コロナ禍は社会生活に大きな変化をもたらし、新しい生活様式もすっかり定着した。 しかし、「以前に較べ、仕事の効率が落ちた」、「やる気はあるのにパフォーマンスが上がらない」、さらには不眠、頭痛、胃腸の不調など、原因の分からない症状を抱えるビジネスパーソンが増えているそうだ。これらの原因、実は自律神経の乱れによるものかもしれない。
ではなぜ、自律神経は乱れるのか。そもそも自律神経とはどのような働きをするものなのか。改めて、自律神経について正しく理解し、乱れの解消法を学ぶことで、活力にあふれる毎日を再び取り戻そう。
自律神経の働きとは? 乱れるとはどういうこと?
「最近は以前にも増して、はっきりとした原因がわからない不調を訴える人が増えています。
その多くは、さまざまなストレスによって生じた自律神経の乱れによるものと考えられます」。
そう語るのは、せたがや内科・神経内科クリニックの久手堅先生。
まずは、自律神経の仕組みや、乱れてしまう原因を知り、自身の状態をチェックしてみよう。
PROFILE
せたがや内科・神経内科クリニック院長
久手堅 司(くでけん つかさ)先生
医学博士。日本内科学会・総合内科専門医、日本神経学会・神経内科専門医、日本頭痛学会・頭痛専門医、日本脳卒中学会・脳卒中専門医。東邦大学医学部卒業。2013年にクリニックを開業し、「自律神経失調症」、「気象病・天気病」など多数の特殊外来を設置。原因がわかりにくい不調の診療にあたる。雑誌やテレビ番組などメディアに多数出演するほか、講演などでも活躍中。
久手堅先生の著書
『最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方』
(クロスメディア・パブリッシング)
『毎日がラクになる! 自律神経が整う本』(監修)(宝島社)
交感神経と副交感神経がバランスよく働くことが大事
自律神経とは、気温や湿度などの状況に合わせて、内臓や代謝、体温といった身体の機能を24時間体制でコントロールする神経のこと。心身の活動が活発なときに優位に働く「交感神経」と、心身がリラックスした状態のときに優位に働く「副交感神経」が、状況に応じてシーソーのようにバランスを取りながら働いている。
「大切なのは、交感神経と副交感神経のバランスに大きな乱れがなく、必要な時にスムーズに切り替わることです。しかし、自律神経はストレスの影響を受けやすく、精神的なストレスや疲労、寝不足などの身体的ストレス、気圧や気温の変動による環境的なストレスなどによってバランスを崩しがちです。とくに現代のビジネスパーソンは、長時間のパソコン使用や、帰宅後も寝る間際までスマホが手放せないなど、交感神経優位になっている時間が長く、自律神経のバランスが乱れやすい状態にあるといえます」と久手堅先生。
また、自律神経は脳の視床下部から始まり、脊椎(背骨)の中の脊髄を通り全身の各器官につながっている。そのため、骨格にゆがみが生じると脊髄が圧迫され、自律神経の働きを妨げることになるので、日ごろの姿勢も注意が必要だという。
「本人は大丈夫なつもりでも小さなストレスが積み重なり、一気に自律神経が乱れ、不調が現れることもあります。そうした自律神経の乱れによる不調は原因が特定しにくく、薬や手術で治るものではありません。自律神経の乱れを放置すれば、自律神経自体の老化を早めることにもなります」
自律神経の乱れを慢性化させず、早めに手を打つためにも、まずは自律神経が乱れやすい状態になっていないか、セルフチェックをしてみよう。
交感神経と副交感神経の働き
交感神経(アクセルの役割)
身体と心が「興奮モード」のときにスイッチオン
日中、興奮したとき、驚いたとき、ストレスを強く感じたとき、緊張したとき、不安や危険、恐怖を感じたとき
副交感神経(ブレーキの役割)
身体と心が「お休みモード」のときにスイッチオン
日暮れ以降、眠っているとき、のんびりリラックスしているとき、食後にゆったりしているとき、癒しを感じたとき
常にバランスが保たれていることが重要
こんな習慣に要注意! 自律神経を乱す生活習慣
