それ以来、腸内細菌に着目した研究が進められ、その多様な働きと恩恵が明らかになりつつある。
腸活で腸内環境を整え、いつまでも健康な身体を手に入れよう。
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腸という体内のフロンティア
目に見えない細菌を味方に付ける
全身の健康や脳の働き、老化とも深く関わるという腸内環境。
その多様なメリットを得るには何をすればよいのか、再確認しよう。
PROFILE
AuB株式会社取締役兼研究統括責任者 冨士川凛太郎さん
サッカー元日本代表の鈴木啓太さんが代表取締役を務めるAuB株式会社の立ち上げから参画し現職に至る。
これまで45競技、1000人以上に及ぶアスリートの腸内細菌を研究し、その知見を生かしたサプリメントやサービスの開発にも取り組んでいる。
大切なのは腸内細菌の多様性
餌となる食物繊維の摂取も
私たちの腸内には、目に見えない細菌がひしめき、その数は約100兆個、約1000種類にも上るという。普段は意識することのない、これらの小さな生物が、身体のさまざまな不調や病気と関係することから、「腸活」が健康法の一つとして注目されるようになって久しい。一方、腸内細菌の研究は日進月歩で進んでいる。私たちはこれから腸活にどう取り組むべきなのか、アスリートの腸内細菌を研究するAuB株式会社の冨士川凛太郎さんに話を聞いた。
「腸活に関する情報は世の中にあふれていますが、私たち研究者の共通認識は、腸内細菌の種類の多さ=多様性が重要だということ。統計的に腸内細菌の多様性が低い人ほど、アレルギーや不眠など身体に何らかの不調が起きやすいことが分かっています」
日々の健康管理のためには、多種多様な細菌が棲む腸内環境を目指すことが肝心だ。加えて、細菌の餌となる食物繊維を積極的に摂ることも重要だと冨士川さんは強調する。
「酪酸菌やビフィズス菌といった有用な腸内細菌は、私たちが日々口にする食物繊維を食べ、増殖する過程でさまざまな代謝物をつくり出しています。腸内細菌が身体に与える良い影響の大半は、この腸内細菌の代謝物によるもので、代表格が短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸が腸内で増えると、腸壁の粘膜層を分厚くし、有害物質が体内に侵入するのを防いでくれます。また免疫細胞を刺激して活性化させる働きもあり、新型コロナウイルス感染症の重症化率とも関係があると考えられています」
感染症対策でも心強い味方となってくれるという腸内細菌だが、ただ放っておいては十分に力を発揮することはできない。発酵食品やサプリメントで援軍となる細菌を摂り込み、食物繊維で育てる。そのサイクルによって腸内細菌が活発に活動できる環境を整えることが腸活の目的であると冨士川さんは話す。
「例えば、ストレスを感じておなかが痛くなったり、便意をもよおしたりするように、腸内環境と脳は影響を及ぼし合っています。腸内環境を整えることは、日々のパフォーマンスを向上させる大きなカギになるわけです」
高パフォーマンスを支える
アスリートの腸内環境
それでは理想的な腸内環境とはどのような状態なのだろうか。日々過酷なトレーニングに耐え、大きなプレッシャーの中で最高のパフォーマンスと結果が求められるアスリートたちの腸内環境をヒントにしたい。
「これまで1000人以上のアスリートの腸内細菌を検査した結果、酪酸菌が一般人のおよそ2倍であることが分かりました(グラフ①)。同時に腸内細菌の種類が豊富なことも特徴です(グラフ②)。酪酸菌が多い理由は明らかになっていませんが、その特性からアスリートにとって有利に働いていることは間違いありません」と冨士川さん。
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グラフ①
アスリートと一般人の酪酸菌の量の比較高パフォーマンスを発揮するアスリートの腸内は、一般人と比較して酪酸菌の量は約2倍
出典:AuB株式会社 -
グラフ②
アスリートと一般人の腸内細菌の種類の比較アスリートは、より多様な菌が広範囲に広がっていることが分かる
酪酸菌がつくり出す酪酸は、免疫力のアップや持久力の向上、傷ついた筋肉の再生などに幅広く関わることが分かっており、活動的な人ほど積極的に増やしたい菌の一つだ。
