©Sotheby’s
それはスリリングでドラマチック華麗なるオークションの世界
電光掲示板に表示される価格が上がって行くごとに増す緊張感。
張り詰めた空気が会場に漂う。
その空気にこだまするかのように響きわたるオークショニアの一声。
「もういませんか?もし、誰もいらっしゃらなければ、これで決まりですね…、本当にいませんか?」一つの絵画をめぐって会場の人々が、そして電話やオンラインを通して世界の人々がさらなる高額の数字がはじき出されるであろう瞬間を固唾をのんで見守っている…。
Text_KUMIKO ASAOKA
サザビーズNY 2018年5月14日開催の印象派・モダンアート イブニングセールの模様。掛かっているモディリアーニの絵画『横たわる裸婦』は、サザビーズ史上最高落札額が付けられ、世界中で話題をさらった。
知られざるオークションの世界オークションには豊かさと幸せが詰まっている
緊張感と熱気がみなぎるオークション会場。誰もが手に汗握るそんな情景をきっとテレビや映画のワンシーンで一度は目にしたことがあるだろう。知っているようで知らない華麗なるアートオークションの世界。その醍醐味に迫る――。
二大老舗オークション会社と称されるサザビーズもクリスティーズも18世紀半ば頃にロンドンで誕生した。
世界的な高額美術品への投資熱
富裕層ビジネスを専門とする国際的な情報筋によると、近年、世界の美術品市場に投資マネーが流れ込んでいるという。景気や金融市場の動向に最も左右されやすい美術品の売買。いわゆる世界的な〝カネ余り状態〞がいやが上にも高額な美術品投資へと目を向けさせているのだ。驚くことに、成長著しいアジア圏では20〜30代、いわゆる〝ミレニアル〞世代と呼ばれる若年層の美術品購入が活況を帯びているという。
近年、日本でもZOZOの前澤友作氏を筆頭に、企業としてではなく個人でアートに投資する30〜40代の経営者も年々増えており、以前に比べ、幅広く高額美術品への投資意識が高まってきているのは事実だ。
1.1937年にロンドンのロスチャイルド家所有の邸宅内で行われた第二次大戦前のオークションの様子。ジョージ六世の戴冠式を控え、このオークションにも世界各国の賓客が参加したことから、国家イベントになったという。
NYにあるサザビーズ本社。展示スペースは現在リニューアル中で、8300㎡を超える広さで5月にオープン予定。
美術品オークションの歴史と意義
18世紀半ばにロンドンで誕生したアートオークション。300年も前から続く最もシンプルで原始的な競売のかたち。それこそが今も世界で開催されているアートオークションの姿だ。売りたい人がいて、それを買いたい人がいる。だから、第三者の仲裁を通して全員参加でフェアに売値を叩き出そう、というメカニズムだ。18世紀から進化したものといえば、世界中からオンラインや電話での入札が手軽にできるようになったということくらいだろうか。
そもそも、オークションとは、売る側、買う側、そして間に入る人、三者の人間同士の信頼の上に成立するものだ。例えば、1744年ロンドンで創業。NY株式市場でも最も古い上場会社の一つという歴史を誇るサザビーズや、同時代に創業したもう一つの老舗オークションハウス、クリスティーズが誇るノウハウと人脈、そしてコンプライアンスにおける確固たる規律は、世界のオークションハウスを牽引するにふさわしいものだ。まさにこの〝信頼や人脈〞という目には見えない付加価値があるからこそ歴史上に名を刻んだ、またはこれから刻むであろう名作が次々と集まり、高値で落札されてゆく。その絶え間ない営みの繰り返しによってオークションハウスというものは始めて成立するのだ。300年という歴史の流れを経て、今なお、世界のオークションハウスといえば、サザビーズかクリスティーズの二大組織に代表されると言われる所以だ。
ちなみに、これらの二大ハウスは日本にも支社があるので、私たちも気軽にコンタクトを取れるのはありがたい。今回、由緒正しき美術品オークションの意義や魅力について、サザビーズジャパンに話を聞いた。以下、日本のアート市場の未来に至るまで、様々な視点から興味深い話を聞かせてくれた。
「欧米では、美術品購入となるとギャラリーに行くよりもオークションで購入するというケースのほうがむしろ多いかもしれません。興味のある作品に対して、自分自身で価格設定に参加できるという醍醐味、そして、プロのディーラー(ギャラリスト)も愛好家も、同じプラットフォームで、フェアな条件で競り合う。そのすべてのプロセスに参画することの意義が人々の間で重要視され、自然に受け入れられているのだと思います」
サザビーズ史上最高落札額を記録!