1. パソコンやスマホを長時間見ている
2. デスクワークが多い(座ったまま、動かない時間が長い)
3. 運動をする習慣がない
4. 一日中カフェイン(コーヒー、紅茶、エナジードリンクなど)を摂取している
5. 生活が不規則(昼夜逆転生活)
6. 週末に寝だめをしている
7. 寝る直前に夕食をとることが多い
8. 仕事で完璧を目指しがち、責任感が強い
9. ストレスに弱い、常にストレスにさらされている
10. 最近、人事異動や転勤、転職などで環境が変化した
普段の姿勢や表情でわかる自律神経の状態
まっすぐ立って姿勢をチェック
1. 身体の中心軸が左右、あるいは前後に傾いている
2. 首が前に出て、猫背や反り腰になっている
イスに座った姿勢をチェック
3. 首が前に出て、猫背や反り腰になっている
4. 浅く腰かけて背もたれに寄りかかっている
動作のチェック
5. 座った状態から立ちあがるときに、ふらついたり力んだりしがち
6. 歩き始めの2~3歩でふらついたり力んだりしがち
表情のチェック
7. 唇をひき結んだり、歯を食いしばったりしがち
8. 頬の筋肉がこわばっていて、表情が硬い
当てはまる項目が多い人ほど自律神経が乱れやすい
生活習慣チェック1の1、2に該当する人は、目と頭だけを使っていて、常に交感神経が優位な状態。姿勢も悪くなりやすく、血流が滞りがちに。
3の場合は、通勤時に長めに歩くなどして、意識的に活動時間をつくりバランスを取りたい。
4のカフェイン摂取も交感神経優位な状態になるので、摂り過ぎには注意が必要だ。
5、6は、日中に交感神経が活発になり、夜になると副交感神経に切り替わるという自然なサイクルが乱れてしまう。
7は、睡眠の質を下げ、自律神経に悪影響を及ぼすことになる。
8、9、10は、継続的なストレスやプレッシャー、変化への対応による緊張状態によって、自律神経の乱れに繋がりやすくなってしまう。
姿勢・表情チェック2の1〜4の状態は、呼吸が浅くなり、体内に十分な酸素が行き渡らず自律神経が乱れ、脳も酸欠状態になり、仕事効率が悪くなる。
5、6に該当する人も、骨格のゆがみが生じ、身体の軸がブレている可能性がある。
7、8は、自分では意識していなくてもストレス過多の状態といえる。耳を軽く引っ張ったり揉んだりすると血行がよくなり緊張がほぐれるので、気が付いたときにやってみよう。
デスクワーク時は、こんな姿勢に要注意!
首が前に出て、骨盤が前傾している反り腰
前かがみになり首が前に出ている猫背
背もたれに寄りかかり骨盤が後傾し、首が前に出ている猫背。
いずれも注意が必要だ。
気付いたときに、超簡単! 自律神経メンテナンス
「自律神経を整えることが大切だとはわかっていても、面倒なことは無理」というビジネスパーソンのために、普段の生活の中で、ちょっとした心がけでできるメンテナンス法を紹介しよう。
・イライラしたらあえて笑顔に
イライラしている、機嫌が悪いと感じたら、あえて口角を上げて笑顔をつくってみよう。深呼吸を組み合わせるのも効果的だ。
・完璧を目指さない、責任を背負い込まない
「今日はここまで」、「これは自分の仕事ではない」という割り切りもときには必要。気持ちの切り替えを行おう。
・他者に求めすぎない、他者と比較しない
「自分はこんなに頑張っているのに」とか、「あの人はこんなに評価されているのに」などと思ってストレスを溜め込むより、人は人、自分のやるべきことをやればいい、と割り切ることが大切。
・緊張しているときはガムを噛む
咀嚼には副交感神経の働きを高め、心を落ち着かせる効果があることが知られている。緊張したり、気持ちが昂ったりしているときはガムを噛んでリラックス。
・食べる順に注意
ご飯やパンなどの糖質(炭水化物)は重要なエネルギー源だが、摂りすぎると血糖値が急激に変動し、自律神経のバランスに影響する。サラダや野菜のおかず、汁物、肉や魚などのたんぱく質、最後にご飯という順番を心がけ、血糖値の急変動を抑えよう。
・ゆっくり食べる
仕事の合間に急いでよく噛まずに食べたり、仕事をしながらサンドイッチやおにぎりなどで簡単に済ませたりしている人は、食事時間をきちんと確保することから始めたい。