「酪酸菌は多くの日本人の腸内に棲んでいますが、食品ではぬか漬けや豆腐ようなど、一部の食品にしか含まれていません。定期的にサプリメント等で補給し、その餌となる食物繊維を積極的に摂ることが酪酸菌を増やす近道です。体外から摂取した酪酸菌は、その後腸内に必ずしも定着するわけではありませんが、腸の中で身体の不調を引き起こす細菌の働きを抑え、良い細菌の刺激となります。元から腸内に棲む生え抜きの酪酸菌を育てることも大切ですが、体外から補充することで、腸内細菌全体を強くすることができます」
健康的な腸内環境を整え
老けない身体を目指す
腸活は日々の体調管理にとどまらず、老化の防止にも効果が期待できるという。その代表例は、加齢とともにリスクが高まる認知症だ。
「アルツハイマー型認知症の原因物質となるアミロイドβは、40代から徐々に脳内に蓄積されていくことが知られていますが、その過程に腸内細菌が関係することが分かっています。40代以降の腸内環境の良し悪しによって、認知症の発症リスクを下げることができるようになるかもしれません」
40〜50代は、加齢による不調が現れ始める年齢でもあるが、腸内でもビフィズス菌の減少という大きな転換点が訪れるのだという。この世代の腸活では、ヨーグルトやサプリメントから定期的にビフィズス菌を補うことが特に重要だと冨士川さんは話す。
「さらに近年の研究で注目されているのは、口腔環境と腸内細菌の関係です。歯周病菌が腸に流れ込んで棲み着いてしまうと、認知症や大腸がんのリスクが上がるという報告があり、定期的な歯科検診や丁寧な歯磨きで、歯周病を予防することも大切です」
また、腸内細菌と若返りの関係に着目した研究も盛んに行われているという。
「若いマウスの腸内細菌を年老いたマウスに移植したところ、若返ったという研究結果も挙がっています。腸内細菌をコントロールすることで、若々しい身体を保てる日も近いのかもしれません」
今日から実践! 腸が喜ぶ習慣5選
腸活は、毎日コツコツと続けることが大切だ。
日々の暮らしの中で気軽にできることから始めよう。
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1.発酵食品で腸内細菌を増やす
ヨーグルトや納豆、漬物などさまざまな発酵食品を摂ることで、腸内細菌の多様性を高めることができる。単にヨーグルトと言っても、同じ製品を食べ続けるのではなく、種菌の異なるヨーグルトを選ぶことを心掛けたい。ただしドリンクタイプの中には、多量の砂糖が含まれているものもあるため注意が必要だ。
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2.食物繊維で腸内細菌を育てる
摂取した食物繊維は腸内細菌の餌となり、免疫力アップや老化防止が期待できる短鎖脂肪酸をつくり出すエネルギー源となる。特に腸内で栄養が枯渇している朝に、食物繊維を摂るのがおすすめだ。緑黄色野菜や根菜、キノコ、海藻など、できるだけ多様な食品から食物繊維を摂ることを心掛けよう。
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3.体温を上げて腸内細菌を活性化
腸内細菌が最も活動的になる温度は37℃だという。身体が冷えやすい冬は特に、身体の熱を逃がさない服装を心掛け、毎日ぬるめの湯船にゆっくり浸かって芯から温まろう。おなかをピンポイントで温めるなら腹巻が有効だ。一日の中で最も体温の下がる朝に、白湯を飲むのもおすすめ。
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4.運動して筋肉量を増やす
運動によって体温が上昇するとともに、筋肉量が増えることで体温の源となる熱をより多く発生させることができる。また、運動時に発生する乳酸を再利用することで酪酸菌が増え、筋肉をつくりやすくなる可能性も示されている。筋トレと腸活を表裏一体として取り組むのがよいだろう。
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5.質の高い睡眠を取る
腸内細菌が活発になるのは、副交感神経が優位にあるとき。睡眠中はノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返すが、副交感神経活動が活発になるノンレム睡眠時は、腸内細菌にとってのゴールデンタイムだ。腸内環境を整えることで睡眠を促すホルモン・メラトニンの生成が活発になり、睡眠の質を上げることにもなる。
腸内細菌を可視化し
有用な細菌を増やす
腸内細菌が活発に代謝できる環境を整える秘訣として、冨士川さんは次の三つを挙げる。
