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福岡で拓く、 酒の新境地

福岡の酒造りが新時代へと突入している。
伝統を受け継ぎながらも新たな発想を取り入れ、それぞれの酒造りを追求する造り手たち。
土地の個性を尊び、自らの感性を信じた挑戦の先にあるものとは。

Text_TAKESHI MAEDA(Panfield). Photographs_KOICHI NABETA(Panfield).

注目を浴びる福岡の酒

福岡は古くから良質な酒を醸してきた酒どころだ。江戸時代の「筑前国続風土記」には、この地の酒を「優良、上国の佳産に勝るもの」と称える記述が残り、西南戦争では、政府軍の士気を高めるために福岡の酒が振る舞われたとも伝わる。なかでも城島(現在の久留米市)は、最盛期には「東の灘(神戸市)、西の城島」と並び称されるほどだった。
その酒造りを支えてきたのが、清冽な軟水と冬場はぐっと冷え込む福岡の気候だ。糸島エリアを中心に酒米・山田錦の栽培も盛んで、その生産量は全国有数を誇る。こうした歴史と風土を背景に、現在も多くの蔵元が酒造りを続ける一方、近年は若い世代による新たな挑戦やクラフトサケも存在感を増している。2025年10月1日「日本酒の日」に、福岡県産の清酒が「GI」※に指定されたこともさらなる追い風となった。福岡の酒に今、新たな地平が広がり始めている。

(※)酒の地理的表示(GI)制度は、地域の共有財産としての「産地名」の適切な使用を促すために創設。酒にその産地ならではの特性が確立されていることを前提に、国税庁長官の指定を受けることで産地名を独占的に名乗ることができる。

わかなみしゅぞう

若波酒造

大川市

若波酒造

三本の矢を束ね、新たな酒造りに挑む

製造統括の今村友香さん
製造統括の今村友香さん
社長の今村嘉一郎さん
社長の今村嘉一郎さん
9代目杜氏の庄司隆宏さん
9代目杜氏の庄司隆宏さん

大正11年(1922)創業の「若波酒造」が、大きく転換したのは2008年。今村友香さんが、九州初となる清酒女性杜氏に就任したときだった。
歴史ある蔵元の次女に生まれた今村さんだが、酒造りとはほとんど無縁で育った。蔵は、厳然とした男性社会だったからだ。当然、将来蔵に入るなどとは夢にも思わず、京都の大学に進学。そのまま京都で働くつもりでいた。しかし、父の壽男さんが体調を崩したことで思い描いていた未来は一転。帰郷して家業を手伝うことになる。当初は「家業の犠牲になった」と悲観することもあったが、その心の曇りを晴らしたのは、蔵で見た〝ある光景〟だったという。
「秋に蔵に神主さんがやってきて、蔵人たちとお清めを行うんです。その光景が神秘的でかっこよくて。ここでこんなことがずっと受け継がれていたなんて!と、感動しました」。
この感動を機に、今村さんは酒造りと本気で向き合い始める。だが、かつては女人禁制とまでいわれた酒造りの世界。すぐに蔵人として受け入れられたわけではなかった。それでも広島の酒類総合研究所に通いながら文献を読み漁り、貪欲に酒造りを学んだ。2006年には福岡の特産品「あまおう」を使った国内初のリキュール開発に挑み、苦心の末、商品化を実現させる。
「自分の居場所を作りたい」。その一心が原動力だった。
こうして周囲の信頼を得て杜氏となった今村さんだが、一人でできることには限界があった。そこで2009年に弟の嘉一郎さんを東京から呼び戻し、さらに翌年、酒類総合研究所の同門だった庄司隆宏さんを杜氏として招聘する。今村さんが製造統括、嘉一郎さんが経営責任者、庄司さんが杜氏を務める〝三本の矢体制〟が確立したのだ。
三本の矢が揃い、蔵の酒も生まれ変わった。「味の押し波、余韻の引き波」をコンセプトに、それまでの酒質を刷新。デザイン会社に勤めていた嘉一郎さんがロゴデザインを手掛け、新たなブランドイメージを構築した。酒の味には、九州出身ではない庄司さんの感性が生かされていると今村さんは語る。
「仙台生まれの庄司が言うには、九州はポン酢文化だねと。そこで私たちは〝酸〟に着目しました。柑橘を思わせる爽やかな香りや風味を表現すれば、より九州の料理に合うお酒になるんじゃないかって」。
ぐっと旨味が押し寄せたかと思えば、心地よい酸味の余韻を残し、軽やかに引いていく。まさしく「押し波、引き波」の美学を体現した酒は、数々の鑑評会で最高賞に輝くなど確かな実績を積み重ねている。一方で新たな酒造りにも余念はなく、長期貯蔵酒にも取り組むなど、今村さんたちはさらなる挑戦を恐れない。庄司さんはこう言う。
「変わらないおいしさを守るためには、常に変化する必要があると思うんです。変化の大小はさまざまですが、過去の成功に囚われず、常に新たな心持ちで酒造りを捉える――。蔵として目指すべきおいしさが明確であれば、それが正しい変化につながっていくと信じています」。
今村さんが描く未来に、嘉一郎さんが知性を、庄司さんが感性を吹き込む「若波酒造」。三本の矢は、これからどんな名酒を醸し出してゆくのだろうか。

