年齢を重ねても楽しめて、一生涯の趣味として育てていける「オーケストラ鑑賞」。
愛知には愛知県芸術劇場のコンサートホールをはじめ、プロによる本格的な演奏を身近に体験できるホールが複数あるなど、恵まれた鑑賞環境が整っている。
今回は、愛知4大オーケストラの活躍によって盛り上がりを見せる、愛知のオーケストラ文化とその魅力、おすすめの楽しみ方を紹介する。
人生をより豊かにしてくれる、オーケストラの世界へのドアをノックしよう。
五感で浴びる、生の音
ホールは贅沢な「非日常」への入り口
愛知のオーケストラ文化を支え、育んできた、愛知県芸術劇場のコンサートホール。
「クラシックは少し敷居が高いかも……」
そんな初心者の方にも、愛知4大オーケストラをはじめとした個性豊かな音楽に出会えるこのホールの扉を開いてほしいと、同劇場支配人の浅野芳夫さん。
今回は、一度体験すると虜になるオーケストラ鑑賞の魅力と、訪れる人々を温かく包み込むホールの価値について話を伺った。

「劇場が鳴る」。その瞬間こそが生の音に触れる最高の体験に
一人ひとりの息遣いが乗った感情豊かな演奏とホール内に響く音の広がりは、録音では味わえない魅力。デジタル時代のいま、ホールで生演奏を体験する意味、そして地域のコンサートホールが担うべき役割について、浅野芳夫さんはこう語る。
「踏み入れた瞬間に圧倒される場のオーラ、張り詰めた緊張感、静けさからダイナミックに変化する音の流れがもたらす高揚感。会場、演奏者、観客が一体となって共鳴し、演奏や拍手によって『劇場が鳴る』。この瞬間こそが、生の演奏を鑑賞する最大の体験価値ではないでしょうか」
この体験を支えるのが、劇場スタッフによる音づくり。オーケストラ専用ホールとして、演奏者と観客が納得できる音の提供に力を注ぐ。
「天井に設置されている音響反射板、この角度を変えるなどの調整を行うことで、音の響きをより効果的に客席へ届けています。音響反射板の設定は各楽団の好みや編成により違うため、それらを理解しベストな環境を整えることによって、私たち劇場スタッフもコンサートを一緒に創り上げる一員としての役割を全うしたいと考えています」
たとえば、コンサートホールの象徴となっているのが、国内最大級を誇るパイプオルガン。迫力ある音色は「録音ではなく生で聴くに限る」と浅野さんは熱弁する。
「相撲や野球もいまは中継で観ることができますが、エネルギーのぶつかり合いを肌で感じられるのは現地に足を運んだ人の特権ですよね。指揮者や演奏者の視線の動きやアンコールでの笑顔など、録音ではわからない、ホールというリアルな場だからこその『気づき』が沢山あるんです。一度足を運んでいただいたら、きっとその魅力をわかっていただけると自信を持ってお伝えしたいです」
人を育て、音楽文化を次世代に継承していくことこそが使命
愛知県に本拠地を置く4つのプロ・オーケストラが一堂に会する「愛知4大オーケストラ・フェスティヴァル」が昨年から始動。その際に浅野さんは、このフェスティヴァルで「地域が一体となってオーケストラを育てる」という地元の方々の意思と、文化的土壌の成熟を強く感じたという。
「名古屋は古くから『芸どころ』と呼ばれる場所ですが、贔屓にする、しないという点においてはシビアな感覚がある土地柄だと思っていたんです。ところがこのフェスティヴァルでは、皆さんすべての楽団へ惜しみない拍手を送られていました。地域に根差すオーケストラへの誇りと希望、地元への愛。そして音楽に全身全霊をかけて向き合う演奏者の方々への称賛と応援の気持ちを感じました」
また、それらの想いはコンサートホールに対しても同じように向けられていると浅野さんはいう。
「公演後のお客さまから『ありがとう』と日々お声をかけていただく中でもひしひしと感じています。その期待に応え続け、次世代へと音楽文化を継承していくこと。それが、オーケストラホールが地元にあり続ける意味だと考えています。初めて訪れていただく方も難しく考える必要はなく、最初は『ちょっとお洒落して行ってみようかな』『公演後にあのお店で食事をしよう』といった自分なりの楽しみを持つことからで十分だと思うんです。私たちはいつでも温かくお迎えする準備をしてお待ちしています」
愛知県芸術劇場支配人 浅野芳夫さん
2014年、公益財団法人愛知県文化振興事業団に舞台技術グループチーフマネージャーとして入社。様々な役職を経て24年7月からは常務理事、愛知県芸術劇場支配人兼劇場運営部長。
全国公立文化施設協会の理事及びコーディネーター等、地域の文化や芸術における審議委員等も務める。
TEL:052-971-5609(10:00~18:00)
愛知県名古屋市東区東桜1-13-2
東山線・名城線栄駅または瀬戸線栄町駅より徒歩約5分
個性で選ぶ
愛知4大オーケストラ
4つのオーケストラには個性があり、その違いを体験する中で、“推し”を見つけることも楽しみ方の一つ。
まずはそれぞれの「音の色」と「得意なスタイル」を知り、あなたの感性に響く楽団を見つけてみよう。
-

