生命をがんから守るには早期発見がなによりも重要なため、定期的な検診は不可欠だろう。しかしその受診率は50%程度と高くないのが現状だ。
そこで今回の特集では改めて、がんについての現状と、今受けられるがん検査についてまとめてみた。
自身の生命を守る大切な情報として、ご覧いただきたい。
Edit&Word_NOBUYUKI YAMAHA.
MIDORI SHIMOKOSHI. IKUMI UENO(effect).
死亡原因1位の「がん」は、早期発見が最重要
PROFILE
監修:大亀 浩久先生(医師・医学博士)
日本外科学会専門医・指導医、がん治療認定医、消化器がん外科治療認定医ほか、複数の学会に所属し精力的に活動を続ける。2019年よりがん免疫治療を取り入れたがん治療ならびにがん再発予防に取り組む。2022年4月、ザ・ペニンシュラ東京4階にオープンした会員制プレミアム人間ドック「THE PREVENTION CLINIC TOKYO」院長に就任。最先端の検査環境を整え、ホテルと連携したプランなども提供している。
がん細胞の進化はほぼ無限。定期的な検診が必須
厚生労働省が2019年に発表したデータによると、日本人ががんになる確率は男性が65.5%、女性が51.2%となっており、2人に1人以上は一生のうちに何らかのがんにかかるという調査結果が出ている。そしてそのうちの3人に1人はがんで死亡するといわれており、1981年以降は日本における死亡原因の第1位となっている。食生活の見直しや禁煙、運動不足の解消、適正体重の維持などが予防法としては知られているが、現状、がんを完全に防ぐことは困難といえる。
今年4月には、イギリスのがん研究団体であるキャンサー・リサーチUKが肺がんを9年間に渡って追跡し、「がん細胞の進化や生存能力はほぼ無限で、がんの万能薬の開発は非常に難しい」と公表したことが報じられた。同団体は予防、がんの早期発見に注力すべきだと伝えている。
しかしこれほど身近な病気でありながら、日本では定期的にがん検診を受けている人は多くない。国が推奨していることから検査費用のほとんどが公費でまかなわれる5大がん(胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がん)でさえ、その検診受診率は50%程度にとどまっているのが現状だ。
国が2019年に調査したがん検診を受けない理由では、「受ける時間がないから」、「費用がかかり経済的にも負担になるから」など、忙しさや経済面の理由により諦めている人が多い一方で、「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」と自分の体調を楽観視している人も少なくない。しかし、膵臓がんや肝臓がん、胃がんなどのように、ほとんど初期症状を伴わないがんも多いため、いくら健康に思えても、無関係とは言い切れないのだ。
がんの治療では、早期発見、早期治療を行うほど生存率があがることが実証されている。がん検診を定期的に受診し、できるだけ早く対策すること。それが、がんから身を守る大きな一歩となるのだ。
●がん検診を受けない理由
胸や胃のレントゲン撮影やマンモグラフィ撮影などによるがん検診を「2年より前に受診
した」、「今までがん検診を受けたことがない」と答えた者に、複数回答
出典:内閣府「令和元年度 がん対策・たばこ対策に関する世論調査」
生涯でがんになる確率は男女ともに50%超え
国立がん研究センターは「累積がん罹患リスク」、つまりある年齢までにがんに罹患するおおよその確率を発表している。生涯でがんになる確率を表した2019年の「累積がん罹患リスク」は、男性が65.5%、女性が51.2%となっており、男性の方が罹患率が高い。また罹患率の高いがんを部位別に見ていくと男性では前立腺がん(11.0%)、大腸がん(10.3%)、胃がん、肺がん(ともに10.0%)、女性の場合は乳がん(11.2%)、大腸がん(8.1%)、肺がん(5.0%)という結果に。大腸がんは男女どちらも罹患リスクが高いが、初期段階では症状を伴わないことも多いので、定期的に検診を受けることが重要だ。
●累積がん罹患リスク
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)、
2019年データに基づく
男性の肺がん死亡率が突出して高い傾向に
1年間で人口10万人に対して、何人が死亡するかを国立がん研究センターが調査した部位別のがん死亡率。この調査結果を見るともっとも死亡率が高いのは、男性では肺がん(89.3%)、女性は大腸がん(38.6%)となっており、男性の肺がんの死亡率が突出して高いことが分かる。また罹患するリスクの高いがんと、死亡原因になりやすいがんは異る点にも注目したい。特に注意が必要なのが膵臓がんだ。累積罹患率では男女ともに2%前後と低いが、自覚症状がほとんどないまま静かに進行することからサイレントキラーとも呼ばれ、死亡率では男性で4位、女性は3位となっている。検診を受けるなどし、気を付けたい。
●部位別がん死亡率
出典:国立研究開発法人国立がん研究センター「全国がん登録罹患データ(2021年)」
検診受診に対する意識の低さが露呈
国は罹患率や死亡率の高い胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんの5つのがんに対して、定期的にがん検診を受けることを推奨しており、その検査費用の大半は公費でまかなわれる。その検診受診率の推移が下図の通りだ。2019年のデータを見ると、男性の肺がん検診受診率を除くと50%を下回っているのが現状で、がん検診に対する意識の低さがうかがえる。
