TOP MAGAZINE特集 もっと自由に、もっと身近に 新世代JAZZに注目

もっと自由に、もっと身近に
新世代JAZZに注目

発行: 最終更新日:
100年以上前のアメリカニューオリンズにて、
黒人コミュニティから発生したといわれる音楽、ジャズ。
その後時代とともに様々な環境やムーブメントと結びつき、発展を遂げてきた。
そんな長い歴史を持つ音楽に今、新風が巻き起こっている。
今回はその最重要アーティスト10人を紹介しよう。

Edit&Word_effect.
association&text(P00)HITOSHI KURIMOTO.
SPECIAL THANKS_Billboard Live TOKYO

ボーダレスで自由! 新しい感覚のジャズ

一昔前まではジャズというと難しい顔をして聴く音楽であり、門外漢が語ろうものなら「ジャズの何がわかるんだ!」と一喝されるような敷居の高さがあった。しかし、ここ十数年、言い換えればグラミー賞を席巻したロバート・グラスパーの『BLACK RADIO』登場以降は、ジャズは新しい扉を開く魅力的なものとして、音楽ファンに認識されているといっていいだろう。その理由としては、やはり様々なジャンルとの融合による独自のセンスを持つミュージシャンが一気に現れたからだ。彼らはバークリー音楽大学などでアカデミックな教育を受けながらも、オーセンティックなジャズと同じように、R&Bやヒップホップやテクノに接してきた世代である。よって、先達が築いてきたジャズのセオリーを尊重しながらも、そこに縛られることなく、先入観のない自由な発想で新しいジャズを作り出すことができるのだ。さらに言えば、人種や国境も関係なく、どこからでもとんでもない才能が誕生するような状況にある。ベースを弾きつつ歌うエスペランサ・スポルディングから、敢えて王道を目指すサマラ・ジョイ、ビッグバンドを自由に操る挾間美帆まで編成やスタイルは様々だが、新しい感覚でジャズに挑む姿勢は共通。難しく考えることなく、まずは新世代ジャズの世界に気軽に飛び込んで、最先端の刺激的な音楽を浴びてみてはどうだろうか。

Samara Joy/サマラ・ジョイ

● アメリカ
● ヴォーカル

サマラ・ジョイ

音楽業界で話題騒然
20代の若きクイーン

新しい手法やテクノロジーによって進化するジャズ界において、敢えてオールドスクールジャズに光をあてる感性と、圧倒的な歌唱力、表現力で存在感を放つ彼女。古いスタンダードナンバーから現代のリスナーにも響く楽曲を選出し、新たな解釈で表現するというスタイルが多くのファンを魅力する。2019年、弱冠20歳という若さで「サラ・ヴォーン国際ジャズ・ヴォーカル・コンペティション」にて優勝し、2023年のグラミー賞では最優秀新人賞と最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞をダブル受賞。メジャーデビューの翌年、わずか23歳でこの偉業を成し遂げた超新星の登場に、ジャズ界はもちろん、音楽界が騒然となった。NYブロンクスのゴスペル一家に生まれ、クラシック、ジャズの声楽を学んだ彼女の歌声は「ヴェルヴェットのような」「カスタードのようにリッチな」と形容される。TikTokやYouTubeでもその魅惑の歌声を惜しみなく披露し、注目度を高めている。古典的なジャズファンだけでなく若者の心も惹きつける、新世代ジャズヴォーカリスト最注目の存在だ。

サマラ・ジョイ

Portrait

2024年10月11日発売/3,080円

クラシック、コンテンポラリーの要素を併せ持つ最新作。美声はもちろん1年のツアーで磨いたバンドとのセッション感も心地いい。

©AB+DM

Kamasi Washington/カマシ・ワシントン

● アメリカ
● サックス

カマシ・ワシントン

ジャズをより進化させる
次世代のカリスマ

ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターなどジャズ界のレジェンドたち、またローリン・ヒルやスヌープ・ドッグといったビッグアーティストとステージを共にし、若くして幅広いジャンルのスターたちから寵愛を受けてきた新世代ジャズ界のカリスマ。同じくテナーサックス奏者であるリッキー・ワシントンを父に持ち、母親もフルート奏者という音楽一家に生まれ、幼少の頃からクオリティーの高い音楽と共に成長してきた。そんな彼がリリースする音源からは、アンビエント、スピリチュアル、ダンスミュージックなどのニュアンスが散りばめられており、近代ジャズをさらに進化させる可能性に満ち溢れている。

