TOP MAGAZINE特集 花火大会を楽しみ尽くす

花火大会を楽しみ尽くす

大空に咲き誇る打ち上げ花火は、いつの時代も人々の胸を打ち、その魅力は時を超えて受け継がれ、磨き上げられてきた。
この夏、あなたの花火体験がさらに素晴らしいものとなるよう、花火の知識と造詣を深めてみてはどうだろう。
種類を見分けられればその光景はより豊かに感じられ、歴史を知れば感慨も一段と増すはず。
本特集では、より充実した鑑賞をするための情報とともに、花火鑑賞の達人が教える注目の花火大会も紹介する。

Text_ENO. 協力:公益社団法人 日本煙火協会

花火を知れば花火大会はもっと楽しくなる

まずは日本の花火鑑賞の歴史、打ち上げ花火の種類や玉のサイズなどの基本情報を押さえよう!

江戸時代に生まれ、今なお進化を続ける打ち上げ花火

日本での花火の始まりには諸説あり、1589年に米沢城で伊達政宗が、1613年に駿府城で徳川家康が花火を鑑賞したという記録が残っている。空に打ち上げる花火としては、1628年に天海僧正と浅草寺の僧侶が、京都から来た僧侶をもてなすために隅田川に船を出し、披露したのが最初と言われている。

その後、手持ちの花火が江戸庶民に大流行。火災が多発したため、幕府は江戸市中での使用を禁じ、隅田川河口付近での船上花火のみ許した。17世紀には新設された両国橋周辺で花火が打ち上げられ、この地は花火の名所として有名になった。

19世紀には打ち上げ花火の技術が発達。その様子は数々の浮世絵にも描かれた。鍵屋弥兵衛と玉屋市郎兵衛は当時活躍した花火師で、定番の掛け声「かぎやー」「たまやー」として現代にも名を馳せている。

明治時代になると海外からさまざまな薬剤が輸入され、橙色一色だった打ち上げ花火はカラフルに進化。以降新たな薬剤の登場とともに、花火の技術は飛躍的に向上していった。

今日では、光の色が時間差で変化するなど見応えも向上し、またコンピューター制御によって花火と音楽をシンクロさせるなど演出方法もアップデート。花火師たちは絶え間なく、人々を魅了する作品の開発に知恵と情熱を注ぎ続けている。

  • 江戸時代に隅田川(両国)で花火を楽しむ人々を描いた「東都両国夕涼之図」

    江戸時代に隅田川(両国)で花火を楽しむ人々を描いた「東都両国夕涼之図」(出典:国立国会図書館「錦絵でたのしむ江戸の名所」)

  • 繊細さが求められる花火の製作は、現在もほとんどの工程が手作業で行われている

    繊細さが求められる花火の製作は、現在もほとんどの工程が手作業で行われている

打ち上げ花火の種類

打ち上げ花火は「割物」「ポカ物」「半割物」の3タイプに分類でき、その一つひとつに「菊」や「牡丹」といった玉名(花火の名前)がある。代表的な打ち上げ花火の玉名を知り、空に花開いた姿を見て種類がわかるようになれば、鑑賞の楽しみはさらに増すはず。

【 割物 】
花火玉が破裂することで、「星」と呼ばれる花火の火薬が四方八方に飛び散り、球状に開花するタイプ。

  • 【菊】星が光の尾を引きながら、中心から放射状に広がっていく

    【菊】
    星が光の尾を引きながら、中心から放射状に広がっていく。

  • 【牡丹】菊のように放射状に広がるが、尾は引かず、光の点が飛び散る

    【牡丹】
    菊のように放射状に広がるが、尾は引かず、光の点が飛び散る。

                

