、地域の課題解決のための仮説を立てたりして過ごしていたのですが、パソコンの中に答えは無いよな……と、ふと思い至って。ならば答えを探しに地方に行こうと、住んでいたアパートを引き払って、夜行バスで地方巡りを始めました」
お手伝い×旅がもたらす
無限の可能性
全国を旅しながら、時に農家のお手伝いをしたり、試行錯誤を繰り返して「おてつたび」は完成した。
「役割を持って地方に行くと、単なる観光として訪れるのとは違う、地方の魅力が見えるんです。地元の人と仲間のようになれて、より深い関係性が生まれます。今、地方の人手不足は待ったなしの状況です。2040年には1200万人の労働人口が不足すると言われています。これは現在の東京都の労働人口を優に超える数です。そのしわ寄せはまず地方に出ます。ですから私たちは、『おてつたび』を通して知らない地域を訪れるきっかけを提供して、その地域のファンになって継続的にその地域を訪れたり、その地域のものを購入したり、時には労働力として関わったり、一人が何役も担うような新しいエコシステム作りにチャレンジしているんです」
創業から7年。その手ごたえを十分に感じているという。
「世の中に無かった価値をゼロから皆で作って、色々な人が喜んでくれて、自治体や観光協会だけでなく、大企業の皆さんや大学などとも連携させていただけるようになりました。『おてつたび』がきっかけで、結婚や就職をされる方も出てきたんですよ。今後も『おてつたび』という旅のあり方が世の中の当たり前になるまで、しっかり事業を成長させていきます。それが叶ったら、改めて教職を目指したい。そっちの道も諦めていないんです(笑)」
三重県尾鷲市で幼少期を過ごした永岡さん。地方への強い想いが育まれた場所だ。
創業前、夜行バスで地方を巡った際の、お手伝い先での一枚。
講演に登壇する永岡さん。創業から7年。地方創生の新たな一手として大きな注目を集めている。