心をほどき、自然のままに愉しむ 大地の恵みを湛えたシャンパーニュ
Texts_SAYAKA NAGASHIMA.
photographs_HIDE NOGATA.
シャンパーニュ(シャンパン)は祝宴の象徴であると同時に、心に潤いをもたらす繊細な飲み物だ。ふと自分の時間を取り戻したくなる静かな夜。そんなひとときに、美しく、そして静かに寄り添ってくれる。
1912年、シャンパーニュ地方の自然豊かなダムリー村で、葡萄農家兼ワイン生産者のアンリ・ロピタルが創業した小さなメゾン「テルモン」。一世紀以上にわたり「勇気」「謙虚」「忠実」という信念のもと、妥協のないシャンパーニュづくりを貫いてきた。その根底にあるのは、〝母なる自然の名のもとに(In Nomine Terrae)〞という理念。化学肥料や除草剤を使わず、ブドウを育む土地とその生態系を守りながら、自然と調和するオーガニックな一本を生み出している。
そんな大地の恵みをそのまま感じられる一本が、フラッグシップの「レゼルヴ・ブリュット」だ。シャルドネ、ムニエ、ピノ・ノワールを繊細にブレンドし、2020年をベースに複数年のリザーヴワインを重ねたマルチヴィンテージ。
フレッシュさとリッチさという相反する要素を絶妙な調和で包み込み、エレガントな余韻を描く。ドザージュは控えめなエクストラ・ブリュット。透明感と奥行きが共存し、時の流れとともに表情を豊かに変えていく。
グラスを傾ければ、洋ナシや白桃を思わせる香りがふわりと立ちのぼり、やがてトーストしたアーモンドや焼き菓子のニュアンスが重なっていく。ひと口含めば、果実の瑞々しさが舌の上でほどけ、やがてクリームを思わせる柔らかな質感へと変わる。
微細な泡が静かに消えていく余韻は、派手さではなく、調和の美しさ。心をほどき、自然のままに愉しむ。そんな穏やかな贅沢を教えてくれる一杯だ。