①菌を摂る
②菌を育てる
③菌を守る
「食事やサプリメントから多様な細菌を摂り、食物繊維で育てる。さらに、歯周病菌などの悪い細菌や冷えから守ることで、理想的な腸内環境を保つことができます。日々の食生活や生活習慣の中で、腸内細菌に意識を向けてみてください。腸内環境に男女差はあまりありませんが、食生活などによって大きな差がつきます。新年会や歓送迎会など酒席が増える時期は、おつまみの選び方に工夫を。肉よりも魚、そして食物繊維の摂れる野菜をたくさん食べるようにすると良いでしょう」
また、便やおならは腸内環境を知る手がかりになるという。
「便やおならから卵の腐ったような匂いがする場合、タンパク質を摂り過ぎている可能性が高いです。このようなとき、腸内は硫黄系のガスや臓器に負担となる毒素を排出する細菌が優位となり、身体に良い細菌が劣勢の状態にあります」
便の形や色も現在の腸内環境をチェックする大きな指標だ。下記の「ブリストルスケール」を参考に、日々の便を目視し、腸の変化を見落とさないようにしよう。
昨今は腸内の目に見えない細菌を可視化できるサービスもある。これから腸活を始める人はもちろん、すでに取り組んでいる人も、自分の現在の腸内環境を知ることは腸活に大いに役立つだろう。
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ブリストルスケール(便の状態を判断する世界的な指標)
③~⑤のような黄褐色、バナナ状の便が理想だ。便秘や下痢の場合は、ヨーグルトなどの発酵食品や食物繊維、サプリメントを摂り、腸内環境を整えるビフィズス菌や酪酸菌などを増やすと良い
自分スタイルで腸と向き合おう
腸活に役立つサービス&アプリ
腸活は一日にしてならず。しかし、腸のことにまで気が回らない日もあるだろう。そんな忙しい人の強い味方となるサービスやスマホアプリが続々と登場している。ライフスタイルに合わせて取り入れれば、腸活を続けていく一助となるに違いない。
多種類の腸内細菌を
増やせるサプリメント
AuB
aub BASE aub GROW
各8,140円(税込)
酪酸菌や乳酸菌、ビフィズス菌など30種類以上の菌を配合した「BASE」と、50種類以上の食物由来の原料からなるマルチファイバーミックス「GROW」。お得な定期購入やセット商品も用意される。
AuB株式会社
腸内環境を分析し、
詳細なレポートを提供
AuB
BENTRE
2万2,000円(税込)
採便による腸内フローラ検査と3日間の食事記録、食生活・生活習慣のアンケートから、現在の腸内環境を分析。太りやすさや疲労・睡眠など7つの指標から評価し、最適なアドバイスを提供する。
AuB株式会社
自分の腸内細菌好みに
カスタマイズできるグラノーラ
カルビー
Body Granola
腸内フローラ検査キット1万780円(税込)、Body Granola3,780円(税込)/月+送料
採便してポスト投函し、腸内細菌のバランスをチェック。その結果に応じて、自分の腸内細菌好みにカスタマイズしたグラノーラ(1 ヶ月分20食)を届けてくれるサービス。ドライフルーツたっぷり&サクサク食感のグラノーラには、細菌の餌となる素材を配合。おいしく腸活を続けたい人におすすめだ。
カルビー株式会社
自宅でできる
腸内フローラ検査キット
サイキンソー
Mykinso
1万9,800円(税込)
自宅で便を採取してポストに投函するだけで、腸内細菌のバランスや主要な細菌の割合など、詳細な腸内環境を報告してくれるサービス。累計検体数10万件以上の豊富なデータから、腸活に役立つコンテンツやレシピも提供。
株式会社サイキンソー
腸内環境を
スマホでモニタリング
腸note
サントリー独自のAI 技術により、腸の音から腸内環境を可視化できる世界初のスマホアプリ。スマホを60秒おなかに当てるだけで簡単に腸の状態が把握でき、日々の変化も記録できる。AIによる最適な腸活アドバイスも。
※iOS14以降のiPhoneのみ対応
サントリーホールディングス株式会社
iPhone : App Store
毎日の観便で
腸内環境をチェック
ウンログ
ウンログ株式会社による腸活アプリ。便の形や色、量などを選択式で記録することで、日々の腸内環境のコンディションが分かる。便の傾向から、おすすめの腸活食材や商品を紹介してくれる。
※Android、iPhoneに対応
ウンログ株式会社
iPhone : App Store
Android : Google Play