職人技によって生み出される 美しい鋳肌が伝統品質の証
Photographs_HIDE NOGATA.
日本はもとより世界中から注目される伝統工芸品として揺るぎない地位を確立してきた「南部鉄器」。鋳物ならではの質感と美しさ、風合いから生まれる温かみ、何より陶器や磁器などと比べて丈夫なのが魅力だ。もちろん、調理器具としての評価も高い。熱伝導率が良いため加熱から沸騰までが早いだけでなく、保温性にも優れており熱を均一に伝えることができる。鉄の重さや錆びる性質を懸念する人もいるだろうが、丁寧に扱えば100年は使えると言われている。
そんな南部鉄器を、約160年作り続けてきたのが「及源鋳造」だ。及源鋳造の工房は、南部鉄器の一大産地、岩手県水沢にある。実は、岩手県の中でも産地は盛岡と水沢の2つに分かれる。茶道具や贈答品など、美術工芸品としての色が強い盛岡と、鍋や釜といった民衆向けの生活必需品の製造で発展してきた水沢。及源鋳造はこの水沢の地で、先代から受け継がれてきた職人技を駆使しながら暮らしに寄り添う道具を製造している。及源鋳造が誇る伝統品質の証、そのすべては“美しい鋳肌”で決まるのだと言う。鉄の表面に細かなデザインが施された砂型をそのまま映し出すことは、熟練の職人でも難しく、最後の一瞬まで技量がためされる。いかに型通りになるか、鋳肌の出来の良さこそが伝統品質の証なのだ。
この「鉄瓶 三笠形アラレ」も鋳肌の美しさが認められた逸品。アラレ文様が規則的に施された、及源鋳造の中でも人気の鉄瓶なのだが、ただ文様を並べているだけはない。アラレ文様は先人の知恵から生まれた文様で、表面積を増やし保温性を高めることから今や南部鉄器の定番となっている。もはや先人の知恵の塊とも言える南部鉄器は、鉄瓶で湯を沸かすだけで美味しい。鉄分が湯に溶け出すことでまろやかな口あたりになり、自然と鉄分補給もできてしまうことに感動すら覚える。
一見無愛敬にも見える南部鉄器だが、秀逸すぎて使うほどに愛おしさが増し、自分だけの道具として格別なものとなるに違いない。