「えちごトキめきリゾート雪月花」でゆく春の越後路
列車の旅はとことん楽しい
かつて、戦国の世を駆け抜けた名将・上杉謙信公のふるさととして知られる越後の国。謙信公の居城があった上越市、温泉地と妙高山を望む高原リゾートで知られる妙高市、ヒスイの産地・糸魚川市。栄華を極めた謙信公の面影を色濃く残すこの地には、趣ある町並みや越後の大地が育む雄大な自然が残り、旅人たちをもてなしている。
3市をめぐる旅を優雅に演出してくれる主役が、2016年4月に誕生した『えちごトキめきリゾート雪月花』。新幹線で13分で走破するところを、約3時間をかけてのんびり走る。時に荒々しく、時に豊かな恵みをもたらす日本海の絶景、越後富士と称される妙高の雄大な山並み。開放感溢れる大きな車窓から、海と山が迫る迫力あるパノラマを望む。日々時間に追われている現代だからこそ、のんびり楽しみたいリゾート列車の旅。『えちごトキめきリゾート雪月花』の旅へ、いざ、出発進行!
ようこそ!えちごトキめきリゾート雪月花へ
食事のレベルの高さに定評がある雪月花。スターシェフ、そして地元の老舗が織り成す越後の食材が生むハーモニーを召し上がれ。
軽やかなエンジン音と共に雪月花の旅がスタート
東京駅から北陸新幹線で約2時間。上越妙高駅に降り立ち、ホームへ向かう。期待を膨らませていると、遠くからゆっくりと入線して来る銀朱色の列車が! 曲線美を描く車体、桜や雪の結晶が描かれた意匠、所々に配された金の装飾。まさにリゾート列車といった豪華な趣だ。早速車内へ足を踏み入れると、目の前がすべて窓! といっていいほど大きな車窓が広がる。国内最大級の大きさを誇る車窓だとか。興奮冷めやらぬ中、列車はゆっくりと走り出した。
雪月花の旅は、途中下車がとにかく楽しい!
上越妙高駅を出発し、真っ先に目に入ってくるのが、妙高連峰の美しい稜線。初春に残雪が形作る「妙高の跳ね馬」が、上越の春の訪れを知らせてくれる。
第一の目的地である二本木駅の目玉は、スイッチバッグ。現役で残っているものは全国でも稀だ。明治の開業当時を模した昔懐かしい木造駅舎、今でも自動改札は使わず手動で切符切りをする駅員の姿など、一気にノスタルジックな空間に引き込まれる。二本木駅から妙高高原駅に広がる新潟らしい田園風景に見とれていると、「左手をご覧ください」と車掌からアナウンス。鉄橋の先には珍しい形をした逆オメガの棚田が。四季折々、朝昼晩と様々な顔を見せてくれる里山の風景は絵画のようだ。
列車を走らせ、さらにゆく。道中、日本百名城「春日山城跡」が現れる。難攻不落な天下の名城と言わしめた城跡には、現在も空堀や土塁などが数多く残り、その威光を今に伝える。次の途中下車は、新潟県鉄道発祥の地直江津駅、日本一長い雁木通りや寺院が点在する寺町を有する高田駅(高田駅の下車は冬期運行のみ)。ここから名立駅の間は、車窓に広がる日本海の景色が見もの。漁師の姿が見えるほど海岸線に近い場所を走る、雪月花だけに許された特別な景色。
大人を夢中にさせる列車の旅はまだまだ終わらない。続く名立駅から能生駅は、この旅いちばんの桜の名所。線路沿いの桜並木の桜が咲き誇る中を走る雪月花は豪華絢爛。見事なものだ。そして糸魚川駅到着までの最後の駅、筒石駅がまたユニーク。ここは全国的にも珍しいトンネルの中に駅舎ホームがある駅。改札まで約300段の階段を昇らないと辿り着けないのだとか! にも関わらず、筒石駅の駅員がわざわざホームに出て手を振ってくれた。
そうこうしているうちに、終点糸魚川駅が近づいてきた。約3時間のあっという間の旅であった。
雪月花の車内を覗いてみよう
2両編成で運行される列車は、1号車は日本海側と妙高山側を向くラウンジ形式、2号車はゆったりとしたレストラン・カー形式とそれぞれ趣が違い、何度乗っても新鮮な発見がある。リピーターが多いというのも納得だ。
こんにちは!人々との出会いこそ、旅の醍醐味だ
食事のレベルの高さに定評がある雪月花。スターシェフ、そして地元の老舗が織り成す越後の食材が生むハーモニーを召し上がれ。
旅先での出会いも楽しいリゾート列車の旅
降り立った先での地元の人とのふれあい。偶然隣り合わせた乗客との愉快な会話。車内での滞在を快適にしてくれるクルー。人々との出会いこそ、雪月花でしか味わえない旅の醍醐味だ。
雪月花の旅の魅力は、途中下車駅での地元の人のおもてなし。二本木駅では「おもてなし隊」による横断幕やマルシェのお出迎え。妙高高原駅では車掌がガイド役になっての買い物。直江津駅では昔ながらの駅弁の立ち売り。そして雪月花の裏名物が、元落語研究会だった車掌の車内アナウンスだ。『運転し亭越後屋』こと専属車掌の樋浦重一氏が、洒落のきいたアナウンスで旅情を盛り上げてくれる。名所に近づけば、「いつもよりゆっくりと走っております〜」と、どこかで聞いたような言い回しでの案内に、思わず吹き出してしまう。これを聞くだけでも、雪月花に乗った価値があるかもしれない。
春のレジャーの予定はこれから計画、という皆さんにぜひ勧めたい雪月花の旅。四季明瞭な上越地方の折々の美しい風景を愛で、地元の旬の食材を使った食事を堪能、そして心温まる人々との出会い。満開の桜の中をゆく雪月花は、きっと格別なことだろう。
『えちごトキめきリゾート雪月花』。今日も越後の大地を誇らしげに走っている。
旅の楽しみが膨らむ車内食
食事のレベルの高さに定評がある雪月花。スターシェフ、そして地元の老舗が織り成す越後の食材が生むハーモニーを召し上がれ。
雪月花のもう一つの魅力が、車内でいただく食事だ。上越妙高駅発の午前便は、新潟県十日町市出身の、星付きレストラン六本木「Ryuzu」のオーナーシェフ、飯塚隆太氏が監修。妙高名物「かんずり」をサンドイッチのソースに使うなど、新潟食材が飯塚シェフの技で華麗なフレンチに。まさかこれほどに完成度の高い食事を車内でいただけるとは思えないほどの旨さだ。
また糸魚川駅発の午後便は、糸魚川の老舗「割烹鶴来家」五代目青木孝夫氏が監修・調理した新潟の贅を尽くした三段重。こちらもなかなか。
PROFILE
シェフ
飯塚隆太
1968年、新潟県十日町市生まれ。第一ホテル東京ベイ、ホテルザ・マンハッタンなどを経て、94年タイユバン・ロブションの部門シェフに。その後渡仏し、二つ星や三ツ星レストランで修行し、帰国。05年に「ラトリエ・デゥジョエル・ロブション」シェフに就任。11年自らオーナーとなるレストラン「Ryuzu」を六本木に開く。