主力銘柄の「若波 純米酒」「若波 純米吟醸」「蜻蛉(とんぼ)」。
主力銘柄の「若波 純米酒」「若波 純米吟醸」「蜻蛉(とんぼ)」。
「年ごとに変わる原料米や仕込み水、気候、蔵の設備や人材を見極め、最適化することが大切」と庄司さんは語る。
「年ごとに変わる原料米や仕込み水、気候、蔵の設備や人材を見極め、最適化することが大切」と庄司さんは語る。
蔵に併設された直売ショップ。
蔵に併設された直売ショップ。

若波純米大吟醸

変化を恐れず、
進化を続ける酒造り

若波純米大吟醸

福岡県酒類鑑評会で最高位に輝いた傑作。華やかな香りと優しく溶けていくような旨味が特徴だ。蔵が推奨する10℃前後に冷やすと青い文字が浮かぶ「飲み頃サインラベル」も印象的。

原料米:福岡県産山田錦100%
精米歩合:45%
使用酵母:非公開
アルコール度数:15度
価格:720ml 3,630円/1,800ml 6,600円

「苺のお酒 あまおう」(箱付300ml 990円)
「苺のお酒 あまおう」(箱付300ml 990円)
九州の素材を使った和リキュール「Qdamon」(くだもん)シリーズ(720ml 1,380円~)も人気。
九州の素材を使った和リキュール「Qdamon」(くだもん)シリーズ(720ml 1,380円~)も人気。

若波酒造

若波酒造

住所:大川市鐘ヶ江752
TEL:0944-88-1225
営業時間:9:00~17:00
定休日:土・日曜日・祝日
※蔵見学は酒造期間外可・1日1組限定、要予約。

価格はすべて税込み、店頭価格

カルティバ いとしまじょうぞうじょ

Cultiva糸島醸造所

糸島市

Cultiva糸島醸造所

素材に光を当てる酒米テロワール

どういう酒を造るかではなく、どんな酒ができるのか――。
大学で応用微生物学を修め、焼酎メーカーで原料研究に携わってきた副田大介さんの酒造りは、アプローチからして斬新だ。
「これまでの日本酒は製法重視で、米の個性が埋もれがちでした。私はその米の個性を生かすことで、どんな酒が生まれるかを追求したいんです」
素材の違いをそのまま味の違いとして尊ぶ「酒米テロワール」。現代の酒造りを上流から見直す、研究者らしい視点といえる。
同醸造所では米の特徴が出やすい「どぶろく」を主軸に据える。原料には酒米だけでなく食用米も使い、精米歩合は90%。これもタンパク質=雑味という常識に一石を投じる数値だ。
「製法競争やブランド競争ではなく、その土地らしさや風土を味わえるお酒があってもいいと思います」と副田さん。小さな醸造所から、酒造りの新基軸が生まれようとしている。