  • 【椰子】太い光の尾が広がることで、ヤシの木のように見える。

    【椰子】
    太い光の尾が広がることで、ヤシの木のように見える。

  • 【型物】平面状または立体的に開き、笑顔やハートなどの絵柄になる。

    【型物】
    平面状または立体的に開き、笑顔やハートなどの絵柄になる。

【ポカ物】
空中でくす玉のようにポカッと割れ、中身の星を放出するタイプ。

  • 【 柳 】星が尾を引いて流れ落ちる。尾が細いものは「細柳」「糸柳」とも。

    【柳】
    星が尾を引いて流れ落ちる。尾が細いものは「細柳」「糸柳」とも。

  • 【 蜂 】星がブルルンと音を発しながら不規則に回転し、蜂のように飛び回る。

    【蜂】
    星がブルルンと音を発しながら不規則に回転し、蜂のように飛び回る。

  • 【花雷】雷のような大きな音をバンバンと響かせながら、白い花のように開く。

    【花雷】
    雷のような大きな音をバンバンと響かせながら、白い花のように開く。

【半割物】
割物とポカ物の中間にあたるタイプ。

  • 【千輪菊】大きな花火玉の中に小さな花火玉が多数セットされ、破裂した後、時間差で小さな火の花が一斉に開き満開になる。

    【千輪菊】

  • 【千輪菊の花火玉】

    千輪菊の花火玉

大きな花火玉の中に小さな花火玉が多数セットされ、破裂した後、時間差で小さな火の花が一斉に開き満開になる。

玉のサイズと花火の高度・直径

打ち上げ花火の玉のサイズは、2.5号玉から40号玉までさまざま。サイズによって花火が開く高度とその直径も異なってくる。都市部では安全性の問題から大玉の打ち上げが難しいため、10号玉(尺玉)以上を鑑賞するなら地方の広大な会場で行われる花火大会がおすすめだ。

  • 「二ノ蔵」は、平屋の⼤空間と蔵ならではの雰囲気が醍醐味

美しい打ち上げ花火のポイント

花火師たちは美しい花火で私たちを感動させるため、「玉の座り」「盆」「肩」「消え口」という4つのポイントにこだわって花火を仕込んでいる。鑑賞する際には、これらを意識してみよう。

  • 玉の座り

    花火が開くタイミングのこと。打ち上げられ、最高点で静止した瞬間に開くことを「玉の座りがよい」といい、花火も理想的な形に開きやすい。

  • 花火が開いた状態のこと。大きくて形が整っていると「盆がよい」とされ、大きさが不十分だったり歪んでいたりすると「盆がよくない」とされる。

  • 中心から広がる光の筋のこと。全方向に偏りなく放射線状に伸びれば「肩のはりがよい」と評され、筋が出ない部分があると「星が抜けた」と言われる。

  • 消え口

    花火の消え方のこと。全ての光が一斉にぱっと消えることを「消え口がそろった」と表現し、引き締まった印象を与えるため理想的とされている。

花火鑑賞士・石井孝子さんに聞く
2024年の注目花火大会 3選

花火を愛し、その魅力を発信する「花火鑑賞士」として、個性的な花火大会を開催したり、芸術作品としての花火を映像に残したりと、精力的な活動を続ける石井孝子さん。まさに“花火を楽しむスペシャリスト”である石井さんに、今年最注目のおすすめ花火大会と、ワンランク上の花火体験をするための心得を伝授してもらった。

※花火大会は悪天候などにより延期・中止になる場合があります。また、開始・終了時刻は予定であり、変更になる場合があります。詳細や最新情報はHPで確認を。

PROFILE

花火鑑賞士 石井孝子さん
花火鑑賞士 石井孝子

2004年、NPO法人大曲花火倶楽部が認定する「花火鑑賞士」の資格を取得。花火普及のために活動し、年間60 ~80の花火大会を観覧する。「いせはら芸術花火大会」(神奈川県)、「ISOGAI花火劇場in名古屋港」(愛知県)、「The絶景花火 Mt.Fuji」(山梨県)では実行委員として大会を開催。バヤ企画代表として花火大会の映像撮影、編集なども手掛ける。一般社団法人 日本のはなび振興協会 理事。

7/20(土)
2024 岡山国際サーキット花火大会produced by 磯谷煙火店

革新的な花火を手掛けることで人気の磯谷煙火店とのコラボで2023年にスタートし、今年で2回目を迎える新進気鋭のイベント。映画音楽などのサウンドに合わせて夜空が色とりどりに染まる「メロディー花火」などを予定。

岡山国際サーキット花火大会

石井さんのおすすめポイント

このサーキットは、花火にぴったりなロケーションです。その広大さを生かし、複数の場所から同時に打ち上げる演出には驚かされました。花火の音が、高さのある客席に反響して迫力満点なのもたまりません。最初から最後までずっとクライマックスのような盛り上がりです。私自身、花火大会に関わる立場として初めて「悔しいくらいスゴイ!」と感じた大会です。