カマシ・ワシントン

THE EPIC

2015年5月16日発売/2,750円

総勢60名のLAジャズアーティストが参加した圧巻のデビューアルバム。ジャズ界の巨匠たちが喝采する170分を超える超大作だ。

©Vincent Haycock

Esperanza Spalding/エスペランサ・スポルディング

● アメリカ
● ベース・ヴォーカル・作曲

エスペランサ・スポルディング

5度のグラミーに輝く音楽芸術の探求者

華やかかつ繊細なベースの演奏と、高音域をしなやかに歌う独特の歌声でリスナーの心に魔法をかけるインストゥルメンタリスト。作曲家としても独創的な感性に富んでおり、ジャズを軸にブラジル音楽、ヒップホップ、ヒーリングミュージックなど様々な音楽の要素を取り入れつつ表情豊かな楽曲を生み出す。2011年にジャスティン・ビーバーを抑えてグラミー賞最優秀新人賞を獲得するという、ジャズアーティストとして一大センセーションを巻き起こして以来、現在では通算5度のグラミー賞を受賞。その活動は音楽だけに留まらず、自身が設立したダンスカンパニーでパフォーマンス、ワークショップなどの指導も行っている。

エスペランサ・スポルディング

12 LITTLE SPELLS

2019年5月10日発売/2,750円

毎日1つのスペル(呪文)にちなんだ新曲とそのPVを12日連続で公開したプロジェクトを音源化。本作のために新曲4曲も追加された。

©Holly Andres

Robert Glasper/ロバート・グラスパー

● アメリカ
● ピアノ

ロバート・グラスパー

様々な音楽と共鳴する新世代ジャズの開拓者

彼が新世代ジャズの第一人者として挙げられるのは、古い価値観に囚われず、R&Bやヒップホップなど様々なジャンルの音楽とジャズの美しい相互関係を構築してきたのが最大の理由だろう。「ジャズを取り入れる」「ジャズに取り入れる」ではなく、彼が参加する音楽はより自然にジャズと結びつき、新しいサウンドとして昇華される。そんな彼の最も重要な音源のひとつが『BLACK RADIO』だ。ビラルやエリカ・バドゥなど個性的なシンガーが集ったこの1枚はグラミー賞最優秀R&Bアルバム賞を獲得し、ジャズとR&Bの親和性を示した。その後も信頼できるアーティストたちと手を取りフルスイングでジャズの持つ自由さを発信し続けている。

ロバート・グラスパー

BLACK RADIO Ⅲ

2022年2月25日発売/2,860円

閉塞感漂うコロナ禍で制作され最優秀R&Bアルバム賞で5度目のグラミーを獲得。最高傑作の誉れ高い『BLACK RADIO』の第3弾。

©Mancy Gant

Nubya Garcia/ヌバイア・ガルシア

● イギリス
● サックス・フルート

ヌバイア・ガルシア

UKジャズを変革に導く
サックス奏者の筆頭

後ほど紹介するエズラ・コレクティヴとともにイギリスのジャズシーンを牽引するサックス奏者。昨年は「ロンドン・ブリュー」というイギリスを代表するジャズミュージシャン12人からなるプロジェクトにも参加し、世界的賞賛を浴びた。ロンドンで育った彼女は、幼少期からサックスやヴァイオリン、クラシックやダンスミュージックなど多様な楽器とジャンルを学習。ジャズにダブなど別ジャンルを融合させた新たな表現でファンを虜にしている。

ヌバイア・ガルシア

ODYSSEY

2024年9月20日発売/3,080円

人生の紆余曲折にインスパイアされた野心的な最新アルバム。ジャズ、R&Bなどを融合させたオリジナリティあふれる世界が広がる。

©Danika Lawrence

Makaya McCraven/マカヤ・マクレイヴン

● フランス
● ドラム

マカヤ・マクレイヴン

新たなサウンドを生む
サンプリングの魔術師

ジャズ界のレジェンド、アーチー・シェップのもとで活動した父を持ち、少年時代から音楽活動を始めたマカヤ・マクレイヴン。多くのジャズ、ヒップホップ系ユニットに在籍し、ドラマーとプロデューサーの双方で活動する。ともに現代ジャズ屈指の実力を持ち、特にサンプリングやリミックスでは数々の新たなサウンドを生み出してきた。生音と電子音を融合させ、良質なジャズに仕上げるセンスは唯一無二で、ファンからはビート・サイエンティストと称される。