・おやつには高カカオチョコ+ナッツ
甘いものが食べたくなったら、ポリフェノールを多く含むカカオ70%以上のチョコレートと、自律神経を老化から守るビタミンEが豊富なナッツ類との組み合わせがおすすめ。
・デザートに食物繊維が豊富なドライフルーツ
ドライフルーツ(干し柿、イチジク、アンズ、プルーンなど)は甘味が凝縮されていて少量でも満足感がある。
・起床したら朝日を浴びる
朝日を浴びることが副交感神経から交感神経に切り替わるスイッチになり、夜になると睡眠ホルモンの分泌を促し、寝つきをよくしてくれる。
・湯船につかる
忙しかった一日の終わりくらい、ゆっくり湯船につかる時間をつくりたい。湯温は38~40度のぬるめで、寝る2時間くらい前までに入浴を済ませるのが理想だ。
・涙活してみる
涙を流すことで、自律神経は交感神経優位の状態から、副交感神経優位に切り替わる。涙活は手軽で効果も絶大で、涙一粒で1週間程度はストレス解消効果が持続するというデータもある。かつて感動した映画や漫画を見返して、思い切り涙を流してみよう。
・好きなことに集中する
仕事や心配ごとなどのストレスから解放される時間をつくることが大事。長続きさせる必要はないので、関心のあることにトライしよう。パソコンやスマホを使わずにできることがいい。
呼吸を意識して自律神経の切り替え上手に!
自律神経は本人の意思とは無関係に働くものだが、唯一、意識的に交感神経と副交感神経の切り替えができるのが呼吸だ。前かがみになると肺が圧迫され、呼吸が浅くなる。浅い呼吸をしている時は交感神経が優位になり、逆に、深くゆっくりした呼吸をしているときは副交感神経が優位になるので、呼吸を意識することで自律神経のスイッチの切り替えができる。
仕事の合間に行うことで心身の疲労回復に役立つのが「基本の3・5・5呼吸法」と、「背骨伸ばし」だ。ずっと机に向かって同じ姿勢のままでいると血流が滞り、首や肩のこり、腰痛などの原因にもなる。こわばった身体をほぐすためにも、座ったままの深呼吸に加えて、立ち上がって全身にアプローチすることが有効だ。息を吸うときに交感神経が優位になり、吐くときに副交感神経が優位になるので、吐く方を意識しながらやってみよう。1~2時間に1回程度の休憩をはさむと集中力も増し、仕事の効率もアップする。
また、「上向き呼吸法」 は、車の運転中に渋滞に巻きこまれた際のイライラなどを落ち着ける効果も期待できるので、覚えておくといい。
自律神経の調整は「7割」でも十分と考える
ここで紹介したことをすべてやろうと思う必要はない。自律神経の整え方は人それぞれなので、できそうなものを試してみて、少しでも効果が感じられるものを続けていけばいい。自律神経は7割整っていれば十分働いてくれるので、日ごろのメンテナンスもゆる~く、できる範囲でやっていこう。
「基本の3・5・5呼吸法」で骨格リセット
[1] 骨盤を立たせ、まっすぐ正面を向いてイスに腰かけ、肋骨の下に手を添えて、3秒かけて口から息を吐く。
[2] 肺を膨らませ、肋骨と横隔膜を押し上げるイメージで、5秒かけて鼻から息を吸う。
[3] 肋骨と横隔膜を押し下げることをイメージしながら、5秒かけて口から息を吐く
動悸やイライラ改善に効く「上向き呼吸法」
[1] 鎖骨の下に両手を添えて、下に軽く引く。
[2] 首を30~45度後ろに傾け、3秒かけて鼻から息を吸い、3秒止める。
[3] 6秒かけて口から息を吐く。
肩、背中、腰のこわばりをほぐす「背骨伸ばし」
[1] 姿勢を正して立つ(壁に沿って立ったときに、後頭部、肩甲骨、お尻、かかとを壁につけて、壁と腰の間に指1本分の隙間が空くくらいのイメージで立つ)。
[2] 第一頸椎(首の一番上の骨)から、第二、第三と順番に曲げていくイメージで、首からゆっくり上半身を前に倒していく。(背骨も上から順に倒していくイメージで
[3] 肩や腕の力を抜き、身体を倒し切った状態でかかとに重心を移して約60秒間キープ。軽く息を吐きながら、背骨をひとつずつ積み立てていくイメージで、ゆっくり身体を起こす。