2024 岡山国際サーキット花火大会

時間: 19:45~20:45
場所: 岡山国際サーキット(岡山県美作市滝宮1210)
電話: 0868-74-3311(岡山国際サーキット)

8/31(土)
大曲の花火 第96回 全国花火競技大会

1910(明治43)年に諏訪神社の祭典の余興として始まり、現在では“日本最高峰の花火競技大会”として知られる。「昼花火」「創造花火」など4部門で全国の花火師が技を競い、総合優勝者には内閣総理大臣賞が授与される。

大曲の花火

石井さんのおすすめポイント

全国で最も権威のある競技大会で、28の花火会社が出場します。5年に1度“入れ替え”があるため各社必死で取り組みます。部門によっては高い技術力が必要な大玉で3層以上に広がる花火の出品が必須となるなどエントリー条件も厳しく、日本一ハイレベルな花火メーカーの戦いが見られます。昼花火が楽しめる点もポイント。

大曲の花火 第96回 全国花火競技大会

時間: 昼花火17:10~18:00、夜花火18:50~21:30
場所: 「大曲の花火」公園(秋田県大仙市大曲雄物川河畔)
電話: 0187-88-8073(実行委員会)

10/19(土)
~八代亜紀さんありがとう~第37回 やつしろ全国花火競技大会

西日本を代表する花火競技大会。「10号玉の部」「5号玉の部」「スターマインの部」の3部門で、全国30の花火会社(うち九州から9社)が鎬(しのぎ)を削る。オープニングと中盤、フィナーレを飾るスターマインも必見。

やつしろ全国花火競技大会

石井さんのおすすめポイント

10月開催ということもあり、「大曲の花火」をはじめとする夏の競技大会に出品された花火の改良版や、翌年に向けた試作品など、他の大会では見ることのできないユニークな作品が打ち上げられます。花火大会としての実力もさることながら、九州の美食が勢ぞろいする昼の物産展が充実していてイベントとしても大変盛り上がるので、ぜひ旅行気分で体験を。

~八代亜紀さんありがとう~第37回 やつしろ全国花火競技大会

時間: 18:00~20:30
場所: 八代市球磨川河川緑地(熊本県八代市渡町1303)
電話: 0965-33-4132(実行委員会)

ワンポイントアドバイス

プログラムを事前にチェック

大会によっては一番の見どころを大トリではなく中盤に持ってくるといったこともあり、見逃してしまった……という話をよく聞きます。ホームページやプログラムで事前に見どころをチェックして、確実に楽しめるようにスケジュール調整をして出かけるようにしましょう。

有料席だけの感動を味わおう

有料席は鑑賞にベストな場所に設定されるので、花火との距離が近く、花火が開く瞬間に時間差なしで轟音を浴びる体験は感涙レベルです。また、音楽に合わせた演出でスピーカーが有料席にしかない場合もあります。価格は3,000 ~5,000円程の大会が多く、数万円の席を用意する大会もあります。

  • 有料席

時間に余裕をもって行動を

大会当日は混雑するため、移動時間が何倍もかかることを想定し、余裕をもって行動しましょう。せっかく有料席を確保したのに混雑がひどくて辿り着けず……といったことも考えられます。また遠方の大会に出かける場合は、ホテルや鉄道、飛行機などの事前確保を忘れずに。

  • 人混み

好みの花火会社を知ろう

花火は作る会社や花火師によって個性があります。中にはファンクラブを持つ会社もあるほどです。自分好みの花火を見つけたければ、競技大会がおすすめ。たくさんの花火会社が出場し、打ち上げ前に会社名がアナウンスされるので、好みの会社を知るのにぴったりです。

石井さんおすすめアイテム

凍らせたペットボトル

夏の大会では保冷剤として、身体をクールダウンさせるのにも役立ちます。会場付近のコンビニや自販機の飲み物はまず完売すると考えて、事前に用意すると便利です。

レインコート

花火大会のシーズンは夕立も多いし、夜にぐっと気温が下がることも。レインコートを1人1着持っていれば、雨にも寒さにも対応できます。

大容量のポリ袋

雨が降ってきたら90 ~120Lのポリ袋を取り出し、荷物を全部入れてしまいましょう。地面に敷いたり、羽織ったりと、何かと重宝しますよ。

※2024年7月2日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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