セントラル愛知交響楽団
設立:1983年 団員数:50名
得意レパートリー:古典派からロマン派音楽通うほどに知的好奇心が刺激されオーケストラの魅力を深掘りできる
変化に富んだ意欲的なプログラムや角田鋼亮マエストロによるレクチャー講座もあり、「通うほどにオーケストラにもっと触れたくなる」と知的好奇心を刺激されるファンが続々。年7回の定期演奏会は、クラシック音楽の特徴や歴史的な変遷を物語として体感できるよう「国」「作曲家」などの年間テーマが設けられており、連続して鑑賞する中で自然と理解が深まり、音楽的素養が身につくと好評だ。看板公演の一つ「超!有名曲シリーズ」では、誰もが一度は耳にしたことがある名曲をたっぷり演奏。入門編から段階を踏みながら、オーケストラ鑑賞の自分なりの楽しみ方を見つけられる。
-

名古屋フィルハーモニー交響楽団
設立:1966年 団員数:66名
得意レパートリー:古典派から現代作品まで世界に羽ばたく日本人作曲家や過去・未来をつなぐ音楽と出会える
創立60周年を迎えても進化を続け、東海地方の音楽界をリードする、名フィルの愛称で親しまれる歴史ある楽団。伝統を守ると同時に「新しいレガシーとなる現代音楽を広めるのも自分達の使命」と宣言し、新進気鋭の日本人作曲家・冷水乃栄流(ひやみずのえる)さんが5代目となる専属作曲家として就任。委嘱新作の世界初演が、来年3月の定期演奏会で予定されている。演奏者のリーダーとして指揮者の意図を伝える役割を担うコンサートマスターが4名在籍し、各人のキャラクターを生かした個性あふれる音づくりも名フィルの魅力であり、公演ごとに聴き比べてみるのも面白い。
-

愛知室内オーケストラ
設立:2002年 団員数:38名
得意レパートリー:古典派・初期ロマン派・現代オーケストラの原点である小編成で“推し”の楽しみ方を教えてくれる
愛知県立芸術大学出身の若手演奏家を中心にした、東海地域唯一のプロ室内オーケストラ。同じアイデンティティーで育った、団員同士のコミュニケーション密度の高さから生まれる息の合ったアンサンブルはまさに一級品。1900年代以前に主流だった小編成を得意とし、古典派の魅力を伝える繊細で親密な響きを持つ演奏は、オーケストラの原点を知るに相応しい。「推せるオーケストラ」を目標にファンとの交流にも力を入れ、指揮者や団員を囲む会員限定のファンミーティングを企画。舞台の裏話を届けるポッドキャストを配信するなど、内側を知るほどに応援したくなる距離感の近さも魅力だ。
-