仕込みは生酛造り・木桶発酵など伝統的な製法を用いる。伝統への回帰と現代技術の両立が副田さんの酒造りだ。
ほとんど精米しないのもこだわり。

仕込みは生酛造り・木桶発酵など伝統的な製法を用いる。伝統への回帰と現代技術の両立が副田さんの酒造りだ(左)。ほとんど精米しないのもこだわり(右)。
仕込みは生酛造り・木桶発酵など伝統的な製法を用いる。伝統への回帰と現代技術の両立が副田さんの酒造りだ(上)。ほとんど精米しないのもこだわり(下)。
Hinohikar FUKUOKA 2025BY どぶろく

Hinohikari
FUKUOKA 2025BY
どぶろく

福岡県産の食用米ヒノヒカリで仕込んだどぶろく。すっきりとした印象ながら、甘味と旨味がしっかりと感じられ、後味にはヒノヒカリ特有のほのかな苦味が現れる。

原料米:福岡県産ヒノヒカリ100%
精米歩合:90%
使用酵母:野生酵母
アルコール度数:13度
価格:500ml 3,080円

Cultiva糸島醸造所

Cultiva糸島醸造所

住所:糸島市加布里5-7-8
TEL:092-600-0455
営業時間:10:00~16:00
定休日:土・日曜日・祝日

価格はすべて税込み

やまのことぶきしゅぞう

山の壽酒造

久留米市

山の壽酒造

チーム制で挑む革新の酒造り

200年以上続いてきた杜氏制を廃止し、社員によるチーム制を導入した革新的な蔵元。
「蔵の未来を考えたとき、スタッフ全員が主体的に学び、考え、行動するためには、情報を平等に共有し、誰もが酒造りの全体像を理解できる環境が必要と感じました」と、8代目の片山郁代さんは語る。旨味とキレを両立した辛口酒をフラッグシップに掲げる一方、「泡沫発酵製法」を独自開発するなど日本酒の多様性も追求している。

山の壽 純米吟醸 山田錦 辛口

山の壽
純米吟醸 山田錦
辛口

「山の壽酒造」の代表銘柄。洋梨やメロンを思わせる穏やかな香りと、口の中に広がるしっかりとした米の旨味を楽しめる。日本刀のようにズバッと切れる後口が特徴の辛口酒。

原料米:福岡県産山田錦100%
精米歩合:59%
使用酵母:非公開
アルコール度数:15度
価格:720ml 1,980円/1,800ml 3,960円

山の壽酒造

山の壽酒造

住所:久留米市北野町乙丸 1・2合併番地
TEL:0942-78-3025

価格はすべて税込み

リブロム クラフトサケブルワリー

LIBROM Craft Sake Brewery

福岡市

LIBROM Craft Sake Brewery

酒の裾野を広げる街中醸造所

醸造責任者の穴見峻平さんは、ドイツへのサッカー留学を経て、新潟の阿部酒造で修業。その後、ワクワクするような酒造りを志し、街中で醸すクラフトサケに挑んだ。日本酒の製法をベースにしたクラフトサケは、食用米「夢つくし」に九州各地の果物やハーブ、ドイツ産のホップなどを掛け合わせた独創的なものばかり。旬の素材を取り入れ、季節を追うように商品がリリースされるのも魅力だ。併設されたPUBでじっくりと味わうのもおすすめ。

FREROM Hallertau Blanc

FREROM Hallertau Blanc
フレロム ハラタウ ブラン

醸造責任者の穴見さんがドイツ留学時代に思いを馳せて開発。白ブドウのような気品ある香りが際立つドイツ産ホップ「ハラタウ・ブラン」を使い、爽やかな飲み口を実現している。

原料米:福岡県産夢つくし(ドイツ産ホップ使用)
精米歩合:92%
使用酵母:非公開
アルコール度数:7~9度
価格:500ml 2,860円

LIBROM Craft Sake Brewery

LIBROM Craft Sake Brewery

住所:福岡市中央区高砂1-21-27ボンフル高砂103
TEL:092-753-9298
営業時間:日~木曜日16:00~23:00、金曜日16:00~24:00、土曜日12:00~24:00(LO各閉店時間15分前)
定休日:不定休

価格はすべて税込み

※2026年11月3日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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