TOP ライフスタイル 株式会社ゆあそび 代表取締役社長 関根江里子 銭湯から社会に温もりを

株式会社ゆあそび 代表取締役社長 関根江里子
銭湯から社会に温もりを

スタートアップの取締役から、銭湯の運営へ。関根江里子さんの人生を変えたのは、
街の銭湯の湯船で交わした名も知らぬ人との何げない会話だった。
誰にも閉じず、何でもない自分に戻れる〝銭湯〞という場づくりへの想いを聞いた。

Text_IKUKO NODA. Photographs_HISHO HAMAGAMI.

PROFILE

関根江里子
関根江里子(せきねえりこ)

1995年上海生まれ、東京育ち。慶應義塾大学経済学部卒業。学生時代から4社のスタートアップ企業でインターンを経験。2020年にフィンテックベンチャー企業に入社し、事業責任者を務めた後、同年末に取締役COOに就任。2022年銭湯経営を志して退職。銭湯でのアルバイトをしながら継業先を探す中で、SNSの投稿をきっかけに小杉湯原宿プロジェクトに参画。2024年4月、小杉湯原宿をオープンし、同年10月に同事業を運営する株式会社ゆあそびを設立。2026年2月に第一子が誕生。子育てを楽しみながら銭湯運営を続けている。

街に一つ銭湯があったら
社会はもう少し温かくなる

東京・原宿の商業施設「東急プラザ原宿『ハラカド』」地下1階にある「小杉湯原宿」。ここは湯船を中心にした昔ながらの銭湯だ。その運営を担うのが、株式会社ゆあそび代表の関根江里子さん。フィンテック企業で取締役COOを務めた後に、銭湯経営の世界へ飛び込んだ異色の経歴を持つ。関根さんは清掃業に携わる60歳の父と中国人の母の間に誕生。属性や身なりに対する、周りの冷ややかな視線が両親に向けられるのを目の当たりにし、幼い頃より社会の不条理に静かな憤りを覚えてきた。

大学時代から複数のスタートアップ企業に携わり、2020年12月に株式会社ペイミーのCOOに就任。転機が訪れたのは翌年の9月だ。

株主が掲げる指標と、幼い頃から抱いてきた社会を良くしたい想いが乖離していることに深く悩んだ時、関根さんの足は銭湯へと向かっていた。銭湯は、幼い頃に仕事帰りの父と共に通った心休まる場所だった。

「湯船の中で、見ず知らずのおばあさんに話しかけられました。天気や湯加減などたわいもない話をしているうちに心が軽くなったのですが、同時に雷に打たれたような衝撃を受けたんです。湯に浸かるこの時間だけは、会社や役職を背負っていない、何者でもない自分なんだと」

年齢も職業も違う人が同じ湯に浸かる──。そこには、肩書や見た目で人を分けない社会の姿があった。

「みんなの街に一つ銭湯があったら、社会はもう少し温かくなる。父と過ごしたような銭湯を自分も創りたいと思いました」

「いい“気”がある場所」だと
感じてもらいたい

ペイミーを退任し銭湯のアルバイトをしながら継業先を探す中、「社会に銭湯が必要な理由を自分の言葉で話せるようになりたい」とsnsに投稿。偶然目にした東京・高円寺の小杉湯三代目、平松佑介さんから声がかかったことが、小杉湯原宿のプロジェクトに加わったきっかけだ。

小杉湯で学んだのは、お客様を信じること。禁止事項を並べず、ドライヤーや美顔器のような貸出品にも鎖を付けることがない。

一方、清潔さは妥協しない。扇風機の羽や空調のカバーまで外して洗うのも、お客様がふと見上げた時に埃を見つけて気分を害さないようにとの細やかな気づかいからだ。

「『この場所は 〝気〞がいいな』と感じてもらいたいんです」

その「気」を創るため、スタッフにも気を配る。表情や体調も空間の雰囲気に表れるためだ。
「お客様を幸せにするためにいるスタッフが疲れていたら、お客様は幸せになれません。なので、半分冗談で『失恋した次の日は休んでね』と伝えています」

目標は「100年続く銭湯」。銭湯の数は、ピーク時の約1万8000軒から1562軒まで減少している。新設した小杉湯原宿が数年で終われば、次の銭湯が生まれなくなるかもしれないという重責も背負う。銭湯文化への想いと事業性を両立させながら、100年続く銭湯に向かって一日一日を積み重ねていく。

Memorable Words

互いへの気遣いを持ちながらも、干渉はしない。
銭湯でのそんな小さな思いやりが社会全体に広がれば、
社会はもっと良くなっていくと信じています。

原宿にある銭湯ですが、〝原宿らしさ〞という言葉は使いません。竹下通り、キャットストリート、キラー通り——原宿を構成するカルチャーは実に多様。どれかを〝原宿らしさ〞と定めた瞬間、他の誰かの原宿を否定することにつながります。銭湯で原宿を表現するのではなく、原宿の人たちが行きたいと思う銭湯を創ることが使命だと感じています。

  • 風呂桶は中川木工芸 比良工房の高野槇 丸湯桶、身体を洗うタオルは泉州タオル。志を持ち質の良い商品を生み出す企業の製品を用意している。風呂桶は中川木工芸 比良工房の高野槇 丸湯桶、身体を洗うタオルは泉州タオル。志を持ち質の良い商品を生み出す企業の製品を用意している。
  • 銭湯に関係のある絵柄の「おふろ花札」。小杉湯原宿前の湯上りスペース「チカイチ」で楽しめる。銭湯に関係のある絵柄の「おふろ花札」。小杉湯原宿前の湯上りスペース「チカイチ」で楽しめる。

東急プラザ原宿「ハラカド」の地下1階で7:00〜23:00営業(最終受付22:15・木曜日定休)
東急プラザ原宿「ハラカド」の地下1階で7:00〜23:00営業(最終受付22:15・木曜日定休)

※2026年8月4日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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