中部フィルハーモニー交響楽団
設立:2000年 団員数:42名
得意レパートリー:古典派からポップスまで伝統や型にはまらない自分らしい音楽鑑賞のスタイルが見つかる
今年4月、人気指揮者・藤岡幸夫さんが芸術顧問に就任。軽快なトークを交えながら作品の魅力や聴きどころを紹介するスタイルは「初めてでも楽しめる」と好評。来年はオペラ「椿姫」の全編公演の予定もあり、新しい挑戦の数々を一緒になって楽しめるのも、同楽団の体験価値と言えるだろう。また、敷居が高いと思われがちなオーケストラを気軽で身近な楽しみとして多くの人に届ける、映画音楽に特化した「Chubuフィルム・サウンズ・オーケストラ」を主宰。彩り豊かなサウンドは映画のワンシーンが目の前で再生されているかのように臨場感満載で、感動と心地いい刺激を与えてくれる。

見つけて、楽しみ、育てる
大人のためのオーケストラ鑑賞STEP
コンサートホールでの特別な体験は、公演を選び、チケットを手にしたその瞬間から始まっている。
当日を迎える準備から、ホールでの楽しみ方、次回公演に向けての過ごし方まで。オーケストラ初心者の方のための鑑賞STEPを紹介する。
-
気になる公演・席を選ぶ
初めてのオーケストラ体験なら、誰もが一度は耳にしたことがある有名曲が演奏される公演がおすすめ。4時間以上に及ぶこともあるオペラよりも、2時間前後で完結する「定期演奏会」や「名曲コンサート」が鑑賞しやすい。音のまとまりを楽しみたいなら2階席正面、演奏者の表情や指先の動きを間近に感じたいなら1階席、ステージ全体を俯瞰したいなら3階席を選んでみるのがよい。数回通って聴き比べてみよう。
-
下調べをして
高揚した気分で当日を待つ公演当日までに「どんな音楽に出会えるか」と想像したり、演奏曲のエピソードや作曲家について調べたりする時間こそが、期待感をよりいっそう高めるスパイスになる。楽団のWebサイトで当日のプログラムの聴きどころを予習して臨むのもいいだろう。特別な一日をより充実したものにするべく、ホール近くのカフェや食事をするレストランのリサーチをして、コンサート前後のお楽しみも増やしておこう。
-
コンサートホールでの
時間を楽しむコンサートホールは「音を鳴らす」もう一つの楽器。空間内に響く豊かな音色を全身で感じられるのが生演奏の醍醐味だ。気になる拍手のタイミングは、演奏が終わって指揮棒や楽器が下ろされた後、余韻を聴き届けてからがマナー。服装は基本的には自由なため、かしこまり過ぎず、スマートカジュアルを意識すればいいだろう。開演前にはプレトークが行われることが多いため、時間に余裕を持って着席を。
-
「新しい発見」や
「好き」を持ち帰る「あの楽器の音が好き」「この曲が印象に残った」と気づきを持つことが、「次はヴァイオリンソロのある公演に行きたい」「同じ作曲家の違った曲を聴こう」といったさらなるアクションにつながる。気に入った曲や感想をメモしておくと、次回の公演を選ぶ際に役に立つだろう。一回の経験で終わらせず新たな公演に足を運び、自分なりの楽しみ方を見つけて「好き」を育てる時間は、人生をより豊かに彩ってくれるはずだ。

もっと楽しむための +1STEP
-
定期演奏会4公演をお得に楽しみ、世界を広げる
名フィル定期会員「プレ体験券」何度か続けて聴くことで、楽団ごとの個性や演奏の違いが少しずつ見えてくるのもオーケストラ鑑賞の醍醐味。名古屋フィルハーモニー交響楽団では、4公演を気軽に体験できる「プレ体験券」を用意しており、普段なら選ばないような作品との出会いも楽しめる。お気に入りの楽曲や作曲家を見つけるきっかけとして活用したい。
©Tomoko Hidaki

音楽監督・川瀬賢太郎
-
定期演奏会がより充実したひとときになる
音楽監督によるレクチャー講座演奏前に少し作品に触れておくだけでも、聴こえ方は大きく変わる。セントラル愛知交響楽団では、定期演奏会の前に、音楽監督・角田さんによるレクチャー講座を開催。作曲家の意図や曲の構成を知ってから演奏を聴くことで、「ここに注目して聴いてみよう」という楽しみが生まれ、演奏会がより充実した時間になる。