●男女別がん検診受診率(40~69歳)
*過去1年間の受診有無
**過去2年間の受診有無
出典:公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計2022(2019年データに基づく)」
早期発見されるほど生存率は大幅アップ
がんにはステージと呼ばれる、進行度を判定する基準がある。がんの大きさ、広がり、深さに加え、リンパ節への転移状況、ほかの臓器への遠隔転移の状況などと総合し、進行度を判定。Ⅰ期〜Ⅳ期に分かれ、数字が大きくなるほどステージが高い。そのステージと10年後の生存率を表したのが下図。ステージが低いほど生存率は高くなるため、早期発見ががん治療の鍵に。
●がんの10年相対生存率
出典:国立研究開発法人国立がん研究センター「がんの10年相対生存率
(2021年11月10日更新)」より作図
がんを早期発見する最新検査
【画像や映像でがんを発見】
高精度な最新医療機器で、体内を確認してがんを見つけだす。
病院や人間ドック施設などの専門施設で受診可能な検査方法。
PET-CT
放射線薬剤を体内に投与し、特殊なカメラで撮影した画像で分析を行うPETと、臓器の形を画像化するX線CTを組み合わせてがんの部位や形態を特定する。一度に全身のがんを調べることができ、初期のがんを含めた発見率が高いのが特徴だ。また薬剤の集積量で良性か悪性かの推定も可能。他の検査で病巣が発見できない原発不明のがんの診断や、がんの転移、再発を調べるのに有力とされている。
超音波内視鏡(EUS)検査
先端に高解像度の超音波発生装置を備えた内視鏡を口から挿入する検査。胃壁や十二指腸壁にEUSをあて、消化管壁のすぐ向こう側にある膵臓や胆のう、胆管などを至近距離で観察する。通常の画像検査では診断が難しい詳細な構造が鮮明に写るため、10mm以下の早期がんや小さな病変などの検出に有効。多くの機関が鎮静薬を使用しており、15〜30分程度眠っている間に検査が終わる。
DWIBS(ドゥイブス)
全身のがんを調べることができる最新のMRI検査法。悪性腫瘍は細胞密度が高いということに着目し、細胞間の水の動きをもとに判定を行う。放射線を使用しないため被ばくせず、食事制限や薬剤の投与も不要。身体への負担が少ないのが特徴だ。検査にかかる時間は30分〜1時間程度。小さながんや部位によっては検出が難しいため、胃部検査や胸部CTなどとの併用受診をおすすめする。
※写真はイメージ
大腸内視鏡画像AI解析
6万8082枚の画像を用いて学習モデルを構築したAIが大腸の超拡大内視鏡画像を解析し、医師の診断の補助を行う内視鏡AI「EndoBRAIN」。大腸のポリープを見つけ、悪性に変わる可能性のある「腫瘍性」と、切除する必要のない「非腫瘍性」の判断を検査時にリアルタイムで出力する。試験の結果、正診率は98%。導入の件数は多くないが保険適用が認められ、比較的安価で受診ができる。
開発:サイバネットシステム株式会社、販売:オリンパス株式会社
※写真はイメージ
【体液を調べてがんを発見】
血液や尿を採取しそれを分析してがんを見つけだす。
自宅で検査が出来るものもあり、手軽で身体への負担が少ない検査方法。
マイクロRNA検査
細胞の中に存在するRNAという遺伝情報を解析することで、がんの種類を高い予測精度で判定する検査。尿や血液を1度採取するだけで様々な種類のがんリスクが検知可能。腫瘍などが見えない「ステージ0」レベルでも発見できる可能性がある最新の技術だ。自宅で採尿し検査機関に郵送する検査キット「マイシグナル」(53,900円(税込))も販売されており、手軽に精度の高い検査を受けることができる。
マイクロRNA検査キット「マイシグナル」(Craif株式会社)
詳細はこちら https://misignal.jp/
血中循環がん細胞(CTC)検査
がんの腫瘍が1.5~2㎜の大きさになった際に血液中に放出される血中循環がん細胞(CTC)を直接検出できる検査法。全身のがんの超早期発見、再発、転移の予見に有効と考えられている。1回の採血で、画像診断などでは存在が認められない細胞レベルの検出も行える。検査に3~4週間ほどかかり高額だが、CTCが検出された場合、解析により、がんの進行度や薬剤の適性などの確認にも有効。
アミノインデックス®️リスクスクリーニング
血液中のアミノ酸濃度バランスを解析。胃がんや前立腺がん、子宮・卵巣がんなど男性5種類、女性6種類について、現在がんである可能性を評価することができる。さらに脳卒中や糖尿病など生活習慣病の将来の発症リスクにも対応。全国約1500の医療機関で実施しており、検査結果に基づいた生活改善のアドバイスがもらえるため日常生活での対策が気になる方にもおすすめの検査だ。高リスク項目があった場合の詳しい検査については医師に相談が必要。
開発:味の素株式会社
線虫がん検査
嗅覚に優れた「線虫」が尿に含まれるがんのにおいに反応し、リスクを検知。自宅に届く検査キット「N-NOSE」で採尿し、指定の施設に提出または送付するだけで検査ができる。胃がんや大腸がん、肺がん、乳がんなど全身15種類のがんのリスクを調べることができ、ステージⅠの早期がんにも反応。リスク高の判定が出た場合は、今後の対応について専門スタッフによる案内がある。手軽にできるがんのリスク検査としての活用がおすすめだ。
線虫がん検査キット「N-NOSE」(株式会社HIROTSUバイオサイエンス)
詳細はこちらhttps://lp.n-nose.com/
※掲載した費用は編集部調べの目安です。実際の金額は受診する医療機関でご確認ください。
※各検査は医療機関により実施していない場合があります。受診の際は事前にご確認をお願いします。