マカヤ・マクレイヴン

IN THESE TIMES

2022年9月23日発売/2,420円

自身の体験や文化的闘争からインスピレーションを受けて制作。リズムと時間をコンセプトに異なるテンポが同時に進行する名盤。

©Sulyiman Stokes

Miho Hazama/挾間美帆

● 日本
● 作曲

挾間美帆

世界最先端の音を束ねる
日本人作曲家

昨年公開され、新たなジャズファンを生み出した映画『BLUE GIANT』の劇伴に参加したことでも話題に。ニューヨークを拠点に活躍を続けるジャズ作曲家で、2016年にはアメリカのジャズ専門誌「ダウンビート」の「未来を担う25人のジャズアーティスト」にアジア人でただ1人選ばれた。活動の中心は指揮を務めるジャズ室内楽団「m_unit」。通常のビッグバンドとはちがう華やかなサウンドで業界の演奏者にも影響を与えている。

挾間美帆

beyond orbits

2023年9月13日発売/3,300円

アンサンブルによる壮大なスケールでの演奏がスリルや迫力などの体感を生む濃密な内容。ストーリー性のあるアルバムの曲構成も魅力。

©Dave Stapleton

Ezra Collective/エズラ・コレクティヴ

● イギリス
● グループ

エズラ・コレクティヴ

新世代クインテットでUKジャズを輝かせる

ジャズを軸に、レゲエやグライムなどの要素をシームレスに融合させた音楽でファンを魅了し、2023年には最も優れたアルバムに贈られる「マーキュリー・ミュージック・プライズ」をジャズアーティストで初めて受賞。近年のUKジャズシーンをリードするバンドだ。ドラム、ベース、キーボード、サックス、トランペットの5人からなり、イギリスの音楽教育機関「トゥモローズ・ウォリアーズ」での出会いから結成された。

エズラ・コレクティヴ

DANCE,NO ONE’S WATCHING

2024年9月27日発売/3,080円

神聖なダンスやリズムの賛歌がテーマの3rdアルバム。アフリカ音楽の要素を加えたダンサブルなサウンド。小品も含めて全19曲収録。

©YOUT

José James/ホセ・ジェイムズ

● アメリカ
● ヴォーカル

ホセ・ジェイムズ

歴史を変えた美声を持つジャズ界の紫金石

世界的DJジャイルス・ピーターソンに「15年に1人の逸材」と惚れ込まれ、彼がオーナーを務めるレーベルと契約を結ぶ。デビューアルバム『ザ・ドリーマー』で世界中のジャズヒットチャートを総なめにした歌声は、「官能的」と表現されるほど深みがあり、男性ジャズヴォーカルの歴史を塗り替えた美声と評されている。また、インディーロックへのシフトやトラップビートを導入するなど、意欲的に変化を求める一面も併せ持つ。

ホセ・ジェイムズ

1978

2024年4月5日発売/2,750円

ホセのバンドメンバーに加え、ブラジルの新星シェニア・フランサなどが参加。自身の生誕年をタイトルとした今年リリースの最新作。

©Janette Beckman

Julian Lage/ジュリアン・ラージ

● アメリカ
● ギター

ジュリアン・ラージ

伝説の幕開けから30年
第一線をひた走る鬼才

現代ジャズギターの最高峰との呼び声も高い彼は、5歳でギターを始め、12歳の時にはグラミー賞授賞式で演奏を行うなど神童として注目を集めた。以降も精力的に活動し続け、2021年には名門ジャズレーベルのブルーノートと契約。昨年の来日公演では全セットが即完し、話題になった。近年はフォークやゴスペルなどルーツ・ミュージックの要素を加えた独自の音楽作りに勤しみ、ハービー・ハンコックをはじめ、業界の重要人物たちからも支持されている。

ジュリアン・ラージ

SPEAK TO ME

2024年3月15日発売/2,860円

ジュリアンによる全曲書き下ろし。リリカルなメロディといったトレードマークとゴスペルなどの要素を組んだ新たな響きを楽しめる。

©Alysse Gafkjen

※2024年12月3日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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