あなたに合う公演がきっと見つかる
この秋冬のおすすめ公演
-
まずは一度、体験してみたい方へ
中部フィルハーモニー交響楽団
「第107回定期演奏会 NAGOYAシリーズ②新たな始まり」
開演前のプレトークでは指揮者の藤岡さんによる軽快な解説が織り交ぜられ、初めてオーケストラに触れる方でも気軽に楽しめる。地元作曲家委嘱プロジェクト第一弾、大畑眞「Still Drive」の世界初演、愛知県出身のピアニスト阪田知樹さんの演奏など、”今の中部フィル”を象徴する聴きどころが詰まった一夜だ。
©Shin Yamagishi

指揮:藤岡幸夫
愛知県芸術劇場コンサートホール 【WEB購入】セレクトプラチナ席¥7,000 /プラチナ席¥6,000 /S席¥5,000 / A席¥4,000 /B席¥3,000 /U25 ¥1,500(S、A、B席のみ)※未就学児入場不可 TEL:0568-43-4333
-
名曲を心ゆくまで楽しみたい方へ
セントラル愛知交響楽団
「超!有名曲シリーズVol.15」
同楽団のファンになるきっかけが「超!有名曲シリーズ」だという声が多い大人気公演。15回目となる今回は「フィガロの結婚」など長尺なオペラの序曲だけを9曲集め、その醍醐味を一つのプログラムに凝縮。有名オペラの世界観をダイジェストとして楽しみながら、オーケストラの多彩な魅力を味わえる。

愛知県芸術劇場コンサートホール S席¥6,000(ペア券¥8,400)/A席¥5,000(ペア券¥7,000)/B席¥4,000/C席¥3,000 /U25各席半額(ペア席対象外)※ペア席は前売のみ、数量限定。位置指定あり ※未就学児入場不可 TEL:052-581-3851
-
家族と本物の音楽に触れたい方へ
名古屋フィルハーモニー交響楽団
「第11回こども名曲コンサート オーケストラが奏でる『驚き』」
「子どもの純粋な心で、初めてのクラシック音楽を体験してほしい」をコンセプトに、音楽監督・川瀬さんがプロデュースする特別演奏会。川瀬さんによる楽しい演出も魅力となっており、子どもの感性を育み、親子で楽しい時間を共有できるほか、大人にとってもクラシックの面白さを再発見できる一日になる。

Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール 1,2階席¥3,500 /3,4階席¥2,500 /5歳以上25歳以下 全席一律¥1,000 ※5歳から入場可 TEL:052-339-5666
-
クラシックをじっくり味わいたい方へ
愛知室内オーケストラ
「第104回定期演奏会」
かつて主流だった小編成の室内オーケストラ楽団による定期演奏会。第19回ショパン国際ピアノ・コンクール(2025) 第4位入賞の桑原志織さんをソリストに迎え、若きショパンの名曲「ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21」を披露。ピアノと木管楽器の色彩豊かな響きは、大編成とは異なるクラシック本来の魅力を感じさせてくれる。
©Claudia Hershner

指揮:原田慶太楼 ピアノ:桑原志織
愛知県芸術劇場コンサートホール SS席¥8,000 /S席¥5,000 /A席¥4,000 /B席¥3,000 /S席(U25券)¥2,500/A席(U25券)¥2,000 /B席(U25券)¥1,500 /小中学生券(S ~B席)¥500 ※未就学児入場不可 TEL:052-211-9895

創立100年を迎える「NHK交響楽団」
2027年3月、日本最高峰の響きが愛知へ
国内最高峰のオーケストラに触れられるまたとない機会となる「NHK交響楽団」の公演を愛知県芸術劇場主催で3月に開催。2027年のベートーヴェン・イヤー(没後200年)にちなみ、「交響曲 第7番 イ長調 作品92」など、N響が得意とするドイツ音楽プログラムをお届けする。


2027年3月21日(日・祝) 開演 15:00 愛知県芸術劇場コンサートホール SSプレミアム席¥15,000 /SS席¥13,000 /S席¥10,000 ほか 主催・お問合せ: 愛知県芸術劇場 TEL:052-211-7552