モディリアーニの『横たわる裸婦(1917)』
サザビーズNY2018年5月14日開催の印象派・モダンアート イブニングセールで現在の史上最高額落札記録、約173億円を叩き出した。
オークションの仕組み
では、オークションの仕組みについてサザビーズを例にとって見てみよう。まず、サザビーズの公式のホームページ上でオークションの出品作品のカタログを閲覧できる。もし、直接目にしてみたいと思うものがあれば、各国のサザビーズ支社で開かれる下見会へ参加することも可能だ。実際のオークションの参加には24時間前にホームページ上での参加登録と手続きが必要(日本支社へ電話して登録を依頼することも可能)。
サザビーズのオークションは、ロンドン、NY、パリ、ジュネーブ、香港など世界の主要都市で開催される。そのジャンルも各種絵画、中国美術、ジュエリー、時計と様々だ。すべてをあわせると75ジャンルにも及ぶ。
「残念ながら、東京ではオークションは開催されていませんが、世界の開催地へと足を運ばなくとも、電話、書面、オンラインというかたちでも入札が可能です。オンライン入札では続行中のオークションの模様をライブで見ながら参加できるので会場の臨場感も伝わってきます」
逆に、もし、自身の所有している作品やコレクションを売りたいと思ったら、まずは日本事務所へ作品情報を郵送、もしくはメールで送れば、日本の、そして世界のスペシャリストと呼ばれる各分野の目利きに情報が伝わり、彼らによる査定を通して適正なエスティメート(落札予想価格)がはじき出される。
サザビーズの香港オークションプレビューの様子。
香港の会場に足を運んでみよう
東京でサザビーズのオークションが開催されていないのは残念だが、アジア圏で大々的にサザビーズのオークションが開催されている香港会場へぜひ足を運んでみよう。
「香港では春と秋に主要ジャンルのオークションがまとめて開催されるので、短時間、短期間でめぼしいセールに効率的に参加できる利点があります。オークション出品作品が事前に展示されているプレビュー(下見会)では、NYやロンドンなどで出品されるハイライト作品も展示され、大きな話題になっています。中国美術の充実はもとより、複雑時計のリミテッドエディションも出品されたり、数多くの有名ブランドのハイジュエリーに交って価格のつけがたい翡翠の宝飾なども出品されます。作品の傾向や雰囲気なども含め、日本の方に初めてご来場頂くには最適だと思います」
香港のコンベンションセンターで開催されるオークションは、下見会場も実にオープンで、観光がてら気軽に立ち寄れる雰囲気なのが嬉しい。香港に居ながらにして世界最高の、そしてユニークで充実したアートコレクションやアイテムに遭遇できる意外性と面白さを一度体験してほしいものだ。先ほど、アジアではミレニアル世代が果敢に高額美術品を落札する傾向にあると述べたが、その牙城こそがまさにここ香港。現在、最も堅調かつ、さらなる成長が期待されるアジアの現代絵画作品のイブニングセールなどの盛況ぶりを見れば、それがいかに事実であるかを、そして同時にサザビーズらしい華やかなオークションの醍醐味を十分に堪能できるだろう。
日本のアート市場の未来
最後に日本という美術品市場について考えてみよう。
「日本はアート市場としてつねに重要な位置を占めてきました。規模や取引の量という点では、市場自体は小さいですが、日本人のコレクターの出品する作品は保存状態もよく、カタログに〝ジャパニーズコレクター〞と冠が付くと、大きな注目が集まります。資産としてのアートコレクションに対する意識も近年顕著に高まっています。先日の当社のロンドンにおける印象派絵画のセールでは、〝バブルの再来ではないか〞と関係者たちが口々に騒ぐほど、日本人のアグレッシブな入札が目立っていました。」
2017年にNYで開催されたサザビーズのオークションで、前澤友作氏がバスキアの作品を約123億円で落札したことも、日本人コレクターの存在感を、あらためて世界に知らしめた出来事だったといえるだろう。
今や、社会貢献の一環としての企業活動には欠かせないアートへの投資。サザビーズでは、経営者向けに企業としての価値あるアートコレクションの意義を踏まえたアドヴァイザリー活動も行っているという。
手数料の高さや流動性の低さなどの観点から美術品は投機には向いていないと言われる。しかし、個人にとっても企業にとっても、資産としての価値、そして、彼らが生みだす目に見えない力は実に優れている。そして、何よりも愛情を持って美術品やアーティストたちを育むということが、将来双方にとってどれほどの価値を生みだすものであるかということを、ぜひこの機会に考えてみてはいかがだろうか。世間的な価値観から離れたところにこそ情熱を注ぐ精神的な豊かさ――。それこそが幸福の追求の第一歩なのだから。
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